「日払いOK」「月収100万円可」──甘い言葉に誘われ入社した先で待っていたのは、局部写真の送信強要と“違約金150万円”の脅迫だった。SNS求人を悪用した新型の性搾取構造と、被害者たちが語るリアルな証言をもとに、社会が見逃している闇に迫る。
高収入求人の裏側
150万円の罠
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
甘い言葉につられて面接に行った先で、待っていたのは“わいせつな写メ強要”と「罰金150万円」の脅しだった。
SNSと高収入求人が交差する現代、若者たちは新たな“労働型性搾取”に晒されている。
一見、普通の事務職のように装われた求人の裏で、静かに拡大するこの問題。今回は実在の被害証言をもとに、構造的リスクと社会の見落としを掘り下げていく。
要約表
見出し | 要点 |
---|---|
被害者の背景 | SNSで高収入求人を見て応募した20代女性 |
強要の実態 | 面接後に「局部写メ送信」「写メ日記」強制 |
脅しの手口 | 違約金150万円を根拠に従わせる脅迫構造 |
社会的問題 | 労働契約を装った性搾取が広範に拡大中 |
なぜ「高収入求人」で若者は騙されてしまうのか?
見せかけの「オフィスワーク」募集
都内の大学に通うAさん(仮名・22歳)は、SNSで流れてきた「インフルエンサー事務サポート募集」という求人に興味を持った。仕事内容は「SNS運用代行」「画像管理」などと記載されており、日給3万円という破格の報酬も魅力的に映ったという。
実際に連絡を取って面接を受けると、「顔出しなし・服装自由」といった自由な条件も提示され、「事務作業中心です」と説明されたことから、Aさんは契約書にサイン。だが、配属先を伝えられた直後から、状況は一変する。
「“写メ日記の投稿は義務です”と言われて。“今日はここにいます”という感じで、下着姿や局部が映る画像を毎日送れと指示されました」
Aさんは驚いて「そんな話は聞いていない」と主張するも、運営スタッフは「契約書にあるでしょ」「違約金は150万円」と圧をかけてきたという。
SNS文化と“映え”依存の罠
こうした求人は、InstagramやX(旧Twitter)を活用して「おしゃれ」「可愛い職場」という演出を仕掛けてくる。実際の職場は風俗営業に近く、しかしそのことを直接明かさないため、応募者は「映えるアルバイト」くらいの認識で足を踏み入れてしまう。
「SNS映え」「インスタ営業」などの言葉で、実態をマスキングしている場合が多い。
こうした求人が狙うのは、“情報を調べる前に行動する層”である。
偽装求人の構成パターン(被害者証言より)
-
募集名:「SNS運用スタッフ」や「画像整理・事務」
-
面接時の説明:「スマホで写真をアップするだけ」
-
実際の業務:「全裸写真送信」「チャット待機」
-
拒否時の対応:「罰金150万円」「弁護士が動きますよ」
この種の詐欺的構造は、従来の「スカウト型風俗勧誘」とは大きく異なり、「契約」を根拠にした心理的強制力を最大限に活用している点が特徴だ。
つまり、契約という“正当化のフレーム”を利用して、「従わないあなたが悪い」という空気を意図的に作り出している。
また、罰金150万円という金額設定には明確な“意図”がある。
-
少額では本気度が伝わらず
-
高額すぎると「嘘」とバレる
-
→現実味のある金額として「150万円」が多用される傾向にある
▷なぜ騙されるのか
-
「映える仕事」という幻想
-
契約書の内容が曖昧または読まれていない
-
拒否後に即座に“脅し文句”を準備している
-
被害者が「誰にも相談できない」構造(性関連が絡むため)
分類 | 従来の風俗求人 | 偽装型高収入求人(本件) |
---|---|---|
募集名 | 店舗名+風俗内容を明示 | SNS運用・事務などに偽装 |
面接での説明 | 業務内容が具体的に提示 | 抽象的・業務内容を濁す |
強要の方法 | 口頭による圧力・説得 | 契約書と違約金で心理的拘束 |
拒否した場合 | 他の店舗へ誘導など | 違約金請求や弁護士名の脅し |
なぜ「違約金150万円」の脅しが成立してしまうのか?
