三重県桑名市総合医療センターの男性看護師が、入院患者40人分の内服薬・塗り薬を計51回分投与せず、自らのロッカーに隠していたことが発覚。停職6か月の懲戒処分を受け、同日付で依願退職。別の准看護師の不正行為も同日公表された。
薬51回分未投与
看護師は依願退職
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
患者に投与されるべき薬が、実際には渡されていなかった――。三重県桑名市総合医療センターで勤務していた20代の男性看護師が、入院患者用の内服薬や塗り薬を合計51回分も投与せず、自身のロッカーに隠していたことが判明し、懲戒処分となりました。同日、長年にわたり駐車料金や通勤手当を不正受給していた女性准看護師の不正も明らかに。医療機関の信頼を揺るがす2件の処分が、同時に発表されました。
看護師の不正行為はなぜ発覚したのか?
いつ・どこで起きたのか?
事件の舞台となったのは、三重県桑名市にある「市総合医療センター」。男性看護師の不正が発覚したのは、同僚がロッカーの中に未開封の薬が多数保管されているのを発見したことがきっかけでした。内部調査の結果、2023年10月から2025年1月にかけて、40人の患者に処方された薬が、合計51回にわたって投与されていなかったことが明らかになりました。
看護師本人は、「忙しさで投与を忘れてしまった」と釈明。しかし、記録上は投与したことになっており、実際には手を付けていない状態で薬が残っていたという事実が残されていました。
なぜ注目されたのか?
患者の命を預かる医療現場において、「投与忘れ」が単なるミスとして扱えないのは当然です。特に、意図的な投与回避か否かという点は、組織としての安全体制にも関わってくる重大な問題です。
また、今回の不正は単独行動にとどまらず、**当時の上司6人も管理監督責任を問われて処分(戒告・訓告)**を受けており、組織全体に再発防止の課題が突きつけられる結果となりました。
さらに同日に発表された女性准看護師の処分は、2017年から2025年にかけて長期にわたって行われた不正が対象であり、公的機関としてのモラルが問われる案件として波紋を広げています。
具体的に何が問題だったのか?
投与されなかった薬と処分内容
病院は、患者の健康被害は確認されていないと発表していますが、「調査中」とする部分もあり、信頼回復には時間を要するとみられます。
関係者・出来事の関係表
発覚から処分までの流れ
① 同僚がロッカーの薬を発見
↓
② 病院が内部調査を実施
↓
③ 未投与の薬51回分が明らかに
↓
④ 男性看護師が「投与忘れ」と釈明
↓
⑤ 病院が懲戒処分決定 → 依願退職
↓
⑥ 女性准看護師の不正も同日処分公表
✅ 見出し | ▶ 要点 |
---|---|
発覚のきっかけ | 同僚がロッカー内の未投与薬を発見したことから |
不正の規模 | 投与されなかった薬は40人分・計51回分 |
看護師の処分 | 停職6か月 → 即日で依願退職を選択 |
准看護師の不正 | 駐車代不正使用と通勤手当の二重請求 |
管理体制の問題 | 上司6名に戒告・訓告/組織の監督責任が問われる |
誰よりも近くで患者と向き合う看護師の役割は、単なる業務ではない。1つ1つの薬に込められた意味や、投与のタイミング、管理の責任…そのすべてが「命にかかわる重み」と直結している。今回のように薬が患者に渡らなかった事実は、たとえ結果として被害が出ていなかったとしても、「信頼の崩壊」がすでに始まっていたことを意味している。
また、長期にわたる不正受給や駐車代の不払いは、個人の問題にとどまらず、組織全体のチェック体制の甘さも露呈させた。なぜ7年以上もその行為が見逃されていたのか。現場に何が起きていたのか。中間地点で今一度、全体の構図を整理してみたい。
-
薬の不投与は医療信頼に直結する行為
-
准看護師の行為は7年以上に及ぶ長期的不正
-
組織内の監視体制や職員間の空気も課題に
-
「被害がなかったからよかった」では済まされない構造崩壊の兆候
たとえば、薬を受け取る側にとって、それが毎日の安心だったとしたら――。
患者たちは何の疑いもなく、今日も処方された薬を口にすると思っていたに違いない。そのひとつひとつが、「効く」と信じる時間であり、「任せる」しかない信頼だった。
でも、その信頼が裏切られていたと知ったとき、いったい誰が最初に傷つくのか。
見過ごされていた記録、ロッカーに残された薬たち、そして黙っていた同僚たち。
あの空白の時間に、何が起きていたのか。私たちは、それを“たまたま”として片づけていいのだろうか?
壊れた信頼の重さは、誰の肩に乗るのか?
きれいごとを言えば、医療は「人を救う場所」だ。
でも、その裏側で進んでいたのは、無関心と忘却の連鎖だったのかもしれない。薬を渡さないという行為は、「面倒くさい」の一歩先で、人の身体を無視することに等しい。
制度があっても、それを使うのは人間だ。記録が残っても、その空白を埋める意志がなければ、すべては空虚なデータになる。責任という言葉は、組織のなかで分散されていく。それは分担ではない。誰も引き受けようとしない空気の共有だ。
僕たちはこういうとき、「病院は反省しています」と言われるのを聞いて安心したふりをする。でも、それで本当に信頼は戻るのか?
“薬が渡らなかった”という単純で重大な事実の重みは、もっと深く問い直されるべきだ。何が壊れたのか、どこで止められたのか、そして、次は誰の番なのか――。