2025年5月27日、兵庫県の第三者委員会が元総務部長による私的情報の漏洩を認定し、「知事と元副知事からの指示があった可能性が高い」と結論づけました。対象となったのは知事の疑惑を告発した元県民局長の情報。知事は関与を否定していますが、複数の職員証言や百条委員会の調査で“根回し”の指示があったとの証言も明らかに。行政トップの責任はどこにあるのか
兵庫県知事側近
情報漏洩か
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兵庫県政の中心を揺るがす情報漏洩疑惑が、ついに第三者委員会の報告書という形で明文化された。告発者の私的情報が知事側近によって議員に漏洩され、その背景に知事と元副知事の“指示”があった可能性が指摘された今回の調査結果は、県政への信頼を大きく揺るがせる内容だった。斎藤知事は否定するも、浮かび上がった「根回し」の実態とは何だったのか。
なぜ知事側近の漏洩問題が注目されたのか?
誰がどのような情報を漏らしたのか?
2023年4月、兵庫県庁の元総務部長・井ノ本知明氏が、元県民局長の“私的情報”を複数の県議に口頭と紙資料で漏洩していたことが発覚した。
問題の情報は、斎藤知事に対する内部告発を行った職員に関する私生活や個人経歴に関するもので、正式な手続きによる開示ではなく「非公式な情報共有」として議員に伝達された。
井ノ本氏は当初、この事実を全面的に否定していたが、第三者委員会による詳細な聴取の中で、「資料は提示していないが、口頭で伝えたことはある」と認めた。
🔍 具体例
・県議に提示されたのは、プリントアウトされた文書の一部。
・説明の際には、「告発者の言うことは信用に値しない」とする発言も含まれていた。
斎藤知事・元副知事の関与は?
今回の疑惑で最も注目されたのは、斎藤元彦知事と片山元副知事の“関与”の有無だった。
井ノ本氏は第三者委の聴取で「上司からの指示だった」と証言し、その“上司”が知事および副知事であると名指ししたのである。
片山氏は「知事からの直接の指示はなかった」と述べる一方、「根回しをするようにとの趣旨はあった」とも発言。
さらに他の職員も、「議会の執行部に伝えるような雰囲気の指示が知事からあった」と証言している。
この“言外の意図”をめぐり、第三者委員会は「指示があった可能性が高い」との見解に至った。
第三者委員会はどう結論づけたか?
調査報告書では、以下のような文言で結論が明示された。
「井ノ本氏の行為は、知事および元副知事の指示を受けた可能性が高く、内容は私的情報の概要を抽象的に述べ、紙に打ち出した資料の一部を提示した」
また、報告書では「守秘義務違反に該当する可能性が高い」ともされ、県の懲戒処分基準に照らすと「免職または停職相当」の重い判断が視野に入る。
しかし、井ノ本氏は百条委員会の場で証言を拒否しており、全容の解明には限界が残った。
🔹 証言の曖昧さと“意図の共有”のグレーゾーン
知事側の発言が直接的な「指示」か、それとも「意向の表明」かは明確にされていない。
職員たちは「根回しの趣旨」と解釈していたものの、明文化された命令があったとはされておらず、この“間接性”が問題を複雑にしている。
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「議会に調整したらよいのではないか」という言葉が“共有の指示”として解釈された
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職員は言外の意向に従ったが、指示文書などの記録はない
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職員側も「発言の真意は定かではない」と証言
📊【告発者情報漏洩の争点比較】
要素 | 知事・副知事の見解 |
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井ノ本氏の証言 | 指示を受けて共有したと主張 |
知事の立場 | 「何も指示していない」 |
元副知事の立場 | 「根回しの意図は伝えたが、具体内容は指示していない」 |
第三者委の評価 | 「指示を受けた可能性が高い」 |
証言の一致度 | 複数職員が「雰囲気としての指示があった」と証言 |
この漏洩疑惑の背景には何があるのか?
百条委員会の調査で何が分かったのか?
