自動車部品大手マレリが米国で連邦破産法11条を申請。負債7113億円を抱えた再建劇の舞台裏には、DIPファイナンスによる支援や雇用維持の表明がある一方で、グローバル事業再編の波が迫っています。日本製造業に残された道とは?
マレリ米破産法申請
チャプター11申請
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
自動車部品大手「マレリホールディングス」が、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。かつて日産系列の有力企業「カルソニックカンセイ」として知られたこの企業は、再建中にもかかわらず負債総額が7,000億円を超える水準に達し、経営破綻に至った。背景には、再編支援の限界と世界的な自動車業界の変化がある。
見出し | 要点 |
---|---|
申請日 | 2025年6月11日(米時間) |
負債総額 | 約7113億円(49億ドル) |
対象会社 | マレリHD+関連子会社 |
債務構成 | 大半は金融債務(7割以上) |
マレリはなぜ米破産法の適用を申請したのか?
グループの歴史と変遷
マレリは、かつての「カルソニックカンセイ」が母体であり、長年にわたり日産自動車の主要サプライヤーとして成長してきた企業だ。2017年に米投資ファンド「KKR」が買収し、2019年にはイタリアのマニエッティ・マレリと統合して現在の「マレリホールディングス」が誕生。国内外合わせて170以上の拠点を持ち、全世界で従業員約4万人を抱えていた。
日産との関係性も深く、同社のHV(ハイブリッド)・EV(電動車)向け部品では今も取引が続いている。
再建努力と資金繰りの限界
マレリは2022年に日本で私的整理手続き(ADR)を実施して債務を圧縮し、その後も民事再生法による再建を図っていた。だが、自動車業界全体が電動化やソフトウェアシフトに大きく舵を切る中、売上の回復が想定通りに進まず、資金繰りは限界に近づいていた。
2024年には期限内の返済が困難となり、金融債務の一部については弁済猶予を繰り返し依頼していた。そうした中、2025年6月、最終的に米国でのチャプター11申請に踏み切った。
DIPファイナンスとSVP支援体制
マレリは破産申請と同時に、米ファンド「SVPグローバル」からの支援を受ける計画を公表した。11億ドル(約1600億円)規模のDIPファイナンス(再建時の融資)を確保し、再建を目指す。
負債総額約7113億円のうち、大半は銀行団やファンドなどからの金融債務で構成されているとみられ、事業債務(取引先など)よりも金融面の圧力が再建を困難にした要因とされている。
項目 | マレリ(現) | カルソニックカンセイ(旧) |
---|---|---|
所属 | KKR傘下→再編中 | 日産系/上場企業(東証1部) |
売上規模 | 連結:約1.2兆円 | 単体:約8,000億円 |
法的整理 | 米連邦破産法11条 | 過去は民事再生申請なし |
帝国データバンクによると、今回の法的手続きでは事業継続を前提に債務整理が行われており、マレリは「一般商取引や従業員への影響は限定的」との姿勢を明確にしている。
また、支援を受けるSVPグローバル側は、将来的なスポンサー選定も視野に入れており、経営資源の選択と集中が進められる見通しだ。
-
債務の再編は「スポンサー型スキーム」で調整
-
2024年以降の資金繰り悪化が決定打となった
-
旧カルソニック時代からの技術資産が焦点に
破産申請で何が変わるのか?今後のマレリの行方は?
従業員や事業への影響は限定的?
マレリは今回の発表で「事業は継続され、雇用や通常取引に直接的な影響はない」と明言している。これはチャプター11申請が「清算」ではなく「再建型」の破産制度であることに由来しており、現時点では大規模な人員整理や工場閉鎖は発表されていない。
とはいえ、米国での手続きは大きな組織変革の起点にもなりうる。例えば、グローバル拠点の統廃合や、赤字プロジェクトの打ち切りなど、財務の健全化に向けた動きは避けられない。
スポンサー企業との関係と再建計画
現在、マレリに対して支援を表明しているのは、既存株主でもある「SVPグローバル」だ。11億ドル(約1600億円)規模のDIPファイナンスに加え、スポンサー型再建として、今後は他の投資家や部門売却などの選択肢も交渉のテーブルに上がる可能性が高い。
破産裁判所によって再建計画の承認が得られれば、事業ごとの収益性を見直したうえで再出発を図ることになる。日本国内での工場縮小や、日産との関係再構築などが重要な鍵となる。
ステランティスとの関係見直しも?
マレリは欧州最大級の自動車グループ「ステランティス」とも取引関係にあるが、近年は受注量が減少していた。欧州事業が再建の成否に直結するだけに、ステランティスとの戦略提携のあり方にも再編圧力がかかってくるとみられている。
マレリ再建の流れ(2022〜2025)
2022年3月:ADR手続き申請
↓
2022年6月:民事再生法を申請(東京地裁)
↓
2022年8月:再生計画の認可確定
↓
2023〜2024年:資金繰り困難が継続
↓
2025年6月:米チャプター11申請+DIP融資確保
↓
今後:裁判所認可後、事業選別とスポンサー交渉
再建できるのか?それとも“第二のタカタ”になるのか?
問われる「ポストKKR」の責任と限界
KKRによる買収は短期的にはグローバル統合を促進したが、その後の赤字体質や過剰債務構造への対応が後手に回ったとの指摘もある。今回の破産申請は、「ポストKKR時代」の財務モデルが破綻したことの表れでもある。
傘下の再建ファンド「SVPグローバル」が支援を主導するとはいえ、その先にあるのは資産切り売り型の整理か、次なる統合か、見通しは不透明だ。
タカタ破綻との類似と相違
自動車部品メーカーが国際的に破綻した事例として「タカタ」が思い出されるが、マレリとは性格が異なる。タカタは製品欠陥に起因した法的賠償問題だったのに対し、マレリは業績不振と構造問題が原因である。
それでも「名門メーカーの破綻」という構図は酷似しており、日本の製造業の再編ドミノを示唆する可能性もある。
マレリという企業は、かつて日産の片腕として日本の製造業の現場を支えていた。その企業が今、グローバル再建の名のもとに米国で法的整理に踏み切る。この事実に我々はどう向き合うべきか?
技術の力も、ブランドの誇りも、資本の論理には抗えない。再建という言葉の裏側にあるのは、人の手を離れた経済合理性の波だ。そして日本企業の多くが、その波の中で静かに崩れていく。
だが、本当に崩れているのは「現場」なのだろうか。あるいは、それを見ないふりをしてきた「構造」そのものかもしれない。
読者の立場から見れば、「海外での法的整理=終わり」と誤解されやすい。しかし、チャプター11はあくまで「継続前提の再建」であり、雇用や地域経済が直ちに損なわれるとは限らない。
重要なのは、再建の中身にどれだけ「未来」が織り込まれるかである。数字だけでは測れない「現場の再生」が問われている。
✅FAQ
Q1:マレリの破産申請で、従業員は解雇される?
A1:いいえ。現時点で大規模なリストラは発表されていません。通常業務は継続されます。
Q2:なぜ日本でなく米国で破産手続きを?
A2:グローバル事業展開を前提に、米国の再建型破産(チャプター11)が制度的に有利なためです。
Q3:再建の見通しは明るい?
A3:DIP融資は確保済みですが、収益構造改革の成否にかかっています。
Q4:日産との関係はどうなる?
A4:取引は継続中ですが、今後の構造改革次第で変更の可能性があります。