共働き世帯が当たり前となった現代でも、PTAの実務は母親、役職は父親という性別役割が続いています。なぜ改革は進まないのか──。その背景には“前例踏襲”と“空気の支配”がありました。学校や保護者の間に根付いた「母親がやるもの」という無意識の前提と、変化を拒む構造。改革の鍵は、父親の当事者化と、文化そのものの見直しにあるのかもしれません。
PTA会長の8割が父親
なぜ実務は母親
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「父親が会長、母親が実務」PTAに残る性別役割意識の壁とは?
共働き世帯が主流となった今もなお、学校のPTA活動では「母親が実務」「父親が会長」といった性別役割分業が根強く残っています。なぜこの構図は変わらないのでしょうか。現場で何が起きているのか、改革の兆しはあるのか──取材と調査を通じて、その背景と可能性に迫ります。
見出し | 要点 |
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共働き世帯の増加 | 共働きは専業主婦世帯の2倍超に(令和6年版白書) |
PTA参加は母親が中心 | 実務負担の大半は現在も母親が担っている |
会長の約8割が男性 | 見えやすい役職には父親が就く傾向が強い |
新たな動きも | 父親が主体の改革的なPTAも登場している |
なぜ今も「母親が実務、父親が会長」なのか?
PTAにおける男女の役割分業とは?
いまや日本の共働き世帯は専業主婦世帯の2倍以上。2022年時点で、共働き世帯は1,235万世帯、専業主婦世帯は536万世帯にとどまっています(男女共同参画白書 令和6年版)。
にもかかわらず、小中学校のPTA活動において「母親=実務」「父親=表向きの役職」という構図が続いているのはなぜなのでしょうか?
ある公立小学校では、イベント準備や印刷物の作成、先生との連絡など、実働の多くを母親が担い、対外的な挨拶や会議出席など“顔出し役”を父親が担っていました。このような役割分担は、家庭内の育児分担と同様、固定観念に根差したものといえます。
なぜ父親は「空気を読む」のか?
PTA会長の約8割が男性──これは令和5年版男女共同参画白書が示した事実です。見えやすく“偉い”役職に父親が選ばれる一方で、日常業務の多くは母親の無償労働に依存しています。
こうした構造を強化するのが、日本社会の“空気を読む文化”です。大塚玲子氏の取材によれば、PTAに父親の参加が少ない理由の一つは「他の父親が参加していないから」。マイノリティになることを避け、横並び意識を優先する心理が働いているというのです。
働き方は変わったのに、なぜPTAは変わらない?
フルタイム共働き家庭の増加に伴い、家庭内の家事・育児分担は見直されつつあります。しかし、PTA活動だけは昭和のまま──そんな声も少なくありません。
保育園では父親も当たり前のようにイベントに参加していたのに、小学校になると一気に見かけなくなる。これは制度の問題というより、「PTAとはこういうもの」という思い込みや、“誰も変えようとしない”惰性の構造が背景にあります。
変革は始まっているのか?
東京都大田区「PTO」という新モデル
東京都大田区・嶺町小学校では、十数年前から「PTA」ではなく「PTO(Parent Teacher Organization)」という名称で活動しています。モットーは「できるときに、できる人が、できることをやる」。役割も性別も問わず、自然体で関わるスタイルです。
千葉県・おやじの会からの発展
千葉県船橋市の塚田南小学校では、「おやじの会」出身の父親たちが主導してPTA活動を支えています。スタンプラリーなど子どもが楽しめる行事に力を入れ、「やらされ感」ではなく「楽しさ」重視の姿勢が功を奏しています。
近年では、父親の育休取得率が改善し、家事や育児に主体的な男性も増えています。実際に「父親PTA」や「育メン委員会」といった新しい活動形態が都市部を中心に広まり始めています。
しかし地方では、「平日の昼間に動けるのは母親だけ」という現実も根強く、父親参加を進めるには労働時間の柔軟性や学校側の理解も不可欠です。
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PTA役職と実務の分離による負担軽減
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リモート会議の活用による父親の参加促進
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学校と保護者の役割明確化
現行PTAの問題点 | 新たな取り組み |
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実務負担が母親に集中 | 父母問わず「できる人」が対応する仕組みへ |
会長職が男性に偏る | 会長も役員も性別不問で選出 |
内容が“前例踏襲” | 子どもと楽しむ活動へリブート |
拒否しづらい空気 | 拒否も選択肢の一つと明示化 |
PTA改革はなぜ難しいのか?
