中古車チェーン破綻
車も返金も届かず
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「車が届かないまま閉店した」「代金を払ったのに連絡が取れない」――。
全国展開していた中古車販売チェーン「カーネル」が、2025年5月末に突然すべての店舗を閉鎖し、多くの顧客が“車もお金も戻ってこない”というトラブルに巻き込まれている。特に注目を集めているのが、「代金を支払ったのに納車されなかった」「納車待ちの車がスクラップされた」といった異常事態だ。
背景には、中古車業界特有の“所有権の曖昧さ”や、業界ルールの不備があるとされ、社会問題として急浮上している。
✅要約表
「なぜ“車が届かず”スクラップにされたのか?」
背景にある“所有権の複雑構造”
中古車販売では、販売会社が実際の所有者ではない場合がある。車はオートオークション会社やリース会社などを経て店舗に並び、顧客が購入を申し込んでも、所有権の移転が完了していなければ納車できない。
今回のケースでは、その「所有権未移転」のまま倒産状態となったことで、車が“誰のものでもない”扱いとなり、結果的に解体処理されたケースが確認されている。
埼玉県の40代男性は、今年3月に300万円のミニバンを契約。しかし納車予定日に連絡が途絶え、5月に警察を通じて確認したところ「車はスクラップ済み」と判明した。
公式発表が後手に回った“閉店処理”
5月31日、カーネル社は公式サイトにて「事業の継続が困難となったため閉店」と発表。だが、その時点ですでに多くの購入者が代金支払済みで、納車前の状態だった。対応窓口も明確でなく、連絡先も一時的に閉鎖されていたことから、混乱に拍車がかかった。
大阪の30代女性は「現地店舗に行ったら貼り紙1枚だけ。誰もいない状態で、車の所在も不明」と証言。
社長声明と“返金予定”の矛盾
同月中旬、社長名義で「返金手続きを進めている」とする声明が掲載されたが、具体的なスケジュールや手段の説明はなかった。現時点で返金されたという報告も一部を除き確認されていない。
所有権トラブル
SNS上には「返金予定と書いてあったが、数週間たっても連絡なし」という声が多数見られる。
業界関係者によれば、今回のような“所有権トラブル”は氷山の一角だという。「見かけ上は販売契約でも、実際は“在庫”ではない車もある。業界の慣習として黙認されてきたが、限界が来ている」と指摘されている。
こうした背景には、中古車販売業者が在庫を抱えるリスクを避けるため、仮押さえ状態の車を「売約済み」として販売している構造的課題がある。
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顧客からの入金後にオークションで仕入れる形が多い
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所有権が移転しないまま展示販売される車両も存在
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書類不備や車検切れなどにより納車できない事例も
項目 | カーネルのケース | 通常の中古車販売 |
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所有権移転 | 一部未実施のまま販売 | 契約時に移転準備が完了 |
納車遅延 | 数週間〜未納車が多発 | 1〜2週間程度が目安 |
対応体制 | 閉店後は実質放置 | 問い合わせ窓口あり |
顧客保護 | 返金保証が未整備 | 多くは保証・補償付き契約 |
「なぜ“カーネル問題”は被害拡大を招いたのか?」
監督官庁による“無音の空白”
中古車販売業者は「古物営業法」に基づき、都道府県公安委員会の許可を得て営業している。しかし、営業停止や破産の兆候があっても、監督官庁から顧客への通達義務はない。そのため、事前に危機を察知できた顧客は皆無に近く、被害を未然に防ぐ制度が整っていないのが現実だ。
専門家は「制度上、行政は“届け出制”に近く、実態把握には限界がある。特にチェーン展開企業では、個別店舗の動向まで見えづらい」と指摘している。
中古車流通の“非対称契約”構造
