60代男性がSNSで知り合った女性を名乗る人物に投資話を持ちかけられ、約4億600万円をだまし取られました。この金額は全国で把握されているロマンス詐欺の中で過去2番目の高額被害。警察は手口に共通点があるとし、SNSを通じた詐欺への注意を呼びかけています。
ロマンス詐欺で4億円超
過去2番目の高額被害
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札幌市で発覚したロマンス詐欺事件が、全国でも過去2番目となる高額被害を記録しました。SNSで知り合った相手に恋愛感情を抱いた男性が、わずか数カ月のうちに4億円以上をだまし取られたこの事件は、単なる特殊詐欺では語れない現代的な“心の盲点”を突いた犯行でした。警察庁は2024年から「SNS型ロマンス詐欺」を独立分類として警戒を強化しており、今まさに全国で急増中の被害形態として注目されています。
なぜ札幌の事件は過去2番目の高額被害となったのか?
どのような接点から詐欺が始まったのか?
札幌市内に住む60代の男性は、2024年11月ごろにSNS上で日本人女性を名乗る人物から突然メッセージを受け取りました。相手は「マラソンが趣味」と語り、同じ趣味を持つことから親近感を持たせてきたとされています。
日常的なやり取りの中で次第に恋愛感情が芽生えるような空気を作り出し、信用関係が築かれたのち、「暗号資産で一緒に資産を増やそう」といった形で投資の話を切り出してきました。これに男性は応じ、少額から徐々に金額を増やしていきます。
送金はなぜ止められなかったのか?
最終的に男性は2025年2月上旬から5月20日までのわずか3カ月間に、指定された口座に10回にわたって合計4億600万円を送金してしまいました。これは「暗号資産が約50億円まで増えている」という虚偽の報告を信じてしまったためです。
このようなロマンス詐欺では、いったん送金が始まると「もう少しで払い戻しできる」「あと一歩」といった言葉で継続的に送金を促されるケースが多く、心理的には“損切りできない”投資と同じ構造になってしまいます。
手口の中で特徴的な点はあったのか?
特徴的なのは、「払い戻しの際に高額な手数料が必要」と言われたことで、男性がようやく詐欺に気づいたという点です。これは典型的な“出口詐欺”の手口であり、返金を装ってさらに金を引き出すステップです。
警察庁によれば、こうしたSNS型ロマンス詐欺では「送金までの信頼形成」が高度に設計されており、単なる“なりすまし”詐欺とは異なる精神的影響力を持つことが、被害額の大きさにもつながっています。
SNS上での会話ログには何が?
報道では、相手が日常の些細な会話から信頼を築き、「一緒に大会出ましょうね」など未来を共有する発言を重ねたことが明らかになっています。これにより、被害者は「この人とは将来がある」と信じ込んでしまった可能性があります。
この札幌の事件が示すのは、「詐欺=高齢者や判断力の弱い人が引っかかる」という偏見がもはや通用しないという現実です。SNSに慣れた層でも、心の隙間に入り込まれれば誰でも“ターゲット”となりうることを、この事件は物語っています。
また、男性は「SNSは気軽なやり取りだから」と警戒心を解いていたとされ、親密な空気感の中で金銭を要求されると、“恋人関係にある相手への援助”のように錯覚してしまったと考えられます。
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恋愛詐欺は年齢・性別を問わず起きている
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被害者に共通するのは「孤独」と「信頼感」
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金額だけでなく、精神的なダメージも深刻
全国被害との比較
分類 | 件数(2024年) | 総被害額 | 平均被害額(推計) |
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SNS型ロマンス詐欺(全国) | 3824件 | 約401億円 | 約1050万円 |
北海道内ロマンス詐欺 | 35件(5月末時点) | 約4億6654万円 | 約1330万円 |
札幌の個別案件(今回) | 1件 | 4億600万円 | ―(突出) |
なぜ詐欺グループはSNSを使うのか?
SNSを使ったロマンス詐欺は、被害者の心理的な隙間を巧妙に突く手口として年々巧妙化しています。今回の札幌の事件では、60代男性に対して「マラソン」という共通の趣味を装ったアプローチが行われました。SNSの利便性と匿名性が、加害者側にとって“獲物”を選ぶ効率的なフィルターとなっているのです。
このようなSNS詐欺の背景には、誰もが孤独や承認欲求を抱えやすい現代的な人間関係の脆弱性があります。特に中高年層がターゲットになりやすいのは、詐欺の入り口が“会話”である点に起因します。
詐欺グループは、自動化ツールや複数アカウントを用いて、一度に大量のターゲットに接触。反応があった相手に絞り込んで、時間をかけて信頼関係を築くという「長期戦」を仕掛けてきます。
なぜ中高年男性が狙われやすいのか?