心理的拘束と「契約」の罠
被害者のAさんが「断りたい」と伝えたとき、スタッフはすぐに「契約違反は150万円です」と告げてきた。提示された契約書には確かに「業務に従わない場合、損害賠償あり」といった文言が含まれていたが、Aさんはそれを理解しないままサインしていた。
「まさか、写メを送る業務とは思ってなかった。契約の意味がわからなかった」
― 被害女性Aさんの証言
いわばこの脅しは「契約書の雰囲気」と「数字の圧」で心理的に相手を封じ込める手口だ。法的に実効性は乏しいが、若者がそれを知らずに怯え、従ってしまうケースが後を絶たない。
「弁護士が動く」「法的措置を取る」と言われたら
多くの偽装企業が用いる常套句が「弁護士が動く」だ。これもまた実際には根拠がないか、法的手続きにすら入っていないが、法律や裁判に詳しくない人ほど恐怖を覚える。
「本当に訴えられたらどうしよう」「親にバレたら終わり」
→この不安が、行動を止める“無言の手錠”となる。
脅迫メッセージの文面(実際の被害報告より)
-
「契約違反により損害金150万円が発生します」
-
「弁護士に相談済みです」
-
「逃げるなら弁済義務を親に請求します」
こうした脅し構造には、法律の知識格差と心理的プレッシャーが巧みに利用されている。
-
被害者は若年層や学生が中心
-
相談窓口が“性行為に関する内容”ゆえに利用しづらい
-
親や知人に知られたくないという羞恥心が、沈黙を強制する
この“声を上げられない構造”こそが、被害を繰り返す本質であり、対策が進みにくい最大の壁でもある。
▷違約金脅迫
高収入求人に応募
↓
オフィス面接・契約書にサイン
↓
就業直前に「局部写メ・日記強制」の指示
↓
拒否すると「契約違反」→違約金150万円の脅し
↓
弁護士名・親バレの恐怖で沈黙
↓
そのまま業務継続または金銭支払いへ追い込まれる
なぜ“声を上げられない”被害者が後を絶たないのか?
「性的内容」と「親への発覚」が重なる沈黙構造
被害者たちの証言で最も多いのは、「誰にも相談できなかった」という声だ。写メ日記の内容が性的であるため、家族や友人、警察にも打ち明けにくい。仮に訴えた場合でも、「あなたがサインしたんでしょ」と言われかねないという恐れもある。
「自分が悪いのかなと思ってしまった」
「誰にも言えないから、結局従うしかなかった」
― 実際の被害者の声より
なぜ行政や法整備では防げないのか?
現行法では「業務上の性的強要」や「契約による性行為強制」を明確に規定する条文が存在せず、民事訴訟を前提とした対応しか難しいのが実情だ。
-
刑事事件に発展しにくい
-
契約の自由の原則が強く働く
-
風俗業と“偽装”の見分けが曖昧
つまり、制度が“追いついていない”。
労働契約の限界
この国は「自由」という言葉を過剰に尊びすぎている。
契約の自由、選択の自由、性の自由。それらの響きは心地よく、解放的で、自己決定を肯定する。
しかしそこには、情報の非対称性がある。
知識がなく、法的背景もなく、生活に困った若者に突きつけられる「自由」は、果たして自由なのか。
わたしたちが守るべきなのは、“選ばせた責任”であり、“自由の内実”だ。
契約書を交わせば何をしてもいい社会に、未来はない。
この問題は単に「騙された/騙されたくない」の次元を超え、「労働契約の限界」や「プライバシーと法の間隙」というより大きな構造論として理解すべきです。
FAQ(3問)
Q1. 契約書にサインしたら、本当に150万円を支払わないといけないの?
A1. いいえ。契約内容が不明確・不法な内容(わいせつな行為強要など)であれば、法的効力はありません。
Q2. 被害に遭ったと感じたらどうすればいい?
A2. まずは地域の弁護士相談窓口や「性暴力被害ホットライン」に連絡を。匿名でも相談できます。
Q3. SNS求人は全部危ないの?
A3. すべてが危険とは限りませんが、「内容が曖昧」「高額報酬」「身分証・写メを送れ」は危険サインです。