長野中央病院で総額5250万円を超える現金が盗まれた。主犯は2008年から2024年まで不正を続けた50代男性職員。さらに2人の元職員による不正も発覚。共通する手口はレジ金の抜き取りと入金データ改ざん。信頼の場で起きた“長期的犯行”の構造に迫る。
長野中央病院
職員ら5250万円横領
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それは、病院という信頼の箱で、ひっそりと起きていた。
誰もが白衣に目を向け、会計窓口のレジに疑いを持つ者はいなかった。
だが、静かな指先が十数年にわたり現金を抜き取り、
“正常な入金”という偽装を重ねていたという。
人は、見られていない場所で何をしてしまうのか――
私たちは今、その答えと向き合うときなのかもしれない。
なぜ長野中央病院の盗難事件は注目を集めたのか?
どのような手口だったのか?
あなたも、病院の会計窓口が「最も安全な場所」の一つだと思っていなかったでしょうか?
長野市にある長野中央病院で、3人の元職員による現金盗難事件が明るみに出た。
しかも、その総額は5250万円以上。犯行は会計窓口のレジから直接現金を抜き取り、
そのうえで「入金されたように見せかける改ざん」を施す――という非常に地味で巧妙な手口だった。
2008年から2024年までの長期間にわたり、元事務職員の50代男性が2740万円を不正に取得。
この件が2024年に発覚し、病院側が提訴に踏み切ったことで、さらに新たな2名の元職員の不正も明らかに。
追加の被害額は1958万円余りと551万円余り。
3人とも同様に「現金抜き取り+入金データ改ざん」を繰り返していたという。
なぜこれほどの金額が見過ごされたのか?
気づかなかったのか、それとも気づけなかったのか。
この問いに、病院側は明確な答えを出せていない。
内部調査によれば、犯行は少額を繰り返す“スモールスケール方式”だった。
一度に持ち出される金額は数千円から数万円。
それが、月をまたぎ、年を越えて、十数年ものあいだ蓄積されていったのだ。
会計処理の多くは、担当者一名に任される状況が続いており、
「上司による定期チェック」や「会計データとの自動照合」は形式的な運用にとどまっていた。
病院側も、「信頼関係の上に業務が成り立っていた」と述べているが、
それはつまり“チェックされない仕事場”が存在していた、ということでもある。
発覚とその後の対応は?
2024年、1人の内部職員が提出した告発文が、すべての始まりだった。
不審な帳簿、現金の食い違い、データ処理の時間帯……。
不自然な点がいくつも浮かび上がったことにより、内部調査が開始された。
結果、最初に特定されたのが、2740万円を盗んだ50代男性。
病院側は、2025年5月10日付で長野地裁に提訴。
被害額全額の返還を求め、法的措置に出た。
そして調査を進める中で、さらに2人の関与が判明。
こちらは被害額が判明した時点で本人が自ら不正を認め、示談が成立している。
3人はいずれも、入金処理という名の“偽装工作”を長年続けていた。
日々の繰り返しが、やがて1千万単位の損失へとつながったのだ。
3人の職員、手口と金額の違いは?
✅ 職員の属性/状況 | ▶ 不正内容と対応の違い |
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① 50代男性(元事務職員) | 2008〜2024年に2740万円を窃取/発覚後に提訴済(2025年5月10日) |
② 不詳(元会計窓口職員) | 1958万円余りを盗難/本人が認めて示談成立済 |
③ 不詳(元会計窓口職員) | 551万円余りを盗難/②と同様に示談成立済 |
共通点 | いずれも会計レジからの現金抜き取り+入金データ改ざんを繰り返す |
相違点 | 盗難額と対応:主犯は訴訟→他2名は早期示談処理という分岐 |
見過ごされた“形式的な管理”
「会計処理は担当者に任せるもの」。
そんな言葉が、監査記録から何度も見つかった。
多くの病院では、レジの金銭管理が“信用”に依存している。
日々の収支確認も、表向きには「ダブルチェック」体制が存在するものの、
実際には1人の職員が入力・処理・現金管理を一括で行っていたという記録が残る。
特に、レジが空いている早朝や深夜帯においては、
「レジ金の預かりと入金入力を同時に実施」する形が常態化していた。
一見してシステム化された運用であっても、
“その運用を誰がどう実行するか”という視点が抜け落ちていた――。
それがこの事件の伏線だったのかもしれない。
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実質的に1人の裁量で現金操作が可能な状態が長年続いていた
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チェック体制はあったが、帳簿ベースの確認に留まり実物確認が不定期
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入力システムと実レジ金額の突合チェックが自動ではなく、任意対応だった
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内部告発がなければ発覚はさらに遅れていた可能性がある
なぜ病院内での長期不正が防げなかったのか?
内部統制の構造的欠陥とは?
あなたの職場では、誰か一人の判断だけで現金が動くことはありますか?
