「蚊がいなくなるスプレー」で起きる舌の異変──SNSで拡散された「レレレ現象」に、使用者の実感とメーカーの見解が交錯している。健康被害は確認されていないが、軽微な刺激は存在するという。成分設計と“言葉にならない違和感”の接点を、制度と感覚の両面から読み解く。
蚊がいなくなるスプレー
舌が「レレレ現象」に⁉︎
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空間用殺虫スプレーの使用後、「舌がしびれる」「レレレと震える」といった感覚を訴える声がSNS上で相次いでいる。投稿者の多くは一時的な刺激と表現し、症状は数分で自然におさまると報告する。メーカーは有効成分「ピレスロイド」による軽度の粘膜刺激が原因とし、体質や環境による個人差を認めつつ、安全設計を強調している。
なぜこの現象が話題になったのか?
部屋にワンプッシュするだけで蚊がいなくなる──そんな便利なスプレーが、思わぬ形で注目を集めている。SNS上で広がったのは、「スプレーを使った直後に舌が“レレレ”としびれる」という声だった。
投稿者はその感覚を「パイナップルを食べたときのような舌のしびれ」に例え、10分ほどで治まると説明する。何気なく発したこの一言に、「それ、私もなる!」「子どもが同じことを言っていた」と共感の声が相次いだ。まさかと思っていた違和感に名前がつき、安心する利用者も少なくなかった。
投稿は2024年の夏を境に一気に拡散し、季節商品の“副作用”としての現象が見過ごせないものとして再認識されている。こうした現象は単なる気のせいなのか、それとも製品側の設計に起因するものなのか。家庭内の“無言のリスク”が語られ始めた瞬間だった。
いつ・どこで、どのような声が出たのか?
SNSで最初に投稿されたのは5月下旬。あるユーザーが「部屋にスプレーしたら舌がレレレってなる」と書き込むと、数時間のうちに数百件の「分かる」「同じことあった」の声が集まった。
投稿者は空間噴霧型の殺虫スプレーを使用した後、毎回舌に軽い麻痺のような感覚を覚えると記している。しかもこの現象は、同じブランドだけでなく、異なるメーカーの商品でも発生したという。
一部では「スプレーの匂いで刺激されたのでは」という声もあったが、「部屋に入っただけで分かる」「子どもにも同様の反応があった」など、においでは説明がつかない体感も報告された。
なぜここまで共感されたのか?
虫除けスプレーは広く普及しているにもかかわらず、使用後に起こる体の反応について、これまで明確に語られることは少なかった。
「症状は軽いけれど、気のせいとは思えなかった」
「誰にも相談せずに我慢していた」
そんな“見えない体感”が、投稿によって可視化された形だった。
背景には、家庭内のスプレー使用が子どもやペットと同じ空間で行われるという現実もある。誰もが無意識に共有していた違和感が言語化され、ようやく注意の対象として浮かび上がったといえる。
なぜ“舌がレレレ”となるのか?
投稿で報告された症状は、あくまで軽微で一過性のものだ。だが、感じた本人にとっては「確かに変だ」と思える感覚であり、健康リスクとまでは言い切れなくとも、不安を呼ぶには十分だった。
この現象の背景にあるのは、殺虫スプレーに共通して使われる「ピレスロイド」という有効成分だ。天然の除虫菊に含まれる物質をもとにした合成化合物で、昆虫の神経を麻痺させる効果がある。
人間を含む哺乳類には、この成分を代謝・排出する酵素が備わっているため、たとえ微量を吸い込んでも基本的には体外へ排出されるとされている。
有効成分「ピレスロイド」の性質は?
ピレスロイドは、哺乳類や鳥類よりも昆虫や魚類への毒性が強く働くように設計されている。即効性と残効性に優れ、家庭用スプレーや蚊取り線香にも多用されている。
人体への蓄積リスクは低いとされるが、気道や粘膜に触れることで一時的な刺激感を覚えることはある。特に、子どもや感覚過敏の傾向がある人は、その影響を自覚しやすい可能性がある。
「スプレーの使用時に顔の高さで吸い込んだ」「間違って肌についた」などの声もあり、使用方法にズレがあると刺激症状を引き起こす恐れがあるという。
メーカーの見解と対策とは?
