トランプ前大統領が「USスチールは米国が51%保有すべき」「大統領が支配権を持つ黄金株を持つべき」と発言。日本製鉄による買収計画に突如浮上した政治的リスクを検証し、CFIUSの動向や米中・日米関係への影響を読み解きます。
トランプ氏
“黄金株”を主張
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🇺🇸 トランプ氏「米が51%保有しコントロール」発言、日鉄買収に新たな波紋
米大統領選を目前に控えたなか、トランプ前大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を巡り、“米国が支配権を持つべき”との意向を示す発言を行った。「黄金株を持つ」「51%を米国が所有する」とする主張は、市場・外交・安全保障に新たな緊張を生んでいる。これまで日鉄とのパートナーシップを肯定していたトランプ氏が、なぜこのタイミングで強硬な発言に転じたのか。背景には、買収を巡る米国内の政治的懸念と、大統領としての権限誇示が複雑に絡み合っている。
✅要約表
なぜトランプ氏の発言が波紋を呼んだのか?
米スチール大手USスチールの買収を巡り、日本製鉄(以下、日鉄)との提携に一度は肯定的だったトランプ氏が、一転して“米国が支配権を握る”という主張を打ち出したことが波紋を広げている。SNS投稿では「米国が51%の所有権を持つ。黄金株を通じて大統領が完全にコントロールする」と語り、米国が買収後も実質的な経営権を保持する構想を明言した。
この発言は、日鉄による完全子会社化の前提と食い違っており、両社間の「パートナーシップ構想」にも亀裂が入りかねない事態となっている。さらにこの構想が、国家安全保障を巡るCFIUS(対米外国投資委員会)による審査にどう影響するのか、不透明感が広がっている。
一部の専門家は「これは経済的というより、政治的パフォーマンスに近い」とも指摘する。実際のところ、トランプ氏がこの発言で目指したのは“交渉の主導権”であり、日鉄との対話を前提とした揺さぶりである可能性もある。
いつ・どこでの発言か?
今回の発言は2025年6月12日、トランプ氏の交流SNS「TRUTH Social」に加え、記者団への非公式なブリーフィングの中で行われたものである。メディア各社(Reuters, AP, Bloomberg)はいずれもこの発言を速報扱いで取り上げており、政治的インパクトの大きさが浮き彫りとなった。
特に注目されたのは「私は誰がトップになるのか少し心配だったが、完全に支配できる」と語った点であり、大統領の権限行使を強調した構図が米国内外で議論を呼んでいる。
黄金株とは何か?
黄金株(ゴールデンシェア)とは、通常の株式とは異なり、特定の重要事項について拒否権や承認権限を持つ特別な株式のことを指す。欧州では、公共インフラや防衛産業の分野で国家が介入する形で使用される事例も存在するが、米国においては極めて異例な制度である。
仮に米国がこの仕組みを実行するには、立法措置やCFIUSの特例判断が必要となり、実現性には多くの疑問が残る。トランプ氏の主張は“象徴的表現”に過ぎないという見方もあるが、法的裏付けが不明なまま発言されている点に危うさも感じさせる。
トランプ氏発言の全容(要点抜粋)
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「我々は黄金株を持つ」
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「大統領がコントロールする」
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「米国が51%の所有権を持つ」
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「誰がトップになるか心配だったが、完全に支配できる」
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「日鉄は170億ドルも投資する。素晴らしい話だ」
✍️黄金株の“実態と過去事例”
黄金株制度は、国家安全保障や公共性が高い企業への外国投資を制限・監視するための“政治的安全弁”として各国で導入されてきた。
英国ではロールスロイスや通信会社BTグループに対してこの制度を適用してきた経緯があり、フランス・ドイツもエネルギーや航空宇宙産業を対象にした実績がある。だが米国では過去に制度として法制化された例はなく、今回のトランプ氏の発言は“米式黄金株”という新たな枠組みの提案とも捉えられる。
このような制度は、表向きの「合弁」や「協業」体制の裏で国家が事実上の veto 権を保有する構図になりがちで、企業の自由な意思決定と衝突する恐れもある。
米国での類似制度
📊日鉄×USスチール×トランプ構想の相違点
項目 | 日本製鉄(NSC) | USスチール | トランプ発言による構想 |
---|---|---|---|
所有権構想 | 100%子会社化 | 買収対象企業 | 米国が51%保有 |
主導権構想 | 日本側が経営統括 | 経営陣交代を想定 | 大統領がコントロール |
合意状況 | 最終合意目前(6月) | 労組承認済み | 「まだ最終合意していない」(5/30) |
法的根拠 | 買収契約とCFIUS承認 | 現行米商法に準拠 | 黄金株制度は米国では未整備 |
トランプ発言は買収計画にどう影響するのか?
