2025年6月、TOEIC試験中に中国籍の受験者10人がスマートグラスを用いてカンニングを試み、警視庁が任意で事情聴取。機器を通じて外部からの音声指示を受ける手法が使われ、制度の盲点が浮上した。5月の替え玉事件とは異なる新たな不正構造と、試験制度の脆弱性が問われている。
TOEICで集団不正
警視庁が10人聴取
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TOEICの試験会場で、中国籍の受験者10人が不正行為を試みたとして、警視庁が事情聴取に踏み切った。この一件は、5月に発覚した替え玉受験事件とは別に起きたもので、特定の「教え役」からの音声指示を受けるという新たな手法が浮上した。不正が個人による偶発的な行為ではなく、複数業者による計画的な仕組みに支えられている可能性が高まっている。
✅要約表
なぜTOEIC不正は再発したのか?
TOEICでの不正受験が再び注目を集めている。警視庁が発表したところによると、2025年6月7日に都内で実施されたTOEICの試験中、中国籍の受験者10人が不正行為に及ぼうとしたとして、事情聴取を受けていたという。受験者の多くは20代で、申込住所が全員同一だった点も注目されている。
今回のケースは、他人になりすまして受験する「替え玉」とは異なり、試験中に外部の「教え役」から解答を得ようとする形式だった。イヤホンやスマートグラスを用い、受信した音声に従ってマークシートを記入する仕組みが採用されていたとみられている。
警察の見解では、こうした不正は一部の代行業者によって商業化されている可能性が高く、王立坤容疑者の事件が報じられた後も別ルートの業者が活動を続けていたとの見方が強い。制度的な隙間を突く形での不正が、模倣を誘発している構図が浮き彫りになった。
🔸王容疑者事件との違いはどこにあるのか?
今回の10人による不正未遂事件と、5月に現行犯逮捕された王立坤容疑者のケースには、共通点もあれば明確な違いもある。王容疑者は他人になりすまして受験する「替え玉」型で、試験会場に入る前の段階で不正が成立していた。
一方、今回のケースは本人が受験していたが、試験中に外部からの情報をリアルタイムで得る「通話式不正」であった。受験中の監視体制や試験実施の構造が問われる形式であり、不正の形態がより多様化している兆候を見せている。
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王事件は「身代わり型」=本人が受験しない
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6月事件は「遠隔指示型」=本人が受験、解答だけ外部支援
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共通点は「申込住所の共通」や「商業的業者の存在」
王容疑者事件との不正構造の違い
比較項目 | 王容疑者事件(5月) | 今回の事件(6月) |
---|---|---|
不正方式 | 替え玉受験 | 音声による遠隔解答支援 |
申込名義 | 他人になりすまし | 本人の本名で受験 |
使用機器 | 特定情報なし | スマートグラス/骨伝導イヤホン |
住所情報 | 同一住所から複数申込あり | 同様に同一住所で10人申込 |
現場対応 | 逮捕(現行犯) | 任意で事情聴取(警視庁) |
不正を支える「教え役」と機器の実態は?
警視庁は今回の事件について、受験者の背後に「教え役」とされる人物が存在し、その者がリアルタイムで解答を伝えていたとみて捜査を進めている。使われた機器は、見た目には一般的な眼鏡と変わらないスマートグラスで、骨伝導を利用して受験者の耳に音声を届ける仕組みだった。
この機器は、通常の監視では発見されにくく、メガネのつるの部分に送信端末を内蔵できる仕様となっている。また、受験者の中には、肌色の極小イヤホンを使っていた者もおり、音声指示を聞き取りながらマークシートに記入していた形跡がある。
使用された機材は高額で、報道によればセット一式で数十万円の費用がかかることもあるという。これらは特定の中国系代行業者が提供しており、「高得点保証」や「全額返金制度」といった広告文句とともに、SNSや特定の中国語掲示板で取引されていた可能性もある。
スマートグラスはどう使われた?