大日本除虫菊(KINCHO)は、こうした症状の報告について次のように回答している。
「お客様から『舌がしびれる』『刺激を感じた』といったお問い合わせは一定数いただいています。ピレスロイドを吸い込んで刺激を感じる方もおられるようですが、代謝酵素によって体外に排出されるため、深刻な健康被害は確認されていません」
また、公式には「目や皮膚に直接かからないように」といった注意書きを製品パッケージに明記している。製品は空間に拡散する設計であり、使用者が意図せず顔に向けてプッシュしてしまうケースを想定して、より安全性を高める改善が検討されているという。
なぜ“舌がレレレ”となるのか?
有効成分「ピレスロイド」の性質は?
殺虫効果をもたらす「ピレスロイド系成分」は、昆虫の神経に作用することで駆除効果を発揮する。その一方で、人間や哺乳類には代謝によって無毒化されるとされており、通常使用では健康リスクは低いとされている。
しかし、スプレー直後の空間で吸い込むと、粘膜や舌に直接刺激が届く可能性がある。製品は壁や天井に成分が定着する構造のため、空中への残留は抑えられているが、使用者の位置やタイミングによっては感覚的な異変を感じることもある。
メーカーの見解と対策とは?
メーカー側は、「症状はあくまで一時的な刺激であり、健康被害ではない」とする立場を取る。ただし、使用者の体質や使用環境に応じて、刺激を感じやすいケースがあることも認めている。
KINCHO広報によると、「うがいなどで口内を洗浄し、様子を見るように」と案内しており、使用説明書の通りに扱えば問題はないとの見解を示している。製品設計の工夫として、成分が長く空気中に漂わないように調整されており、現在もユーザーの声をもとに注意表記の改善が進められている。
【スプレー使用から舌の“レレレ”まで】
使用者が室内でスプレーをワンプッシュ
↓
空気中に「ピレスロイド成分」が瞬時に拡散
↓
使用者が同じ空間に居た場合、無意識に吸入
↓
吸い込んだ成分が「舌や喉の粘膜」に接触
↓
一時的なしびれ・刺激感が「舌」に発生
↓
数分で症状は自然におさまり、後遺症は残らない
あの感覚は、ただの偶然だったのか。
思い出すたび、身体のどこかがざわつく。
薬剤の成分は設計されていた。だが、感覚は設計されていなかった。
違和感に耳を澄ませると、そこに「気付き」があった。
私たちはこの“違和感”をどう受け止めるべきか?
人体に影響のない成分だからといって、すべての人が無症状とは限らない。スプレーが効いていることの裏には、気づかれにくい“体感”がある。
体質や感受性の違いを無視した商品設計では、軽微な違和感でも無視される。だが、それを共有する声がある限り、「安全」の定義は問い直され続ける。
製品の機能性と感覚のあいだには、まだ埋まらない溝がある。
感覚が語る、言葉にならないリスク
便利と安全は、時に背中合わせだ。
「レレレ」と舌がしびれる感覚──それは一時的な刺激かもしれない。だが、その瞬間、人は何かを疑う。これでいいのかと。
見過ごされていた違和感が共有されたとき、それは現実の制度や説明では覆いきれない現象になる。注意書きに書いていなかったこと、書けなかったこと、想定されなかった“身体の語り”が浮上する。
安心とは、数値や安全基準だけでは計れない。
むしろ、それを超えて「語られなかった不安」に触れたときに、ようやく見えてくるものがある。
❓FAQ
Q1:このスプレーは健康に問題ないのですか?
A:有効成分は代謝により排出されるため、通常使用で健康被害は生じないとされています。
Q2:ペットや子どもへの影響はありますか?
A:ペットや子どもでも、使用方法を守れば問題ないとされていますが、過敏な反応には注意が必要です。
Q3:「舌がしびれる」感覚が出た場合は?
A:うがいなどで洗い流し、しばらく様子を見ることが推奨されています。異常が続く場合は医師に相談してください。