兼務制度が広がる中、その実態とリスクに迫る。なぜ今、働き方が二重構造になっているのか?疲弊や不公平感を乗り越えるには“評価と報酬”の仕組みが重要だ。専門家の視点を交えながら、令和時代の兼務制度の在り方と必要な制度改革を解説。
兼務は諸刃の剣
評価と報酬がカギ
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「兼務」は諸刃の剣?令和な働き方にするカギは“評価と報酬”への反映?
人手不足やスキル多様化の波に乗り、職場での「兼務」が急増している。しかしその働き方は、個人にとって“成長のチャンス”である一方、“過労と混乱”のリスクもはらむ――。いま企業と働き手が直面している“2大リスク”と、それを乗り越える鍵「評価と報酬の再設計」について、専門家の声を交えながら詳しく読み解いていく。
見出し | 要点 |
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兼務の背景 | 人手不足やスキルの流動化により急増中 |
メリット(企業) | 突然の退職防止、人員不足の補完 |
リスク① | 疲弊による生産性低下(組織的問題) |
リスク② | 専門性不足によるキャリア分断(個人側) |
なぜ「兼務」が増えているのか?
近年、企業組織の中で「兼務」の形が目立ってきている。これは単に人手不足を補うためだけではなく、業務の多様化やAI時代のスキルシフトを背景に、企業と働き手の双方にとって戦略的な意味合いを持つようになってきた。
エバンジェリストとしてマネジメント研修などを手がける滝川麻衣子氏は、「突然の退職を防ぐ」「一時的な人手不足に対応できる」という組織的な理由を挙げつつ、その運用には「交通整理が必須」と警鐘を鳴らす。
例えば、週や時間での業務配分を決めずに兼務を任せると、結果としてどちらの仕事も中途半端になる危険性が高い。これは企業側の“兼務失敗リスク”とも言えるだろう。
“プレイングマネージャー”の現実とは?
兼務の流れの中で、特に増えているのが「プレイングマネージャー」の形態だ。プレイヤーとして業務をこなす一方、チームのマネジメントも担うこのスタイルは、特に変化が激しい業界では「実務と統括の融合」が求められている現状を反映している。
滝川氏は、例えば「生成AIを導入しながらの業務」などは従来の管理職の経験では対応できないため、自ら手を動かす必要性があると指摘。プレイングマネージャーを「しんどいが避けられない現実」と位置づける。
広報部と人事部を兼務する30代女性
ある中堅企業では、広報と人事を兼務していた30代女性が「仕事の切り替えができず、頭の中が常にフル稼働していた」と証言している。午前中は採用面接、午後はプレスリリース作成という日々の中で、最終的にメンタル面に支障をきたし、部署分離が決定されたという。
兼務が「キャリア破壊」にならないためには?
滝川氏は、兼務の個人側リスクとして「疲弊」と「専門性の希薄化」という“2大リスク”を指摘している。とくにキャリア初期の段階で複数業務を任されると、スキルの深掘りができず、結果的に“器用貧乏”に陥ることもある。
このような事態を避けるためには、兼務導入の際に明確な目的設定と、それに応じた評価設計が必須となる。滝川氏は「評価と報酬への反映」をマネジメントの責任として明示しない限り、長期的には優秀人材の流出を招くと警鐘を鳴らしている。
“芸風の幅”は本当に広がるのか?
一方で、兼務は働き手のキャリアの可能性を広げる側面もある。「芸風の幅が広がる」という言い回しを用いた滝川氏は、「複数領域にまたがるスキルを獲得できることが、将来的なリスクヘッジになる」と語る。
特に生成AIやDXの時代においては、特定の専門性だけでは淘汰されるリスクも高い。そのため、“幅広い専門性”を武器にするための手段として、計画的な兼務が有効である可能性も高い。
✅企業と個人のメリット・リスク比較
観点 | メリット | リスク |
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企業側 | 突発的な退職防止/人手不足対応 | 成果の低下/業務配分ミス |
働き手側 | スキル拡張/キャリア選択肢増 | 疲弊/専門性が浅くなる |
兼務によって得られる「経験の広がり」は武器になる一方で、適切な評価軸が存在しなければ努力が埋もれやすい。とくに「見えにくい業務」に対しては、周囲の理解も得づらく、成果として認識されにくい問題がある。
そのため、管理職や上司が「どの業務に何を期待しているのか」「どの成果をどう評価するのか」を明文化し、かつ人事制度と連動させる設計が不可欠である。これにより、働き手は自身の努力と成果が認知されているという実感を得ることができる。
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評価基準の可視化(KPI設計)
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報酬への反映ルールの整備
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他部署との連携評価の仕組み
“評価と報酬の設計”をどう変えるべきか?