日本製鉄が進めるUSスチール買収は、当初、労働組合や経営陣の承認を得て最終段階に向かっていた。だがトランプ氏の「米国が51%保有する」「大統領が支配権を握る」といった発言は、計画の根幹を揺るがしかねない。
とりわけ、米国内での審査機関CFIUS(対米外国投資委員会)の判断に大きな影響を及ぼす可能性がある。国家安全保障上の観点から、政府の方針が変われば、買収自体が差し止めとなるリスクも生じうる。
トランプ氏は2024年時点でこの買収に前向きな姿勢を示していたが、大統領選が近づくにつれて“愛国的”なスタンスを強調する発言が増えており、政争の具として利用される恐れもある。
CFIUSの立場と判断の方向性は?
CFIUSは現在、国家安全保障を理由に外国企業による米国企業の買収を審査する独立機関であり、米大統領に最終的な拒否権限を与えることができる。
過去にはTikTokの親会社バイトダンスや、BroadcomによるQualcommの買収案件など、複数の買収案件を国家的リスクとして阻止してきた。
今回の日鉄のケースでは、すでに労組や関係当局の承認が進んでおり、CFIUSも異例の制限を設ける理由は乏しいとされていたが、トランプ氏が“支配権”に言及したことで、政治的判断が強まる懸念が出てきている。
日鉄の戦略に変化はあるのか?
日鉄は6月時点で「買収は予定通り進んでおり、変更はない」との立場を崩していない。だが、米国内での政治的地合いが変化すれば、買収価格の見直しや経営統合の延期など、戦略変更を迫られる可能性はある。
特に、米国での製造拠点・雇用維持・取締役構成などを再協議し、「象徴的な米国主導」を演出する方向にシフトすることもありうる。
米国内の政治が経済取引に介入する状況は、日本企業にとっても大きなリスクファクターとなっており、買収後の運営に不確実性をもたらしている。
🔁買収計画に対するトランプ発言
トランプ発言(6月12日)
↓
「米が51%保有すべき」+「黄金株で大統領が支配」
↓
CFIUSが国家安全保障上の懸念を検討
↓
審査結果に影響 or 制限付き承認の可能性
↓
→ 買収契約の条件見直し
→ 経営統合プランの再構築
→ 政治的パフォーマンス化のリスクも
セクション | 要点 |
---|---|
前半まとめ | トランプ氏が「黄金株・米国51%保有」を主張し、買収計画の前提が揺らぐ発言を行った |
後半注目点 | CFIUSの判断が買収を左右する可能性。日本製鉄は戦略見直しを迫られるかもしれない |
この問題の本質は“法”ではなく“感情”
トランプ氏の発言は、厳密な法制度や経済合理性に基づくものではなく、「米国の象徴的産業を外国に渡すな」というナショナリズムに根差している。黄金株という制度は米国には存在しないが、それを持ち出してでも「大統領がコントロールする」と表明した背景には、有権者への政治的メッセージが込められている。
このような“感情ベースの介入”が経済活動の予見性を曇らせ、企業にとってはコントロール不能なリスクとなる。トランプ政権再登場を前提とするなら、単なる法遵守だけでは対応できない時代が再び訪れる可能性がある。
米中・日米関係への影響はどう広がるのか?
今回のトランプ発言は、USスチール買収という一企業間の取引にとどまらず、米国の通商政策や対中政策、さらには日米の戦略的パートナーシップにも波及する可能性がある。
トランプ氏が黄金株を語る文脈で「米国の鉄鋼は安全保障であり、中国やロシアに渡させない」と言及した点からも、発言の背景には“米中対立”が透けて見える。
一方、日本政府は日鉄の民間企業としての判断を尊重しつつ、日米関係の維持を最優先としており、表立って政治介入は控えている。だが今後、買収問題が米議会や大統領選の争点としてクローズアップされれば、日本にとっても避けられない外交課題となるだろう。
📝「誰の手にも鉄の炎は渡さない」
誰もが気づいている。これは“経済”の話ではなく、“誇り”の話なのだ。
黄金株などという制度が、法の整合性もなく語られる時点で、この議論は論理を超えている。トランプは、それを知っていて、あえて言葉にした。
鉄は、工業の基礎であり、国家の象徴でもある。だが今、それは「誰のものか?」という問いにさらされている。
日鉄の買収が仮に進んでも、支配権を誰が持つのか、国民がどう感じるのか──その「感じ方」こそが最終的な勝者を決める。
自由と安全保障、投資と国益、法と感情。
この矛盾の裂け目に、私たちの時代は立っている。
🧾まとめ