フリマアプリで増加する偽造品トラブル。その対策として国内最大の真贋鑑定施設が公開されました。X線透過やプロ鑑定士によるチェック体制、すり替えや返品問題にどう立ち向かうのか？便利さの裏に潜む「見えない努力」に迫ります。

フリマ偽造品の闇
巨大鑑定施設公開へ

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ネット上での“お得な掘り出し物”──それは時に、思わぬ罠にもなりうる。
偽物だった。届かなかった。返品された品がすり替えられていた──。
そんな不安に揺れる利用者の声を受け、いま「真贋を見抜く砦」が静かに稼働を始めている。

なぜ偽造品トラブルが急増しているのか？

「届いたバッグ、微妙に縫い目が違う気がして…」。
そんな違和感から始まるトラブルが、いま全国で増えている。
ブランド品を中心に、フリマアプリ上での偽造品被害は年々深刻さを増しており、
消費生活センターへの相談件数はこの10年で約20倍に跳ね上がった。

個人間取引の気軽さと裏腹に、「本物だと信じたい気持ち」や「少しでも安く手に入れたい心理」が、
ときに冷静な判断力を鈍らせてしまう。
それを狙うように、見た目だけは完璧な“精巧な偽物”が次々と出回るようになったのだ。

近年では、偽造品の“質”も変わってきている。
「まさかこの価格で本物が買えるなんて」──そんな淡い期待が、見抜けなかった敗因になる。
高精細な印刷技術や素材の再現、さらには重さまで合わせる巧妙な手口。
「個人の目利き」だけでは、もはや限界があることを社会全体が認め始めていた。

都内の一角、白を基調にした広い室内。
無数の段ボールがベルトコンベアに乗せられ、静かに流れていく。
その横では、白衣をまとった鑑定士たちが手袋越しに一品一品をじっくり観察していた。
そこには、ただの作業ではなく「この品を誰かが信じて買う」という重みがあった。

この施設では、1日に数千点の出品物が集まり、100人以上のプロ鑑定士がチェックを行っている。
X線透過装置が発する淡い光が、バッグの内側を静かに映し出し、
正規品にだけある“隠し縫い”や“素材の密度”までも判定する。

ユーザー出品
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出品物が鑑定施設に到着
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プロ鑑定士によるチェック
＋X線・画像解析の実施
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真贋判定：本物／偽物
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【本物】→そのまま取引へ
【偽物】→出品停止・警告処理

「偽造技術の進化もまた、恐ろしいものです」と語るのは、SODA執行役員の安部正輝氏。
声には少しの疲れと、それでも守らなければならないという責任感がにじんでいた。

「我々が守っているのは商品ではなく、“安心して買うという体験”なんです」
その言葉の通り、この施設は“安心”を形にする装置とも言える。
だが同時に、それだけでは終われないというジレンマもある。

高度な鑑定体制を整えたとしても、“人の心の揺れ”までは読み取れない。
たとえば返品を装ったすり替え、偽物と本物を巧妙に混ぜた詐欺──。
後工程に潜むリスクは、むしろ鑑定後にこそ色濃く残る。

また、鑑定対象となるのは一部のカテゴリーに限られており、
生活雑貨や小物といった商品の大半は未検証のままだ。
つまり、「安心です」と言い切るには、まだ少し距離があるのだ。

人は、“誰かが見ていてくれる”と感じた瞬間に、安心する。
だがその安心が、思考停止へと変わるとき、制度は鈍化し、詐欺は活性化する。
安心とは“与えられるもの”ではなく、“互いに育てるもの”なのだと。
私たちは本当に、それを分かっているだろうか。