日本相撲協会は行司・木村銀治郎を懲戒解雇と発表。2019年から6年間にわたり、力士会の積立金2519万円を着服し、競艇などのギャンブルに使用していた。内部調査で発覚し、返済額は332万円に留まる。協会は会計体制の抜本的改革を示唆。
相撲協会が行司を
懲戒解雇
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相撲界に激震が走った。行司として長年信頼を集めてきた木村銀治郎が、総額2500万円超にのぼる金銭を着服し、その大半を競艇などのギャンブルに使っていたことが発覚。日本相撲協会は6月2日、懲戒解雇と退職金不支給を決定し、協会内の会計管理体制にも大きな課題が突きつけられている。信頼と伝統を重んじる大相撲の世界において、前代未聞の不祥事がもたらした波紋とは──。
なぜ木村銀治郎は懲戒解雇されたのか?
◆ 長期にわたる不正と巨額の横領
日本相撲協会が6月2日に行った理事会で、行司・木村銀治郎(50歳/芝田山部屋)に対して懲戒解雇処分が下された。着服が確認された金額は2519万円。これは力士会の積立金や力士からの預かり金を含み、主に2019年から2025年までの6年半にわたって断続的に引き出されていた。
中でも2187万円は協会力士会の口座から力士一人一人の徴収金を集めたもので、本来であれば福祉支援や災害復興などに充てられるはずの資金だった。それがほぼ全額、競艇などのギャンブルにつぎ込まれ、返済不能となっている。
◆ 虚偽の指示で別口座からも出金
さらに木村は、「横綱の指示」と称して別の力士会口座からも332万円を出金。この金額は発覚後に全額返済されたが、結果として相撲界の信頼を大きく揺るがす不正行為となった。本人は「ギャンブル依存だった」との説明をしているが、組織のチェック機能が6年間にわたって機能していなかった点にも注目が集まっている。
◆ コンプラ委員会が“背信の極み”と断罪
調査を行った相撲協会のコンプライアンス委員会は、「木村氏の行為は相撲の精神と公共的役割を根底から裏切るものであり、懲戒解雇および退職金の全額不支給が妥当」とする意見を付した。これを受けて理事会は、前代未聞の処分に踏み切った。
◾️内部監査の空白が招いた“6年半の盲点”
◽力士会口座は「監査対象外」だった
着服が長期間見過ごされていた背景には、協会の監査体制の“死角”がある。力士会の積立金は形式上「協会会計とは別管理」とされており、協会の定期監査対象から外れていた。事実、残高報告すら長年省略されていたという指摘がある。
この事件は単なる個人の横領問題にとどまらず、相撲協会が組織として抱える構造的な弱点を露呈させた。特に、協会外とされる会計領域に対しても今後は第三者監査の導入や、会計報告の義務化など制度設計の抜本的見直しが急務とされる。
また、理事会では今後、力士会の会計担当を正式に任命し、年1回の報告義務を課すことで、チェック体制の透明化を図る方向で一致している。木村銀治郎個人の問題を超えた、相撲界全体の統治改革が問われている。
項目 | 木村銀治郎の事例 | 過去の相撲界の金銭不祥事 |
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金額 | 総額約2519万円 | 数百万円〜1000万円規模が多い |
使用目的 | ギャンブル(競艇舟券) | 贈答・不正な借入などが主 |
期間 | 約6年半(2019〜2025) | 通常は短期的な不正が中心 |
処分 | 懲戒解雇+退職金不支給 | 戒告・減俸が大半 |
なぜ木村銀治郎の不正は長期間発覚しなかったのか?
不正の“温床”となった会計の盲点
行司・木村銀治郎の着服行為は、実に6年にわたり行われていた。その背景にあるのは、相撲協会の中でも“監査対象外”とされていた力士会積立金の管理構造だ。
本来、協会が直接管理しない内部団体の会計においては、報告義務や残高提示の慣例が希薄であったため、異常な出金や帳簿の整合性に気づける仕組みが存在しなかった。
芝田山部屋所属の木村銀治郎は、こうした「半自治」の財務構造を巧みに利用。毎場所、出場力士から徴収される積立金を受け取る立場にありながら、2019年から2025年までの間に2000万円以上を舟券購入などに流用していた。
内部通報と“遅すぎた発覚”
最初に異変が表面化したのは2023年後半。力士会の一部若手会員から「帳簿上の残高提示が一切ない」「年度報告がなされない」という声が上がり、協会がコンプライアンス委員会に調査を依頼する形で事態が動いた。
その後、帳簿と入出金記録の不整合が発覚し、ようやく本人への事情聴取と調査が開始された。既にその時点で約2500万円が消失し、返済不能な状態だった。
なぜ内部監査が及ばなかったのか
問題の本質は、協会の「手が届かない領域」が制度的に存在していた点にある。力士会の積立金は、表向きには福利厚生や震災支援など“自主的な用途”に使われるものであり、協会本部の監査から除外されていた。
つまり、「預けたはずの金が、誰にも確認されずに消えていく」構造が6年間温存されていたのである。
▷具体的な“見逃し構造”とは何だったのか?