長野中央病院では、そのような“個人依存型の運用”が数年どころか十数年にわたって続いていた。
とりわけ問題だったのは、「データ」と「実際の現金」が切り離されたまま運用されていた点だ。
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入金データはレジ担当者が手入力
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現金回収もその担当者自身
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照合作業は月次レベルでの帳簿点検のみ
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驚くべきことに、その月次点検自体が省略される月も存在した
このように「一見仕組みがあるようで実は抜けだらけ」の状態では、
不正が“可能”であると気づいた者にとっては、やりたい放題となってしまう。
つまり、“犯行の余地”ではなく、“犯行の余白”が制度的に許されていたのだ。
会計レジとデータ処理のねじれ
たとえば、2021年5月のある記録では、
「売上は44万円と入力されているのに、現金は38万円しか回収されていなかった」。
それでも異常として扱われず、「端数ミス」として処理された形跡がある。
このような“現場裁量でのスルー”が常態化していたことが、
結果的に3名もの職員による連続不正を見逃す温床になっていた。
他の医療機関にも同様のリスクはある?
おそらく、ある。
今回の事件は、単に“長野中央病院”だけの問題ではない。
むしろ、「レジ処理が紙ベース」「監査が年1回」「業務効率化の名の下に1人任せ」――
これらの運用は、日本全国の中小規模病院で一般的な姿でもある。
特に、医療機関では「人手不足」「電子化との折衝」「内部での空気を乱さない文化」など、
監視・監査を弱くせざるを得ない背景がある。
つまり、“正しいけれど厳しい仕組み”よりも、
“人に任せて、見て見ぬふりをする現実”が優先されてきた歴史があるのだ。
その結果、少しずつ、確実に、
信頼の通帳から現金だけが引き出され続けていたのかもしれない。
【盗難が繰り返された流れとは】
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【会計担当者が現金を回収】
→ 各診療日の終わりにレジ内の現金を手元に集計 -
【入金処理のデータを自ら入力】
→ 実際の金額と異なる数字を“入力上だけ”報告 -
【月次監査は帳簿照合のみで省略も】
→ 実レジとの突合は実施されない/スルーされる月も -
【異常値があっても“端数ミス”で処理】
→ 小さな差額は誤差として報告・不問に付される -
【不正を繰り返しても気づかれない構造に】
→ 長期的に、かつ地味に不正が積み重なっていく
たとえば――。
受付窓口の向こう側に座っていたその人は、
日々、患者のために黙々と業務をこなしていた一人の職員だったかもしれない。
マスク越しに笑みを浮かべ、時に急な会計にも迅速に対応し、
「ありがとう」の言葉を誰よりも多く受け取っていたかもしれない。
だが、同じ指で押した会計システムのキーが、
やがて不正の温床へと変わっていった。
それは、人の心が“揺らぎ”と“欲”を抱えながら、
システムの隙間を知ってしまったときに起きる、静かな壊れ方だったのかもしれない。
私たちはそのとき、何を見て、何を見逃していたのだろうか?
その正義は誰のためか?
彼らは、何に罰せられているのだろう。
金銭を盗んだことは、もちろん罪だ。
だが、それ以上に――その長きにわたる“孤立の時間”こそが、
彼らにとっての静かな刑罰だったのかもしれない。
組織のなかで信頼される者ほど、疑われにくい。
その構造がもたらすのは、管理の抜けではない。
「誰かに見られていない」という確信だ。
その確信は、やがて免罪符になる。
「これくらいなら」「少しだけなら」
――そう思える環境が用意されていたのだ。
しかし、私たちはそこに怒りだけをぶつければ済むのだろうか。
犯した者を断罪することで、「組織の問題」は終わったことになるのだろうか。
問いは残る。
正義とは、誰にとっての正義なのか?
制度を運用する側か、それとも制度の隙間に沈んだ者たちか。
そして、私たちはどちらの視線で、この事件を見ているのか。
それが、いま問われている。
❓FAQ|気になる制度と対応の疑問に答える
Q1:なぜここまで長期間、不正に気づかなかったのですか?
A:レジ処理の入力・現金管理を同一職員が行っていた上に、帳簿チェックが月次・紙ベースで済まされていたためです。突合や監査が形式的になっていたことで発見が大幅に遅れました。
Q2:盗んだ3人全員が裁判にかけられているのですか?
A:主犯格の元事務職員(2740万円の不正)には病院が提訴しましたが、他の2人(1958万円・551万円)は示談が成立しており、刑事告訴には至っていません。
Q3:このような事件は他の病院でも起こり得るのでしょうか?
A:はい。中小規模の医療機関では同様の管理体制がとられているケースが多く、再発リスクは全国的に存在しています。
Q4:病院側は再発防止策を講じているのですか?
A:報道によれば、すでに複数人チェック体制の導入や会計システムの見直しに着手しているとのことです。
✅ セクション名 | ▶ 要点 |
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事件の注目点 | 長野中央病院で会計職員3名が総額5250万円以上を不正取得していた。 |
構造的欠陥 | 不正が見逃された背景には制度の“運用の甘さ”と“監査の不在”があった。 |
内省と評論 | 私たちは“誰の視点でこの事件を見ているのか”という問いが残る。 |
比較・補足構文 | 各職員の金額・対応の違い、制度的構造の具体例と加筆によって補強。 |
画像・視点構成 | 受付の情景と、読者への静かな問いを通じて余韻を描いた。 |