スマートグラスは、耳にかける“つる”の部分に音声振動を伝える装置が内蔵されており、骨伝導技術によって外部の音を遮断せずに音声だけを聴き取ることが可能とされる。受験中も自然な仕草にしか見えず、外部からの発見は極めて困難とされている。
こうした機器が日本国内で入手できるルートは限られるものの、中国国内の業者や専門サイトから購入され、日本へ持ち込まれるケースが多い。今回の事件も、そうした機材の一部が既に海外から持ち込まれていたとの見方が強い。
🔸中国人受験者の「高得点ニーズ」とは?
TOEICにおける高得点は、特に中国国内では「国際的な学歴ステータス」や「就職における昇進条件」として扱われる場面が多く、海外在住者の間では過熱した受験競争の様相を呈している。
SNSでは「800点以上でないと意味がない」「中国の採用市場ではTOEICの点数が信用の証」といった声が目立ち、点数の高さそのものが目的化されている傾向がある。その結果、「正攻法では間に合わない」として、代行業者のサービスに依存する動きが一部に広がっている。
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WeChat上での個人取引や紹介制サービスも暗躍
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数万円から十数万円の支払いで「模試+本番代行セット」が組まれる例も
✅ 不正の流れ
申込時に同一住所を使う
→ 試験会場を選定・連携
→ 音声通信機器(スマートグラス/イヤホン)を事前配布
→ 教え役が遠隔から問題を読み上げ
→ 受験者が指示を聞いてマーク
→ 試験終了後、報酬の送金や再試験案内
あの日、試験会場の椅子に腰を下ろしたまま、彼らは一度でも「ずるい」と思っただろうか。
静かな部屋で響いたのは、誰にも聞こえない声――骨伝導で届く答えだった。
でもそれは、本当に“答え”だったのか?
“正当な努力”の声が、かき消されていたのではないか?
日本の試験制度は狙われやすいのか?
不正行為が続発する背景には、日本の試験運営制度の「ある種の甘さ」が指摘されている。海外の一部国家では、金属探知機の使用や機器検査の徹底などが義務化されているのに対し、日本では運営上のコストや自由度を理由に、機器チェックは受験票やID提示にとどまっているケースが多い。
また、TOEICなどの語学試験は年間を通じて多頻度で実施されており、1回あたりの管理体制が簡素化されやすい構造となっている。こうした構造的な盲点が、海外からの受験者にとって「狙いやすい場」として機能してしまっているのだ。
警視庁は今後、TOEIC運営側とも連携を取りながら、入場管理や機器検知の強化を検討していく方針を示している。
✅ 制度の穴を突く「受験ビジネス」の倫理
日本の試験制度は、形式上の整合にこだわりすぎた。その隙間を、誰かが“ビジネス”にした。
教育とは何か。点数とは何か。
金で買えるスコアを持って、彼らはどこへ行こうとしていたのか。
不正を許さない社会をつくるには、制度以上に「信用」の再設計が必要なのではないか。
✅ FAQ
よくある質問(FAQ)
Q1:不正を行った10人は逮捕されたのですか?
A:逮捕ではなく、任意で警視庁の事情聴取を受けたと報道されています。
Q2:使用されたスマートグラスは合法ですか?
A:端末自体は合法ですが、試験中の使用は不正行為に該当します。
Q3:王立坤容疑者と今回の10人は関係あるのですか?
A:関係性はないとみられ、別の「教え役」ルートが使われたとされています。
Q4:TOEIC側はどんな対策を取っているのですか?
A:再発防止策として、本人確認や試験中の監視強化が検討されています。
Q5:なぜ中国籍の受験者が多いのですか?
A:中国国内でTOEICの高得点が評価される傾向があり、受験ニーズが高いためとされています。
✅ まとめ
✅ 見出し | ▶ 要点 |
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不正の新形態 | スマートグラスを用いた音声解答による受験支援が発覚 |
組織的背景 | 住所の一致や教え役の存在が構造的関与を示唆 |
高得点依存の実情 | 中国国内の就職・進学でTOEIC高得点が必須条件となっている |
制度的な課題 | 日本の試験運営体制における監視・機器チェックの緩さが指摘されている |
今後の論点 | 商業化された不正と制度整備の遅れが交錯する中、倫理と透明性が問われている |