人事制度や評価体系が旧来の「単一業務前提」のままでは、兼務者のモチベーションは下がる一方である。滝川氏は「評価と報酬の変革は、兼務制度を令和仕様にするための前提条件だ」と断言する。
具体的には、以下のような改革が求められる。
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業務ごとのKPIを分離して可視化
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チーム評価と個人評価を柔軟に合算
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成果連動報酬の複数軸設計(固定給+兼務成果加算)
これらの改革は、単なる制度変更にとどまらず、「努力がきちんと報われる組織文化」をつくる基礎となる。
✅「兼務制度」導入と成功への流れ
兼務が発生
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業務整理・期待役割の明確化
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KPI設計と複数評価軸の設定
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報酬と連動した評価体系に組み込み
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定期レビューと職種間バランス調整
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キャリア支援とスキル拡張機会へ昇華
見出し | 要点 |
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なぜ兼務が増えた? | 人手不足とスキル分化の影響で兼務が普及 |
兼務のメリット | 人手補完、スキル拡張、芸風の幅 |
兼務のリスク | 疲弊、評価不備、専門性の低下 |
解決策の核心 | 評価と報酬の多軸化・制度連動設計 |
この記事は、管理職・人事担当・若手プレイヤーのいずれの立場からも読める内容で構成しています。ただし、兼務制度の設計・評価・改善には“評価される側の視点”と“評価する側の視点”が交錯します。読者はぜひ、自身の「今の立場」と「将来の立場」両方から読み返してみてください。見える論点が変わるはずです。
専門家はどう見る? 兼務が問う組織の未来
ひとつの職場で、ふたつの肩書を背負うということ。それは「二人分働くこと」ではなく、「ひとつの体に矛盾する2つの言語が流れ込んでくる感覚」に近い。
兼務という制度は、組織の柔軟性や応答性を高める装置だ。だが、それを支えるはずの“言葉”(評価制度)が歪んだままでは、兼務は働き手を潰す毒にもなる。
「頑張っても誰にも見られていない」と感じた瞬間、人はその職場に心を置けなくなる。それは報酬の金額ではなく、“意味の欠落”によって起こる。そしてそれは、かならず離職やメンタルの崩壊という形で現れる。
企業が兼務を推進するなら、まずすべきは制度の再設計ではない。「何のために君にこの役割を任せているのか」と、言葉にして、目を見て、伝えることだ。
それこそが、兼務という矛盾を希望に変える唯一の道だと思う。
✅記事全体まとめ
項目 | 要点 |
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兼務急増の背景 | スキル分化・人手不足による柔軟対応策 |
メリットと懸念 | スキル拡張vs疲弊・評価不備のリスク |
評価制度の要点 | 多軸評価/報酬連動/見える努力の設計 |
本質的教訓 | 兼務は“伝える責任”がなければ毒になる |
❓FAQ
Q1. 兼務はどのような業種で多く見られますか?
A1. IT、広報、人事、経営企画など「業務横断性」が求められる職種で多く導入されています。
Q2. 兼務の成果はどう可視化すべきですか?
A2. 業務ごとのKPI(成果指標)を設け、評価者も複数設置するのが望ましいとされます。
Q3. プレイングマネージャーと兼務は同じですか?
A3. 概念上は異なりますが、兼務の一形態としてプレイングマネージャーが増えています。
Q4. 若手社員が兼務するとどうなりますか?
A4. 短期的には経験値が増えますが、長期的には専門性が浅くなり「キャリア分断」のリスクがあるため注意が必要です。