ラーメンチェーン「天下一品」で都心型店舗の閉店が相次ぎ、SNSでは「#天一閉店」「#天一ロス」が話題に。売上は堅調ながらも、原価率の高さ・高賃料・現金決済の限界が重なり、つけ麺業態への置き換えが進む現実とは。こってり文化が直面する時代の分岐点を解説。
天下一品が次々閉店
背景に高原価?
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「こってり」の代名詞として全国に知られたラーメンチェーン・天下一品。その閉店情報がSNSで相次いで報告され、X(旧Twitter)では「#天一閉店」「#天一ロス」がトレンド入り。学生時代の思い出の味、深夜の癒し――多くの人にとって「天一」は、ただのラーメン屋ではなかった。その背後で今、何が起きているのか。
✅ 見出し | ▶ 要点 |
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閉店ラッシュ | 新宿・渋谷など都心型店舗で一斉閉店が進行中 |
原価圧迫 | こってりスープの高コストが経営の足枷に |
家賃高騰 | 一等地特有の賃料負担が赤字を誘発 |
現金決済のみ | 若年層・訪日客の離反要因に |
なぜ天下一品の閉店が続いているのか?
どの店舗で何が起きたのか?
SNSで広がる「閉店ラッシュ」の波。2025年6月末には新宿西口店、渋谷店といった都心一等地の店舗が軒並み閉店予定とされ、Xでは「まさかあの天一が…」と驚きと悲しみの投稿が続いている。閉店告知を写した店頭写真とともに、「学生の頃ここで語った」「深夜バイト後の定番だった」など、記憶と結びついた言葉が溢れている。
本当の閉店理由は?
一見すると経営難に見えるこの事象だが、実は2023年のグループ売上高は115億円超と、過去より伸びている。ではなぜ閉めるのか。その最大要因は、「原価率の高さ」だ。天下一品のこってりスープは、鶏ガラと野菜を長時間炊き込む特殊製法で知られ、単価に対する原価負担が大きい。味の再現性も困難で、手間を省いた「効率型」の運営とは真逆の構造を持つ。
さらに、人件費や物流費、調味料などの価格高騰により、各店舗のコストは限界に達しつつある。こうした環境下で、特にフランチャイズ店舗は「高品質の維持=高コストの継続」という矛盾に直面し、閉店を選ばざるを得ないケースが急増している。
①原価率の高さ ②一等地の賃料 ③キャッシュレス未対応
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原価率の高さ
「こってり」スープは手間も原価も2倍以上。一般的なラーメンと比較してもスープ原材料が高く、原価率は業界平均を上回る。 -
一等地の賃料問題
新宿や渋谷といった都心店舗では、月の家賃が100万円を超える例もある。人流が回復しきらないエリアでは、売上とのバランスが成り立たない。 -
現金決済のみ対応
キャッシュレス社会において「現金のみ」は機会損失。若年層や訪日客が店舗を敬遠する要因になっている。
売上は悪くないのに、なぜ?
実際、天一グループの売上高は2022年度が約95億円、2023年度で115億円と右肩上がりだ。コロナ禍ではテイクアウトや冷凍商品の強化で乗り切った。しかしそれは「全体」としての数字であって、各店舗が安定経営できているかは別問題である。
都心型店舗は高原価・高人件費・高家賃の“トリプルリスク”にさらされ、売上が少しでも鈍化すれば赤字転落の可能性がある。とくに観光依存・オフィス依存が強いエリアでは、従来の売上モデルが機能しなくなってきている。
過去の拡大戦略とブランドの誤算
2000年代以降、天下一品は「地方のこってり文化」を全国展開し、最大で234店舗を展開するまでに成長した。しかし、都心部への過度な集中出店は、地代の高騰・スタッフ確保の困難・原材料調達の非効率といった都市型特有の課題を内包していた。
ブランドとしての唯一性が通用する時代から、「選ばれる飲食店」へとシフトが進む今、かつての拡大戦略は大きな“構造の歪み”として露呈している。
✅ SNSの反応に見える“構造疲弊”
Xでは「なんで天一が…」「天一ロスで生きる意味がない」など、閉店報道に過剰なまでの感情が寄せられているが、これは裏返せば“思い出化”していたことの証左でもある。日常的に通う人が減り、記憶に残る人だけが声を上げる――そのバランスの崩れが、いま「ロス」として表出しているとも言える。
経営側はこの声をどう受け止めるか。味や文化の継承と、事業モデルの見直し。この相反するテーマをどう接続するかが問われている。
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SNS投稿の多くが「懐古的」な内容に傾いている
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売上データとエモーションの乖離が見える
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ブランドへの共感≠継続的な消費行動という構造矛盾
比較項目 | 天下一品 | 三田製麺所(代表例) |
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主力商品 | こってりラーメン | つけ麺 |
スープ原価 | 高い(鶏ガラ+野菜煮込み) | 低め(温め直し可能) |
調理工程 | 多工程・手作業多 | 簡略・再加熱中心 |
回転率 | 低め(滞在時間長い) | 高め(食後即退店多) |
店舗運営負荷 | 高い | 低い(人材教育短縮可) |
✅ 見出し | ▶ 要点 |
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業態転換の現実 | 天下一品跡地につけ麺チェーンが進出 |
つけ麺の経営優位 | 原価率・回転率・人材コストで有利 |
モデル転換の波 | 都市型店舗で“高効率業態”が急増 |
消費者ニーズの変化 | 「安くて満足」が最優先の時代に |
なぜ「つけ麺」が代わりに選ばれているのか?
