稲川淳二が語る怪談の魅力は「人をつなぐ力」。77歳となる今、懐かしさと円熟味を加えた“夏の風物詩”が再び始まる。2025年の怪談ナイトは全国39カ所52公演。記憶に残る情緒と余韻、そして“じいちゃんの怪談”として未来に残す挑戦とは。
稲川淳二77歳
怪談と人生の円熟期へ
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
稲川淳二77歳「怪談にはちょうどいい年齢」
――33年連続公演、懐かしさで人をつなぐ
怪談の語り手として唯一無二の存在感を放つ稲川淳二が、今年も夏の全国ツアー「怪談ナイト」を開催する。77歳という年齢に達した今、語り部としての深みを増した彼は、ただ怖がらせるのではなく、人と人との“情”をつなぐ怪談の力を信じ続けている。33年間、一度も止まることなく続けてきた公演には、稲川自身の人生観と“語り”への覚悟がにじむ。
稲川淳二はなぜ怪談を語り続けるのか?
「人と人をつなぐ」怪談の魅力とは?
2025年8月で78歳となる稲川淳二。にもかかわらず、その語りは衰えるどころか、ますます味わい深さを増している。
「怪談って、人をつなげるんですよ」
そう語る稲川は、観客1,000人を超える会場でも、まるでひとつの“縁側”のような空気を生み出す。実際、彼のライブを通じて結婚したカップルは、本人の知る限り5組にのぼるという。
「ホラー映画で“親しくなる”って話は聞かないけど、怪談は違うんです。どこかに“情”があるから、あの空気に人は引き寄せられるんですよ」と笑った。
年齢を重ねたからこそ生まれる“情緒”とは?
稲川が語る怪談には、怖さだけでなく、“懐かしさ”や“人間らしさ”が詰まっている。
「昔は、夏になると祖父母が怪談をしてくれた。私は、あの“おっかねえおっかねえ”という感じを、もう一度持ち帰ってきたい」
自身も“語る祖父”のような年齢に達したことで、怪談に“年齢の説得力”が加わったという。
「今の若い子たちが、いつか“昔、夏に稲川淳二ってじいちゃんが怪談してくれた”って思ってくれるような存在になりたいね」
恐怖を超えて記憶に残る、そんな“語り”の再定義が始まっている。
ライブで結婚した5組のエピソード
・2013年:北海道公演で出会い、1年後に婚約。
・2016年:名古屋の握手会で再会し交際に発展。
・2020年:コロナ禍の制限下で結婚式は挙げられなかったが、オンラインライブでお祝いコメント。
・2022年:2人とも怪談マニアで、交際時に怪談イベント巡り。
・2024年:稲川淳二本人の手紙が“媒酌人代わり”になったカップルも。
稲川の怪談がこれほど長年愛され続けてきた背景には、「人の温度」がある。
怖さの中にもどこかに“余韻”があり、現代の「速さと切断」に疲れた心に寄り添ってくれる。
コロナ禍を経て、「会場でひとつになる体験」の価値は一層高まった。
ただ聞くだけでなく、“ひとりじゃない”という安心感が、怪談ナイトの真の魅力なのかもしれない。
「ホラー」と「怪談」の違い
ホラー | 怪談 |
---|---|
急な恐怖・驚かせ方重視 | じわじわとした恐怖・語りの余韻 |
映像や音で“外側”から恐怖を与える | 言葉で“内側”から想像を膨らませる |
他者との関係性は薄い | 会場で“人の縁”を生みやすい |
怖さにフォーカス | 怖さの奥に“情”や“懐かしさ”がある |
稲川淳二の怪談は“何を語っている”のか?
怪談の“語り”に込められた「生と死の境界」
稲川淳二が語る怪談は、単なる“幽霊話”ではない。そこには、亡くなった者の気配や、過去を忘れた人間への問いかけが潜んでいる。
「怪談は、見えないものを信じる心があって初めて成立する」
そう断言する稲川の語りには、“この世”と“あの世”のあわいに立ち止まる感覚がある。
彼にとって怪談とは「死者との対話」であり、だからこそ、語る者の覚悟と、聴く者の受け止め方が問われるものなのだ。
33年間止まらなかった理由とは?