販売契約の際、顧客が支払った代金に対し、店舗側は「所有権未確定の在庫」を販売しているケースがある。この“非対称性”が、破綻時に一方的な被害を生む構造となっている。納車前の車は、法的には顧客の財産ではないため、処分対象にされるリスクがある。
消費者センターによれば「契約書に『納車不可の場合の責任を負わない』といった条項があった」と相談が寄せられたケースもある。
金融会社・保険との連携不足
車の購入には信販会社を通じたローン契約が絡むことが多いが、車両が未納車の場合でもローン契約が有効となり、支払い義務だけが残るリスクがある。信販会社・販売会社・顧客の三者間で責任の所在が曖昧なまま契約が進行するケースも確認されている。
「ローン審査は通ってるが、車が来ない。解約したくてもローン会社と販売店の間でたらい回しにされた」との声が複数SNSに投稿されている。
今回の事例は、単なる一企業の破綻ではなく「中古車流通の制度設計そのものが時代遅れである」ことを露呈させた。現代の複雑な契約・流通形態に対応できていない法制度や監督体制が、結果的に消費者を無防備な状態にさらしているのだ。
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閉店情報に法的通知義務がない
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所有権・債権者構造が複雑化しすぎている
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契約書上の免責事項が消費者不利に働く傾向
見出し | 要点 |
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行政の対応 | 閉店・破綻時に顧客への通知制度が存在しない |
契約の非対称性 | 所有権未確定の車両が販売される構造に課題 |
金融との連携不足 | ローン支払いが継続し、顧客が不利益を被る |
制度の時代遅れ | 現行制度が複雑な販売実態に対応しきれていない |
契約成立(顧客→販売店) → 信販会社とローン契約 → 所有権未移転の車を納車待ち → カーネル閉店 → 所有権者が車を処分(スクラップ) → 顧客:車も返金もなし、ローンのみ残る
「この問題は今後、どんな問いを社会に突きつけるのか?」
法整備と透明性の再構築は進むのか?
カーネルのようなケースは再発防止が急務だが、「古物営業法」や「割賦販売法」の制度設計そのものに限界がある。顧客が“契約と実際の所有権”の違いを見抜くことは難しく、より強固な消費者保護法制の整備が求められる。
破綻リスクを見抜くための“仕組み”づくり
経営不振が事前に可視化され、利用者が判断できる仕組みは存在しない。これは中古車業界に限らず、エステや学習塾など「前払いサービス業」全体に通じる構造課題である。
この事件を単なる「経営破綻」や「消費者トラブル」として片づけてしまえば、また同じことが繰り返される。むしろ、「契約と所有」「支払いと納品」「サービスと法制度」のズレをどう埋めるかが社会全体の課題として問われている。
制度は黙っていた。社会は、無言の“未納車”を目にしても、仕方ないと目を伏せた。だが、顧客にとってそれは人生の一部だった。
車を買う。それは生活圏の再設計であり、家族の夢であり、時間の選択でもある。その未来を奪う契約が、“書類上の整合”だけで処理されてしまう。法律も行政も、そこにあった想いを拾い上げる言葉を持っていない。
壊れた制度は黙っている。
それを変える言葉を、いま、誰が紡げるだろうか。
✅FAQ
Q1:すでに支払った代金は取り戻せる?
A:現時点では「破産管財人の介入が必要」とされており、全額返金は困難。法的手続きを検討すべき。
Q2:納車されていないが、ローンは止められる?
A:ローン会社によって対応が異なる。個別に交渉する必要がある。
Q3:同様のリスクを避けるには?
A:契約時に「車台番号明記」「所有権者の確認」「キャンセル条項の明記」などを要求すべき。
Q4:行政の今後の対応は?
A:「古物営業法」の見直しや「顧客保護通知制度」の導入が検討課題に挙がっている。
項目 | 要点まとめ |
問題の本質 | 契約と所有権・納品のズレによる被害構造 |
背景構造 | 業界慣習・監督制度・金融契約の不整合 |
被害状況 | 納車されず車はスクラップ、返金も困難 |
社会的問い | 法整備と制度設計のアップデートが急務 |