つけ麺業態の特徴と原価構造
天下一品の跡地に、つけ麺チェーン「三田製麺所」が進出する例が相次いでいる。実はこの2ブランドを扱うフランチャイジーが共通であることが、その理由だ。しかし、これは単なる運営会社の判断ではない。つけ麺という業態が、構造的に「今の時代に合っている」ことが大きい。
つけ麺はスープを温め直せば済むため、回転率が高く、提供スピードも早い。麺も伸びにくく、調理や在庫管理の難度が下がる。原価率はラーメンより低く、店舗オペレーションの教育も比較的短期間で済むため、新規出店のハードルが低い。人件費の抑制・省スペース化にも適しており、都市部における飲食モデルとして非常に合理的だ。
在庫管理・調理工程・人材育成の優位性
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在庫管理:冷凍麺・濃縮スープで安定化しやすい
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調理工程:温め・盛り付けが中心、複雑な工程が少ない
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人材育成:マニュアル化しやすく、習得期間が短い
三田製麺所に学ぶ「低リスク高効率」モデル
三田製麺所は、提供までの早さ・調理負荷の少なさ・オペレーション効率の高さが売りだ。特に「大盛無料」のようなサービス設計は、原価率の低さゆえに可能となっている。原材料の高騰が続く今、ラーメンよりつけ麺のほうが「同じこってり系でも低コスト・高満足度」を打ち出せるという構造的優位がある。
行列ができる店舗の多くは、この“コスパ重視型”にシフトしており、若年層や訪日外国人の支持も高い。今後の都市型フードビジネスのモデルとして、つけ麺業態はさらに拡大する可能性がある。
都市型ラーメン業態の“次の形”とは?
「ラーメン=こだわり」だけでは勝てない時代に入りつつある。家系、二郎系、ちゃん系など、ボリュームやトッピング自由度を重視した業態が拡大する一方、チェーン全体としては「オペレーション最適化」が必須となっている。
居酒屋利用やサイドメニュー充実で成功する「日高屋」「餃子の王将」なども、ラーメンの“業態多様化”を象徴している。つまり「ラーメン業界の競争軸」は、味や個性から「構造と効率」へと移り変わっているのだ。
🔄 業態変化の流れ
① 原材料費・人件費・賃料が高騰
↓
② 高原価のラーメン業態が限界に
↓
③ 一部店舗で閉店判断
↓
④ 跡地に低原価のつけ麺店が進出
↓
⑤ 都市型業態が「つけ麺」へ構造転換
天下一品に巻き返しの余地はあるのか?
一時撤退としての意味
今回の閉店は、“敗北”ではなく“整理”かもしれない。都市型高コスト店舗から一旦撤退し、今後の展開に備える――そう捉えると、グループとしての売上堅調との整合も取れる。むしろこれは「次の一手」を打つための準備期間と見るべきだ。
過去のブランド力とファンの熱量
「天一芸人」「天一アプリ」「天一どんぶり」など、天下一品はかつて“文化を纏ったチェーン”として熱狂的支持を集めていた。これは今も一部ファンの中に強く残っており、その声がSNSで閉店報道に過剰に反応した理由でもある。
方向転換の可能性と“次の一手”
今後、天一が目指すべきは「味はそのままに、運営構造を変える」道だ。デリバリー対応の再強化、地方型店舗の最適化、キャッシュレスの導入、小規模直営型モデルへの再編…。天一が唯一無二の“こってり文化”を次の時代にどう接続するか、注目される。
あのスープが時代に置いて行かれたわけじゃない。
変わったのは、スープを取り巻く“現実”のほうだ。閉店とは敗北ではない。撤退は戦略であり、
固定ファンに支えられた“記憶”を守ることは、次の布石になる。「味を変えないために場所を変える」――
それが、天下一品の選んだ一時撤退という未来の選択肢なのかもしれない。
✅ 見出し | ▶ 要点 |
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閉店の現実 | 高原価・高賃料・現金決済が重荷に |
業態転換 | 跡地につけ麺業態が多数進出中 |
経営の分岐点 | ラーメン構造の効率化が急務に |
未来戦略 | 味は残し、仕組みを変える時代へ |
❓ FAQ
Q1. 天下一品は全体として経営が悪化しているの?
A. いいえ。グループ全体の売上は回復傾向にあります。閉店は主に都市型FCの採算悪化によるものです。
Q2. なぜつけ麺が跡地に入っているの?
A. 同じフランチャイジーが運営しており、構造的に低リスクで利益率が高いためです。
Q3. 天下一品は今後どうなる?
A. 地方型や小規模直営に軸足を移し、再構築する可能性があります。完全撤退ではありません。