全国を回る「ミステリーナイトツアー」は、1993年から1度も欠かすことなく続いている。
その裏には、「年齢を理由に辞めたくなかった」という想いがある。
「“老い”も“病”も、全部引っ提げて語ってやろうと決めたんですよ。
年を重ねることで語りが鈍るなら、それも“味”にする。それが怪談でしょ」
この強さが、観客の支持を得続ける理由なのかもしれない。
2025年のツアー予定
・2025年夏は全国52か所で開催
・新作怪談5本+心霊写真20枚を披露予定
・東京公演(8月末)では特別ゲストとの対談コーナーあり
・年内最終公演は故郷・静岡で予定
怪談に宿る“懐かしさ”と“再生”の力とは?
「怖いのに安心する」…それはなぜ?
稲川の怪談には、“怖い話なのに温かい”という矛盾が宿っている。
これは“死者の話”でありながら“生きている人間の記憶”でもあるからだ。
「昔の道、忘れられた村、誰かの名前…怪談には、無くなりかけたものが息づいている」
そう語る稲川は、“怖さ”というより、“記憶の奥行き”を語っているのかもしれない。
昭和と令和をつなぐ“語りのちから”
怪談ナイトの来場者には、かつて親に連れられてきた子どもが、自分の子どもを連れて再び訪れることもあるという。
「親子三代で来てくれるなんて、もう“怖い”より“ありがたい”ですよ」
語る稲川のまなざしには、怪談が“文化”となって受け継がれている手応えがある。
近年はYouTubeやSNSで怪談が消費されがちだが、“ライブでの語り”には、画面越しには伝わらない“気配”がある。
「話す者と聞く者の間に“呼吸”がある。だから、怪談は本来“生もの”なんです」
その言葉通り、今年もすべての会場でアドリブが入り、声の震えや間の取り方に“その場の空気”が宿っている。
怪談とは、時代が変わってもなお“口伝”が命の芸能なのだ。
稲川怪談の“心の流れ”
-
開演(照明が落ちる)
↓ -
日常風景の導入(懐かしい話から)
↓ -
徐々に“ズレ”や“不穏”を語る
↓ -
怪異の核心と“怖さ”が到来
↓ -
余韻とともに「人の想い」が残る
↓ -
会場が“あたたかい空気”で包まれる
見出し | 要点 |
---|---|
怪談は死者との対話 | 生と死の境界を語る“言葉の芸” |
年齢とともに深化 | 77歳の語りに深みと覚悟が宿る |
来場者が“三世代”に | 親子で通う家族も多数 |
怖さの奥に“懐かしさ” | 昭和的記憶を媒介する怪談空間 |
稲川淳二という存在は、単なる“怖い話の人”ではない。
彼の語りを聴く体験は、“記憶の深層”に触れ、“会ったことのない人の想い”に出会う場でもある。
観客の感情を“恐怖”から“懐かしさ”へ、そして“感謝”へと導く稲川怪談は、“語り”の再評価でもある。
「老い」とは、恐怖を語る資格だ
怖さとは、記憶の揺らぎのことだ。
稲川淳二の怪談は、人の意識の端っこに触れる。
それは、亡霊の話ではない。忘れられた人、埋もれた土地、切られたつながりの記憶。
彼は、それを“語り”というかたちで、もう一度引き上げようとしている。語りとは、記録ではない。そこに生きた気配がなければ、それはただの文章だ。
稲川は、声で記憶を彫り直す。語り部という言葉の意味を、あらためて突きつけてくる。
❓FAQ(3問)
Q1. 稲川淳二さんは2025年も全国ツアーを行いますか?
はい。2025年も全国52公演を予定しており、新作怪談や心霊写真解説が含まれています。
Q2. 稲川さんの怪談の特徴は何ですか?
「怖い」だけでなく、「懐かしさ」「情」「余韻」を重視した“語り”です。死者との対話や記憶の再構築が特徴です。
Q3. なぜ怪談が人をつなぐのですか?
“情”が込められており、会場で共有する「空気」や「体験」が、知らない人同士にも親近感を生み出すからです。