通知表に広がった誤記の影に、採点されずに眠っていた50件以上のテスト。長崎市の小学校で発覚したこの事案は、教諭だけでなく校長にも処分が下る異例の展開となった。児童評価の信頼性と教育現場の管理体制が改めて問われている。
テスト9カ月採点せず
通知表に広がった誤記
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2024年度、長崎市内の小学校で勤務する女性教諭が、担任する3年生の児童に対して9カ月間にわたりテストを採点せず、通知表に多数の誤記が生じた。保護者からの指摘で発覚し、ほぼ全児童の通知表が訂正・再交付された。県教委は教諭と校長に戒告処分を下した。現場管理の形骸化が問われている。
見出し | 要点 |
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教諭の未採点 | 長崎市立小の女性教諭がテスト50件を採点せず |
発覚の経緯 | 保護者からの「返却が少ない」との指摘で発覚 |
通知表訂正 | 約30人中28人の通知表を訂正・再交付 |
教諭の説明 | 「授業対応に追われ、採点の時間が取れなかった」 |
処分内容 | 教諭と校長に戒告の懲戒処分を実施 |
管理体制の課題 | 校内で進捗確認の仕組みが機能していなかった |
なぜ通知表の訂正が必要になったのか?
いつ・どこで起きたのか?
2024年度、長崎市立の小学校に勤務する女性教諭(46歳)が、受け持っていた小学3年生のクラスに対して、実施したテストの大半を採点せず、結果的に通知表の評価が誤ったまま児童に渡されていたことが判明した。発覚は2025年3月、保護者からの問い合わせがきっかけだった。担当した学級の児童はおよそ30人。通知表の訂正対象は、そのうちの28人に及んだ。
どこで教育制度の綻びが見えたのか?
本来、評価の根拠となるべきテストは年間で68種類が実施対象となっていた。だが、実際には約50種類が採点されず、返却もされていなかった。テストは校内や教諭の自宅に保管されたままだったという。児童や保護者に対するフィードバックも行われないまま、学年末を迎えていたことになる。教諭は「授業の進捗管理に追われ、採点に時間を割く余裕がなかった」と説明したが、結果として通知表の内容には根拠が欠けていたことになる。
なぜ管理は機能しなかったのか?
学校全体で評価の進捗を確認する体制が欠けていたことが、今回のような“気づかれない失点”を引き起こした要因とされる。学期末の通知表作成が、現場教員個人の管理に依存していた構造が背景にある。管理職によるチェックが機能していれば、年度内に是正できた可能性もある。保護者からの指摘で外部から問題が浮上するまで、校内での異常検知はなされなかった。
制度背景と業務実態の描写
なぜ採点体制は崩れたのか?
採点業務は本来、学期ごとの成績評価の核にあたる工程とされる。だが、現場では通知表作成や生活記録の入力、日常の授業準備に追われ、テスト採点の時間が後回しにされる傾向があるという。女性教諭も、成績入力の締切と授業対応の間で「物理的に間に合わなかった」と説明している。こうした業務逼迫が常態化している環境では、ミスではなく“抜け落ちる仕組み”が温存されていたことになる。
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採点遅延の背景にあるのは指導要録との両立負荷
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管理職の指導・確認の不在が制度的に露呈した形
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通知表は個人評価でなく、学校の信頼全体を担っている
比較項目 | 今回の事例 | 本来の評価体制 |
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採点実施率 | 68種中50種類未採点 | 原則100%の実施が前提 |
保護者対応 | 指摘により発覚 | 定期返却・進捗連絡が基本 |
管理体制 | 教諭任せ・校長も処分対象 | 管理職による進捗チェック |
なぜ管理職まで処分対象になったのか?
校長の責任が問われた理由とは?
今回、戒告処分を受けたのは教諭本人だけではなかった。長崎市立小学校の校長(58歳)も、管理監督の不備を理由に同様の処分を受けている。学校の管理職には、学年ごとの評価進捗を把握し、必要に応じて是正する役割がある。しかし、2024年度の教室運営の中で、50種以上のテストが採点・返却されていなかった事実が、1年間にわたり見過ごされていた。校長自身の確認工程が存在しなかった、あるいは形骸化していた可能性がある。
教員の業務過多が現場全体に共通する課題だとしても、それが処分回避の理由にはならなかった。むしろ、全校的な管理構造の空洞が、制度的な問われ方をしたとも言える。
構造上の盲点はどこにあったのか?
採点や成績処理の管理は、年間のルーティンとして各教員に任されていることが多い。校長や教頭がその工程を逐一確認する体制にはなっていない場合もある。だが、通知表の完成は組織全体の成果であり、個人の自己申告に任せるには限界がある。実際、今回のケースも「テスト返却がない」という保護者からの外部の指摘がなければ、再評価も訂正も行われなかった可能性が高い。
こうした内部チェックの欠如が、「誰も気づけない」まま進行する構造を許していた。その隙間を突かれた形で、学校評価制度の信頼が揺らいでいる。
構造要因の可視化と教訓
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教職員の評価工程に対する自己完結型制度の限界
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通知表は書式でなくプロセスとして検証される時代に入っている
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「評価のための評価」ではなく、児童理解の証拠としてテストを機能させるべきだ
結果として、管理の問題は「監督していなかった」ことではなく、「監督すべき工程がなかった」ことにあった。制度そのものの再設計が求められている。
【未採点テストが処分に至るまでの流れ】
テスト未採点の事実発生
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採点済みと見なされ通知表が作成される
↓
保護者が異常に気づき学校に指摘
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校内調査で未採点・未返却が発覚
↓
通知表の訂正と再交付
↓
教諭と校長がともに戒告処分を受ける
項目 | 要点(前半・後半) |
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前半のまとめ | 小学3年担任教諭が9カ月間テストを採点せず通知表に誤記が生じた |
後半の注目点 | 管理職も処分対象となり、学校全体の管理構造の課題が表面化した |
整っていた。だが、それだけだった。
記録も日常も揃っていたはずの教室で、50枚を超えるテストが眠っていた。通知表は配られた。だが、子どもは評価されていなかった。言葉の重さが、空白だった。
教育現場はこの処分から何を学ぶべきか?
評価とは誰のためにあるのか?
評価とは何か。それは点数の並んだ表ではない。教師が子どもと向き合い、どこで躓き、どこで伸びたのかを記録し続ける行為に近い。テストはそのための道具にすぎない。
今回の処分は、「サボったから」ではなく、「制度に溺れたから」ではないか。教員の疲労、チェックの形骸化、そして組織の慣性が、静かに重なった結果だ。
教師を責めるだけでは、根は断てない。問い直すべきは、通知表という制度そのものかもしれない。いったい誰のための評価だったのか。信頼は書類から生まれない。
❓FAQ
Q:テスト未採点はどの期間で発生しましたか?
A:2024年6月頃から2025年3月までの約9カ月間と報道されています。
Q:通知表の訂正はどのように行われましたか?
A:全30人中28人の通知表が訂正対象となり、2025年4月に再交付されました。
Q:教諭だけでなく校長も処分された理由は?
A:管理職として進捗確認や指導を怠ったとされ、管理責任が問われました。
Q:実施されたテストは何教科分ですか?
A:4教科で合計68種類が実施対象でしたが、うち50が採点・返却されていませんでした。
Q:女性教諭はなぜ採点を怠ったと説明していますか?
A:「授業の進捗管理に追われ、採点に時間が割けなかった」と話しています。