不在だった報告義務
・帳簿残高の年次報告が制度化されていなかった
・誰も「確認しない」のが常態化していた
第三者チェックの欠如
・会計担当の監査不在
・「信頼」で成り立つ体質に依存
木村銀治郎の不正が発覚するまでの流れ
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2019年〜2023年:積立金から少額ずつ横領開始
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2023年秋:若手力士が帳簿に不信感 → 協会へ報告
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2024年春:調査委員会設置 → 出金記録に矛盾
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2025年5月:本人が着服認める
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2025年6月:懲戒解雇・退職金不支給が決定
見出し | 要点(1文) |
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積立金の盲点 | 力士会の積立金は協会の監査対象外だった |
調査のきっかけ | 若手力士の内部告発が事態を動かした |
長期見逃しの背景 | 管理者の会計報告義務が明文化されていなかった |
監査体制の今後 | 協会は新たに力士会の会計担当制度を導入予定 |
この事件が示す“相撲界の透明性”の限界とは?
信頼で運営されてきた組織の構造的欠陥
日本相撲協会における会計管理は、いわば「封建制」のような信頼ベースで成立していた。その結果、長年にわたって“監査の空白地帯”が放置され、今回のような巨額横領事件が発生した。
木村銀治郎は35年のキャリアを持ち、力士や親方からも信頼されていた存在だった。だからこそ、「この人がそんなことをするはずがない」という盲信が、監査の目を曇らせた。
組織改革の“本気度”が問われる
協会は今回の事件を受け、力士会に会計担当制度を導入し、今後は毎年の残高報告と第三者による確認を行うと発表した。これは遅きに失した対応かもしれないが、再発防止に向けた“初手”として注目されている。
ただし、同様の監査対象外の資金管理が他にも存在する可能性は否定できない。組織としての自己点検と透明化が求められる。
▷事件の核心は「制度」か「個人」か?
木村個人の資質
・ギャンブル依存症との報道あり
・常習性と罪悪感の欠如
組織の制度疲労
・チェック機能の未整備
・“信頼文化”に甘えた体質
事件発覚後、力士たちの間には「預けた金が戻るのか」という不安が広がっている。特に若手力士にとっては、大会ごとに天引きされていた積立金が「消えていた」現実に対する衝撃が大きい。
協会は今後、預託金や積立金の使途を明文化し、デジタル帳簿での開示義務も検討している。制度上の“視える化”が進むかどうかが、信頼再構築の試金石になるだろう。
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若手力士の声:「これが初めてじゃないかもしれないと思うと怖い」
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親方の声:「人の問題にせず、構造を変えねば」
読者はこの事件を「個人の不正」として処理するか、「組織構造の問題」として見るかで評価が分かれる。
相撲界という伝統の中で、“見えない金の流れ”が信頼で処理されてきた構造自体にメスを入れるかどうかが、今後の注目点である。
「見えなさ」が支配する組織はいつか腐る
「信頼で動く組織」という美辞麗句は、時にもっとも醜い腐敗を内包する。
木村銀治郎は、金庫番としての立場を悪用し、2500万円以上をギャンブルに消費した。その金は、若い力士たちが汗と涙で稼いだ“信頼の証”であった。
問題は彼の性格や欲望に留まらない。誰も見ない、誰も問わない――そんな静寂が6年の横領を成立させた。「黙っていても誰も気づかない」。その安心感が、彼を“泥棒”に変えたのだ。
透明性のない組織に未来はない。これは、相撲界だけの話ではない。
【FAQ】
Q1:木村銀治郎は今後、刑事告訴されるのか?
A:協会は「民事・刑事両面で検討中」としており、今後の返済状況や社会的影響によって判断される可能性がある。
Q2:返済義務はあるのか?
A:2187万円のうち、既に332万円を返済。残額については協会と調整中で、分割返済も視野にあるが「全額補填は困難」との見方が出ている。
Q3:他にも同様の不正はあるのか?
A:現時点では「調査中」とされているが、過去の帳簿遡及を行っていると報道されている。
Q4:今後の防止策は?
A:会計担当の明確化と、年次報告制度・第三者監査の導入が正式に決定。実施は次回場所からの予定。
見出し | 要点(1文) |
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事件の発端 | 力士会積立金2500万円超を木村行司が横領 |
発覚の経緯 | 若手力士の告発で調査が開始された |
制度的問題 | 力士会会計は協会の監査対象外だった |
今後の対策 | 会計担当制度と年次報告制の導入決定 |