2023年4月、兵庫県議会に設置された百条委員会は、井ノ本元総務部長による“私的情報の漏洩”が県政の公正性に与えた影響を調査した。
その中で明らかになったのは、井ノ本氏が議員控室で県議2人に対して直接、告発者に関する資料を提示し「信用できない人物」と説明していたという証言だった。
この行為は明確な意図をもって行われたもので、元県民局長の告発内容の信憑性を議会内で否定する“地ならし”として働いたとされる。
井ノ本氏はその後の百条委員会の場では証言を拒否しており、「守秘義務違反の疑いがある」という理由で口を閉ざしている。
知事の説明と職員の証言に矛盾はあるか?
斎藤知事は一貫して「私は指示していない」と述べている。
しかし、職員の複数証言では、「知事からの発言が“議会に伝えるべき”という趣旨だった」との記録が重なっており、“意図の伝達”と“明確な命令”のあいだにある曖昧な領域が、この問題の核心となっている。
第三者委員会も、「この発言が行動のトリガーとなった可能性が否定できない」として、間接的な責任を含意する結論を出している。
🔹 曖昧な命令系統と政治的グレーゾーン
地方自治体における“知事の意図”は、時に明文化されず、周囲の職員による“忖度”として実行される。
本件もその一例であり、行政命令とは別の形で伝わるメッセージが、結果として重大な行為につながった。
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職員の多くが「知事の空気を読んだ」と回答
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発言録・議事録には具体的指示は残されていない
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第三者委員会はこの“空気”を「指示の可能性」として認定
📈【情報漏洩問題の流れ】
① 告発文書提出(2023年3月)
↓
② 井ノ本氏が私的情報を収集(2023年4月初旬)
↓
③ 県議2人に紙資料と口頭で漏洩(同月中旬)
↓
④ 第三者委員会設置(2023年秋)
↓
⑤ 百条委員会による調査と証人尋問(2023年10月〜)
↓
⑥ 井ノ本氏が証言拒否
↓
⑦ 委員会報告書が「知事らの指示の可能性」を示唆(2025年5月)
✅ 見出し | 要点 |
---|---|
▶ 百条委員会の調査結果 | 資料提示と口頭説明があった事実が明らかに |
▶ 知事の発言と職員証言 | 「伝えるべき」という曖昧な表現が判断を誘導した可能性 |
▶ 第三者委の結論 | 明文化された指示はないが、“意図の共有”が確認された |
▶ 信頼回復の課題 | 曖昧な命令系統と情報管理体制の再構築が必要 |
この問題を読み解く鍵は、「命令とは何か?」という問いにある。
直接の命令はなくとも、言外の意図が組織に波及する構造は、組織的ガバナンスの根本を揺るがす。
今回の事案は、職員とトップのあいだに存在する“見えない命令系統”の危うさを浮かび上がらせた。
この問題が兵庫県政に与える影響とは?
情報管理と信頼回復の課題は?
今回の一連の漏洩とその構造的背景が示すのは、兵庫県政における情報管理の脆さと、職員が“空気”を読みすぎる体質の深刻さである。
県政トップが「私は指示していない」と述べる一方、実際にはその意図が行動として具現化されている。
これは“責任の所在”があいまいになる典型例であり、組織としての信頼再構築が急務である。
🖋断定と内省の間に漂う、政治のリアル
「言っていない」と「言わなくても伝わる」は、政治の世界ではしばしば同義となる。
一言がないだけで、責任を回避する術ができてしまう――それがこの国の“空気”の強さだ。
情報は守られるべきだが、同時に“意図”もまた、公文書として残されるべきではないか。
行政の正義とは何か。職員の正直とは何か。
この一件は、私たちにそう問いかけている。
❓【FAQ:よくある疑問と答え】
Q1. 今回の漏洩は違法なのか?
A. 守秘義務違反の疑いがあり、県の懲戒指針では「免職または停職」に該当する可能性があります。
Q2. なぜ知事の関与が問題視されているのか?
A. 明文化された命令はなくとも、職員に意図を伝えたと解釈されており、その“空気”による行動が組織内で許容されていた点が問われています。
Q3. 今後の懲戒処分は?
A. 2025年5月末時点では、処分は未定であり、県が判断中です。
Q4. なぜ百条委員会では証言が拒否されたのか?
A. 井ノ本氏自身が「守秘義務違反の嫌疑を受ける可能性がある」として、証言を拒否しました。