制度か文化か? 変化を阻む「無意識の壁」
現代のPTAが抱える最大の問題は、制度そのものではなく、「誰もがそれを当然と思っている」文化的背景です。母親がやるのが当たり前。断るのは“非協力的”──。こうした無言のプレッシャーが、改革の足かせとなっています。
あるPTA関係者はこう語ります。
「やめた方がいいと分かっていても、“前の代と同じようにやってください”と言われる。誰も変える勇気がないんです」
「変えるには全員の合意が必要」という構造も、実質的に現状維持を強いる仕組みとなっています。
変化のカギは「男性の当事者化」
PTA改革を進める上で欠かせないのが、“男性側の意識変化”です。
子育ての現場に立ち会う父親は増えているものの、PTAという「集団行動の場」になると一歩引いてしまう人が多いのが実情。育児には関心があっても、「会議は苦手」「他人と調整するのは面倒」と感じてしまうのです。
しかし逆に、PTA活動をきっかけに父親が地域とつながることで、子どもへの関わりが深まり、家族関係も良好になるという副次的効果も報告されています。
なぜPTAは変わらないのか?
[共働き世帯の増加]
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[PTAの実務負担は母親中心のまま]
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[なぜ?] → 「過去の慣例」「誰も変えようとしない」「前任からの引き継ぎ」
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[結果]
・父親は表面的役職のみ
・母親が負担感と孤独感を抱える
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[さらに]
・改善提案を出しづらい空気
・拒否や変更が“悪目立ち”する文化
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[結論]
制度よりも「文化と空気」が問題
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「なんで父親ばかり会長になるの?」
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「断ると子どもに影響する?」
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「そもそもPTAって必要?」
こうした問いは、実際にPTAに関わる家庭で日常的に浮かぶものです。記事では「批判」ではなく「仕組みと文化の問題」として捉え、読者が対立構造で消耗しないよう視点を設計しました。
PTAをめぐる「問いと断定」
PTAという仕組みが問題なのではない。
その“空気”が変わらない限り、誰がやっても、同じことを繰り返す。
子どもを守る名目のもとで、親たちは「保護者としての役割」と「組織としての振る舞い」を区別できなくなっていく。
必要なのは、“参加しない自由”と“関わる楽しさ”の両立だ。
PTA改革とは、制度設計だけではなく、「私たちはどこまで社会と関わるか」という内面的な問いに、ひとりひとりが向き合う時間なのかもしれない。
見出し | 要点 |
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PTAの現状 | 実務は母親、役職は父親が担う構図が続く |
背景要因 | 共働き社会と「空気文化」のギャップ |
改革の芽 | 父親主導の新モデルや柔軟な参加形態 |
本質的課題 | 性別ではなく、文化と構造の変化が必要 |
FAQ
Q1:PTA役員は断れないのですか?
A1:法的には任意団体であり、参加や役職を断る自由はあります。ただし、学校ごとに運用にばらつきがあるのが現状です。
Q2:父親がもっと参加するには?
A2:リモート会議や短時間タスクの導入が有効です。学校との調整で無理なく関われる形にする工夫が必要です。
Q3:PTAをやめた学校はある?
A3:あります。東京都武蔵野市や新潟市など、一部の学校ではPTOやボランティア制への移行が進んでいます。
Q4:PTA活動のメリットは?
A4:先生や保護者と関係を築けること、子どもの学校生活を深く知れることなどがあります。ただし、それが強制的であってはなりません。