ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の初の生え抜き社長に就任した村山卓氏。駐車場でのコーン配置から始まった彼のキャリアが、世界3位のテーマパークを支える原点となった。現場主義と主体性の哲学を紹介する。
USJ初の
生え抜き社長
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2025年6月、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は初の“生え抜き社長”として、村山卓氏を社長に迎えた。来場者数で世界3位に躍進したUSJの舞台裏には、意外にも「駐車場のコーン配置」が原点となったエピソードがある。テーマパークを単なる遊園地ではなく「人の力で動く感動装置」へと昇華させた男の軌跡に迫る。
なぜ村山卓氏はUSJ社長に選ばれたのか?
駐車場から始まった“生え抜きキャリア”
村山卓氏(53)は、2001年のUSJ開業以前にすでに入社していた。大学院でMBAを取得後、開業準備段階の2000年にはフロリダ州のユニバーサル・スタジオで幹部候補生としての研修を受けた。しかし初日に配属されたのは、まさかの「駐車場」だった。
早朝5時半から約2万台の駐車場にコーンを配置しながら、ふと思う。「MBAまで取って、なぜこんな仕事を?」。しかし車がスムーズに誘導されていく光景を見た瞬間、気づいた。「現場の工夫が楽しさを生み出す。これこそがUSJの本質だ」と。
主体性こそがUSJのDNA
その後もマーケティング、事業開発、海外連携など多岐にわたる業務を経験。2025年の社長就任にあたって、社内で最も強調したのは「主体性」だった。
「どんな職種でも楽しいと思えた。自ら考え動けば、必ず価値が生まれる」──この思想は、USJの現場に深く浸透している。
クルーこそがブランド価値を支える
村山氏は「USJの最大の資産はクルーだ」と明言する。定期的な従業員満足度調査を導入し、働く環境を改善してきた。「テーマパークは観光地であると同時に、働く人にとっても“帰りたくなる職場”でなければいけない」と語る。
ドンキーコング・エリアの反響
2024年春にオープンした「ドンキーコング」エリアでは、クルーの演出やガイドによるホスピタリティが、SNSで話題を呼んだ。単なるアトラクション以上の“体験”に仕上がっている背景には、現場のアイデアと主体性があった。
📊歴代USJ社長と村山氏の違い
村山氏の社長就任は「人材の多様性」だけでなく、「現場視点からの逆転人事」としても注目されている。今や“経営は現場から”という思想が、大型テーマパークの競争力そのものに直結する時代。USJが持つ“人間力”は、今後ますますブランド価値に転化していくはずだ。
加えて、村山氏はクルー教育にも力を入れると明言。「お客様の笑顔は、クルーのやりがいから生まれる」という理念を徹底し、「感動提供型組織」としての地位確立を進めている。
なぜUSJは世界3位になれたのか?
「リピーター戦略」とは何だったのか?
USJは2023年、世界テーマパーク来場者数ランキングで第3位に躍進した。背景にあるのは、明確な「リピーター重視戦略」だ。
例えば人気アトラクション「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は、任天堂と組んだ日本発のIP活用によるもので、国内の“熱狂層”をターゲットにしている。加えて、季節ごとのイベント・期間限定メニューなど「もう一度来たくなる仕掛け」が絶妙だ。
海外資本から“日本化”への脱却
USJは開業当初、米ユニバーサル・スタジオの完全子会社だった。経営も海外流で、マーケティングも「外資の世界観」を前提としていた。
しかし近年は、日本人の感性やライフスタイルを重視した“独自運営”が加速。食文化、待ち時間対策、バリアフリー導線など、日本ならではの細部への配慮が評価されている。
地方都市・大阪との共進化
東京ではなく“大阪”にあるという地理的特性も、USJ独自の進化を促してきた。東京ディズニーリゾートとの差別化を図りながら、大阪という地域と共に歩む姿勢が、観光業界にも好影響を与えている。
関西空港との連携戦略
関空のインバウンド拡大と連動して、USJは「空港→ホテル→パーク」の動線を構築。ホテル開発やバス送迎強化など、都市インフラとの相乗効果も高まっている。
🔁USJが世界3位に到達するまでの成長戦略
USJ開業(2001年)
↓
来場者数低迷・経営危機
↓
経営刷新(外資→日本主導)
↓
地域連携+IP導入強化(任天堂など)
↓
リピーター戦略×現場力重視
↓
2023年、来場者数世界3位達成
USJの次の課題とは?
人手不足と高稼働のジレンマ
USJは人気施設ゆえに稼働率が高く、人材確保と労働環境の両立が最大の課題となっている。特に繁忙期には人手不足が表面化し、クルーへの負担が大きくなる。
村山氏も「この先の成長は、いかに働く人の幸福と経営のバランスを取るかにかかっている」と語る。
サステナブルな運営モデルの構築
脱炭素、食品ロス対策、エネルギー効率の改善など、USJでも持続可能性への取り組みが本格化している。パーク運営における省エネ型設備の導入やリサイクル施策が進められており、「エンタメ×サステナビリティ」の融合が問われている。
感動体験をどう深化させるか
アトラクションや演出の技術革新だけでなく、「人の記憶に残る体験」をどう設計するか。これが次の焦点だ。村山氏の持論でもある“クルーによる感動設計”は、USJの進化の軸となっていく。
実例:夜のパレードにおける接客演出
夜間パレードの終盤で、クルーがゲストに手を振る様子がSNSで話題に。小さな接客が“大きな記憶”になる構造は、USJのDNAの証でもある。
USJは「人を主役にするテーマパーク」へと脱皮を遂げた。これはアトラクション中心ではなく、“感動を生む人間中心主義”への転換でもある。
村山社長の視点はそこにある。「どんな仕組みも、最後は人の想いで決まる」。エンタメの未来像を問うこのパークが、今後どんな革新を見せるのか――世界が注目している。
本記事は、ただの人事ニュースではない。
“現場出身者が主役となる経営”という構造の変化と、“感動設計”という思想の普遍性が問われている。
USJの変化は、サービス業・エンタメ全体の未来像にヒントを与えている。
📝「感動とは、現場が仕掛ける思想である」
現場は、仕組みを越えて人を動かす場所だ。
村山卓という男は、コーンを並べる手の中に“経営の本質”を見た。誰もが素通りする日常に、誰かの苦心があり、それが社会の感動に化けていく。
私は思う。
経営とは“人の心を動かす導線”だ。
それはマニュアルでも、AIでもなく、現場にいる一人ひとりの“気づき”が創る。
テーマパークとは、巨大な演出装置ではない。
それは「人間を信じる装置」である。
❓FAQ
Q1. 村山社長はどんな経歴?
A. USJ創業以前から勤務し、駐車場勤務からキャリアを積んだ生え抜きの経営者です。
Q2. なぜUSJは世界3位になれた?
A. リピーター戦略、日本文化に配慮した独自施策、大阪との連携が成功要因です。
Q3. USJの次なる課題は?
A. 人手不足、労働環境改善、サステナブル運営が挙げられます。
Q4. 今後注目されるポイントは?
A. クルー主体の“感動体験設計”が、USJブランドの真価を決定づけるでしょう。