暗号資産の採掘機販売を巡り、ドローンネットが約30億円の所得隠しを行っていたことが判明。購入者には「節税になる」と説明していたが、実態は帳簿操作と利益還元を利用したリスク構造。今後、顧客側にも税務調査が及ぶ可能性がある。
暗号資産マイニング
30億円隠し
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暗号資産の採掘ビジネスに「節税メリット」がある――。そうした触れ込みで販売されたマイニング機材が、実は大規模な所得隠しの温床となっていた。東京都千代田区に本社を置く「ドローンネット」は、国税局の税務調査によりおよそ30億円の所得を隠していたと指摘され、約8億円もの追徴課税を受けていたことがわかった。暗号資産ブームの陰で何が起きていたのか。その実態を追う。
暗号資産採掘業者がなぜ話題に?
いつ・どこで問題が起きたのか?
この問題が明らかになったのは、2025年5月末。東京国税局がドローンネットに対して行った税務調査によって、2024年2月期までの決算において約30億円におよぶ所得隠しが発覚した。
同社はドローンのレンタル業を行っていたが、近年は暗号資産のマイニング(採掘)事業に進出。企業や個人を対象に「マイニングマシン」と呼ばれる専用機材を販売していた。問題は、その取引構造と説明内容にあった。
どのような手口が使われたのか?
ドローンネットは、顧客に「マイニングで得た収益の一部を還元する」「節税効果もある」と説明し、機材の購入を促していた。マイニングマシンの設置先や稼働内容は不透明な点が多く、収益の管理も同社が一括して行っていた。
さらに、国税局は帳簿上の利益圧縮の手法として、「仕入れ額の計上時期を意図的に操作」していた点を問題視。売上が大きく伸びたタイミングに合わせて仕入れを遅らせることで、見かけ上の利益を減らしていた可能性が高いとされる。
節税スキームの構造
この種のマイニングビジネスは、いわゆる「節税スキーム型ビジネス」として展開されることが多い。購入したマイニングマシンを減価償却資産として扱い、初年度に大きな経費計上ができることが主な誘引だ。
しかし、本件ではその会計処理が恣意的に操作されていたとみられ、納税義務の履行という観点から逸脱していた。販売目的に“節税”を前面に打ち出す一方、実際には顧客への説明と税務実態が乖離していた。
国税局の見解と税法上の位置づけ
東京国税局が今回の事案で重加算税を科したのは、単なる申告漏れではなく「意図的な帳簿操作」があったと判断したからだ。税法において重加算税は、隠ぺいまたは仮装があった場合に科される極めて重い処分であり、その適用には明確な証拠が求められる。
今回のケースでは、仕入れ日付の変更や経費の水増しといった操作が帳簿上に確認され、それが「節税ではなく脱税に近い構造」だったことを示している。暗号資産分野は法整備が追いつかず、脱法的なビジネスが広がりやすい土壌も背景にある。
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税法上の論点:
- 減価償却資産の適正な計上時期
- 経費算入と収益の発生タイミングの整合性
- 顧客への誤認誘導による営業行為の適法性
項目 | ドローンネットのケース |
---|---|
ビジネス形態 | マイニング機器の販売と収益還元 |
売り文句 | 「節税効果がある」「自動で稼げる」 |
利益操作の手法 | 仕入れ計上時期の恣意的操作 |
税務上の処分 | 重加算税付き追徴(約8億円) |
社会的影響 | 顧客の税務リスク増/信頼喪失 |
購入者はどんな影響を受けたのか?
節税効果は本当にあったのか?
「節税効果がある」と説明を受けてマイニングマシンを購入した企業や個人投資家たちは、帳簿上では減価償却を通じた経費算入が可能であった可能性はある。しかし今回の指摘を受け、会計処理の妥当性や税務リスクが疑問視されている。
国税局はこの種の仕組みが“節税”ではなく“脱税助長”に近い構造だと判断した可能性があり、今後は購入者側にも税務調査が及ぶ可能性が否定できない。税制の抜け穴を突いたような構造は、結局のところ「節税」ではなく「誤認による過少申告」に通じる恐れがある。
投資家の「損失」とは?