SNSを通じたロマンス詐欺の被害者像には一定の傾向があります。それは、比較的経済的余裕のある60代以上の男性です。年齢的にも、SNSの利用に慣れておらず、デジタルコミュニケーションに対する警戒心が薄い場合も多いといわれています。
彼らは「支援」「愛情」「未来の共有」といった言葉に心を動かされやすく、その心理を突いた詐欺の流れが形成されています。マラソン、投資、家族、など共通点を意図的に作り、話題を展開する巧妙さも加害者の“武器”です。
詐欺メッセージの実例とAIの対策
・「あなたと一緒にマラソン大会に出るのが夢」
・「投資で増えたら一緒に旅行したい」
これらの言葉の背後には、“信頼感”を疑似的に構築する目的が隠されています。現在、これらの詐欺メッセージをAIで自動検知する試みも一部で進んでおり、警察庁も通報された内容からパターン解析を行っています。
SNSを用いたロマンス詐欺の被害件数が増加する一方で、加害者側の“効率性”も向上しています。近年は「AIで自動翻訳された日本語」や「ボット的な文体」を用いた詐欺も確認されており、まるでカスタマーサポートのような“違和感のない会話”が演出されることもあります。
さらに問題なのは、「最初から恋愛目的ではなく、あくまで投資が主題」とされるケースも増えてきていることです。これにより、恋愛感情が絡まない“投資詐欺”として錯覚され、届け出が遅れる傾向が指摘されています。
SNS詐欺の新傾向
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AI翻訳による自然な文章表現
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投資や副業が主題の「恋愛要素薄型詐欺」
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動画や音声通話を用いて“実在感”を演出
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LINEなどマルチSNSへの移行と拡張化
【SNS型ロマンス詐欺の流れ】
出会い系アプリ・SNSで接触
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趣味や価値観の共通点で信頼形成
↓
日常的なやり取りで“恋愛感情”を誘導
↓
投資や支援名目で送金要請
↓
「資産が増えた」と見せかけ送金継続
↓
払い戻し要求に「高額な手数料」を提示
↓
異変に気付き、詐欺被害に至る
見出し | 要点 |
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SNS詐欺の特徴 | 匿名性・趣味アプローチで接近 |
被害者の傾向 | 中高年男性に集中、心理的隙間 |
投資詐欺の変化 | 恋愛感情より金銭目的が強化 |
啓発の重要性 | 被害届が氷山の一角の可能性 |
なぜ被害は繰り返されるのか?
全国で詐欺被害が報告されているにもかかわらず、なぜロマンス詐欺は減らないのでしょうか。その背景には「恥の感情」と「信用の逆転現象」が存在しています。詐欺被害者は、恋愛やお金の話が絡むことで、周囲に相談しづらい状況に陥りやすく、自ら“孤立”を選んでしまうのです。
また、加害者は一貫して“愛情”や“未来の計画”を語りながら、金融的な話にスライドしていきます。被害者は、最初は疑っていても「この人だけは違う」と思い込むようになり、金銭要求にも「信頼関係の証」として応じてしまいます。
被害者はなぜ届け出をためらうのか?
ロマンス詐欺の届け出率は非常に低いとされます。その理由は、「人に言えない」「自分が騙されたと認めたくない」という心理的ハードルにあります。
特に高額被害になればなるほど、「自分の判断ミスではなく、相手の事情がある」と信じたい気持ちが強くなり、結果として被害報告が遅れるのです。今回の4億円超という被害も、約2年間にわたる送金の末にようやく明るみに出たものでした。
「自己責任論」の落とし穴
社会にはびこる「騙された方が悪い」という認識は、被害者をさらに沈黙に追い込みます。実際、札幌の被害男性も、周囲には一切相談せず、すべて一人で送金していたとされています。
この“自己責任の罠”が、詐欺を“可視化されない犯罪”にしているのです。
読者にとって「自分は騙されない」という無意識のバイアスは非常に危険です。SNSの中では、見知らぬ誰かと繋がることが日常化しており、誰でも詐欺の入り口に立つ可能性があります。
被害者像を“特別な誰か”として片付けず、身近な話題として家族や職場で共有することで、ようやく詐欺対策は機能し始めるのです。
信じる力と裏切りの熱量について
人が人を信じるという行為は、論理ではない。
それは、渇きに似た衝動であり、傷を舐め合うような温度である。
だからこそ、詐欺師たちは愛を使う。金ではなく、まず言葉で入り込む。
見えない相手との関係に「未来」を夢見た男は、4億円という現実を失った。
だが失ったのは金だけではない。信じた時間、差し出した温度、裏切られた記憶。
その全てが、SNSの小さな画面の向こうで、灰のように消えたのだ。
「信じた自分を許せない」
この言葉が胸を突く。
詐欺とは金の問題ではなく、感情の領域を侵されることなのだ。
そして、我々もまた、その可能性の中にいる。
──気づかぬうちに。
✅FAQ(3問)
Q1. なぜSNSが詐欺の温床になるのですか?
匿名性が高く、接触のハードルが低いため、加害者にとって効率的なターゲット接触手段となっています。
Q2. ロマンス詐欺と投資詐欺の違いは?
ロマンス詐欺は恋愛感情を利用するのに対し、投資詐欺は利益誘導を主軸に金銭を引き出しますが、近年は両者が組み合わさることも多くなっています。
Q3. 被害を防ぐにはどうすればよいですか?
怪しい話は必ず第三者に相談し、「一人で判断しない」ことが最も有効な対策です。通報も躊躇せずに行いましょう。