・マイニングマシンの購入費(数十万円〜数百万円)
・実際の収益が想定を大きく下回るケース
・会計処理に関する税務修正のリスク
・最悪の場合、追徴課税やペナルティ発生
このように、想定していた利益や節税効果が実現しないばかりか、税務上の損害を被る可能性すらある。ドローンネット側の営業資料には「節税」「年利10%以上」などの文言もあり、適正なリスク説明がなされていたかどうかが問われている。
節税スキームの構造と税務リスク
[マイニングマシン購入]
↓
[減価償却として経費計上]
↓
[暗号資産の一部を購入者へ還元]
↓
[利益圧縮で税負担軽減を図る]
↓
[帳簿操作発覚 → 所得隠し認定]
↓
[重加算税+修正申告]
↓
[顧客側へも税務リスク波及の可能性]
✅ 前半のまとめ | ✅ 後半の注目ポイント |
---|---|
ドローンネットが約30億円の所得隠し | 顧客にも税務調査が及ぶ可能性 |
「節税効果」を前面に出した営業 | 会計処理の正当性が問われる |
マイニングマシン販売と収益還元 | 法整備の遅れが悪用を許す背景 |
帳簿操作で利益を圧縮していた | 今後の規制強化と再発防止が焦点 |
暗号資産と「税」の曖昧な関係とは?
法整備が追いついていない現実
暗号資産にまつわる税制は、ここ数年でようやく整備が始まった段階であり、マイニング収益やNFT売買、分散型金融(DeFi)による利回りといった領域では、実態と制度のギャップが依然として大きい。
この隙間を狙った“節税スキーム”や“経費装置”としての暗号資産事業は、今後も増加するおそれがある。特に「還元型マイニング」や「利回り付き機材販売」は、その透明性の低さゆえに脱税リスクをはらむ。
今後の規制と課題は?
税務当局は、事後的な摘発ではなく、事前的な情報開示やルール明確化が必要とされる。仮想通貨に対する金融庁と国税庁の連携強化、マイニング設備に対する資産区分明示、販売手法のガイドライン策定などが求められる。
さらに、購入者の理解を助けるための啓発活動も重要だ。「節税になります」「自動で収益が入ります」といった甘い言葉に乗らないためにも、税と投資の基本的知識が問われている。
近年の暗号資産を巡る規制強化の流れでは、国内外でマネーロンダリング対策や資産の透明化が進められているが、日本のマイニング事業については「野放し状態」に近い部分があった。
ドローンネットのような販売形態が出てきた背景には、税制の曖昧さと、節税意識の高まりがある。「節税」そのものが悪ではないが、それを餌に顧客を集め、実態が乏しいまま契約を進める行為は、投資詐欺と紙一重である。今後、こうした事例が増加する前に、明確な規制と罰則を整備する必要がある。
この記事の中核は、「暗号資産と節税を結びつけた仕組みが、いつ脱法に転じるか」という危うい境界線にある。顧客が被害者になる一方、無自覚な加害者にもなりうる構造だ。
金融・税務・ITという3分野の交差点で、読者には「節税」という言葉の裏にあるリスクを読み解いてほしい。
✅ 『節税の幻、納税のリアル』
「節税になる」と言われた瞬間、私たちは理性よりも欲に手を伸ばす。だが、節税と脱税の境界線は、思っているほど明確ではない。税とは、法律の中の哲学である。
ドローンネットのような事例が示すのは、“節税”という言葉の魔力と、それを信じた個人が背負わされる現実の重さだ。法律が未整備だろうが、罰せられるのは納税者である。リターンを追う投資家は、今こそ「納税」という社会的責任と、向き合わねばならない。
✅ 分類 | 要点 |
---|---|
問題の概要 | ドローンネットが約30億円の所得隠し/節税装ったマイニング販売 |
手法の特徴 | 帳簿操作で利益圧縮/仕入れ時期の意図的な操作 |
影響の範囲 | 購入者側にも税務リスクが波及/信頼失墜 |
今後の課題 | 規制整備と税務知識の普及が不可欠 |
✅ FAQ
Q1. ドローンネットの違法性は確定したの?
A. 違法性の認定は司法判断に委ねられますが、国税局は重加算税を課すほど悪質と判断しています。
Q2. 購入者も罰せられる可能性は?
A. 経費処理に問題がある場合、追加徴税や是正が求められる可能性は十分あります。
Q3. マイニング自体は違法なの?
A. マイニング行為自体は違法ではありません。ただし、その収益の会計処理や販売方法に問題があれば法的責任が問われます。
Q4. 節税と脱税の違いは?
A. 法律の範囲内で税負担を減らすのが節税。法律を逸脱して納税を逃れるのが脱税です。