英国の消費者団体「WEN」は、主要タンポン製品から発がん性のある農薬成分「グリホサート」が検出されたと発表した。同団体は、綿の栽培過程に用いられる農薬が製品に残留し、女性の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があると警告。日本国内ではこうした成分の表示義務がなく、規制の遅れが指摘されている。
タンポンから農薬検出
英団体が発がん性を警告
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イギリスの環境団体が、一般に販売されているタンポン製品から発がん性の可能性がある農薬成分が検出されたと発表した。調査対象の6割が該当し、粘膜に長時間接触する使用特性から「重大な健康リスク」が指摘されている。EUの成分表示ルールや規制の甘さも議論を呼んでいる。
なぜタンポンから有毒農薬が検出されたのか?
調査団体と検出方法に注目が集まる理由
今回の検査を主導したのは、英環境団体「WEN(Women's Environmental Network)」、カナダの「HEJSupport」、フランスの「Réseau Environnement Santé」など複数の団体で構成された共同研究チームだった。調査は2024年、イギリスおよびフランスで流通しているタンポン製品20種を対象に行われた。
製品を分解し、化学分析を通じて残留農薬成分を測定したところ、12製品からグリホサートやピリメタニルなどの農薬成分が検出されたという。これらの農薬はコットンの栽培時に使用されたものが原材料中に残留していた可能性が高いとされる。
生理用品への農薬混入が問題視される理由
報告された農薬成分の中には、WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)が「グループ2A=おそらく発がん性がある」と分類しているグリホサートも含まれていた。通常、食品や化粧品であれば一定の残留基準値を超えた場合に規制対象となるが、生理用品は医療機器として扱われるため、その規制が大幅に緩いと指摘されている。
また、タンポンは腟粘膜に直接かつ長時間接触する製品であることから、微量の有害物質でも健康リスクが大きくなる可能性がある。研究チームは「肌に触れる製品よりもさらに厳格な成分管理が求められる」とし、規制の見直しを訴えている。
規制の甘さと成分非表示がもたらすリスク
現行のEU法では、タンポンやナプキンなどの生理用品は「医療機器」または「日用品」としての位置づけにとどまり、全成分の開示義務は課されていない。そのため、化学物質や残留農薬の存在が見えづらくなっており、消費者側がリスクを正確に判断することが困難な制度構造となっている。
こうした状況に対し、調査を行った団体はEUや各国政府に対し、以下のような提言を行っている:
制度面での整備と情報開示が追いついていない現状が、今回の問題を浮き彫りにした形といえる。
医療品・化粧品・生理用品の規制差
どの農薬が検出されたのか?
検出された農薬の種類と分類
報告書では、20種類のタンポン製品のうち12種類から農薬成分が検出された。なかでも頻度が高かったのが「グリホサート(glyphosate)」で、これは除草剤の成分として世界的に使用されている化学物質である。グリホサートは、国際がん研究機関(IARC)により「グループ2A=おそらく発がん性がある」と分類されている。
加えて、他にも以下のような農薬成分が検出されたとされる。
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アトラジン(atrazine):内分泌かく乱物質としての疑いがある
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ピリメタニル(pyrimethanil):果実農業などで使用される殺菌剤
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テブコナゾール(tebuconazole):EUで一部制限がかかる農薬成分
これらの農薬は、いずれもコットン栽培の段階で使用されることがある。製品として加工される過程で残留する場合もあり、今回の検査はその点を可視化する目的もあったとされる。
粘膜接触によるリスクの議論
タンポンは膣粘膜に長時間接触する使用形態であり、通常の皮膚接触よりも化学物質が体内に吸収されやすいとされる。WENなどの報告では、この「経粘膜吸収」のリスクが科学的に十分に検証されていない点が問題視されている。
報告書では次のように述べられている。
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「EUの化学物質規制では、生理用品に関しては表示義務が甘く、含有成分の正確な把握が難しい」
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「生理用品を通じた曝露経路において、慢性的な影響評価が行われていない」
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「発がん性物質だけでなく、生殖毒性やホルモン撹乱の可能性がある成分も確認された」
現時点で「健康被害が出ている」という確定的な事例は公表されていないが、WENらは「予防原則に立つべき」との立場を取っている。
制度の不備と消費者保護の課題
EUでは、食品や化粧品に比べて「生理用品」に関する化学物質規制が遅れている。成分のラベル表示義務は各国でまちまちで、製品購入時に詳細成分を確認できないケースも多い。
今回の報告を受け、WENを含む複数団体は以下の制度的措置を求めている。
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全ての生理用品に「農薬・香料・添加剤」の完全ラベル表示を義務化
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欧州化学品庁(ECHA)による独立した製品監査制度の導入
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経膣製品に特化した毒性試験・吸収リスク評価の義務化
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オーガニック認証基準の法的明文化と罰則強化
こうした要望は、消費者の健康リスク軽減というだけでなく、製品を製造・流通させる企業側にも「説明責任」が求められる状況を生み出している。EU議会でもこの報告を元に議論が始まっており、制度設計の転換点に差しかかっているとの見方も出ている。
検出から制度提言までの流れ
農薬の検出(WEN・仏団体の独自調査)
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複数の農薬成分(グリホサート等)を検出
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IARC分類:発がん性の可能性(グループ2A)
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経粘膜接触による長時間吸収リスクを指摘
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EUの生理用品規制は食品・化粧品に比べて甘い
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成分非表示・毒性評価義務なし
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WENなどが制度改正を提言(表示義務・毒性試験・監査)
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EU議会でも対応検討が始まる動き
「吸収性が高いからこそ安全に」。そう信じてきた生理用品が、実は肌にじかに触れながら、微量の農薬成分を体内に取り込ませていたとしたら——。今回の報告を受けて、消費者がまず感じたのは「知らされていなかったこと」への戸惑いだろう。
農薬が使われる可能性は、製造段階での綿の栽培過程にまでさかのぼる。だが、問題はそこでは終わらない。なぜ販売段階でそのリスクが「ゼロ」であるかのように扱われてきたのか。欧州での検出事例が報じられた現在も、日本国内の規制や企業表示には、ほとんど変化がない。
気づかぬうちに体に取り込む。それが毎月のように何年も続いていたかもしれない。そう考えると、過去の選択にすら責任を問いたくなる。ただし問題は、個人の選択以前に、「知らされていなかった制度」が根本にあるということなのだ。
身体の奥にあるものが、誰かの目から遠い
タンポンに潜む農薬の話題は、単なる製品の安全性を超えている。なぜなら、それは「見えない領域」に関する無関心と制度の後回しを象徴しているからだ。
生理用品は誰にでも関係するものではない。それゆえ、社会の制度は“多数派”の視点で設計され、少数者の実感や懸念は、静かに脇へと押しやられる。経皮吸収や発がん性といったリスクに対して、無関心を決め込む態度こそが、制度の空白を生む土壌だったのではないか。
私たちは「安全かどうか」ではなく、「何が可視化されていないのか」を問うべき段階に来ている。
❓FAQ
Q:どのブランドのタンポンから農薬が検出されたのですか?
A:調査対象は非公開ですが、欧州の大手ブランドやオーガニック製品を含むと報告されています。
Q:日本国内で販売されている製品にも影響はありますか?
A:現時点で日本製品に関する検出結果は公表されていませんが、検査体制は整備されておらず「調査中」とされます。
Q:経皮吸収とはどのような影響を及ぼすのですか?
A:皮膚や粘膜から体内に化学物質が入り込むことで、ホルモン系や免疫系に影響を与える場合があります。
Q:発がん性は確定していますか?
A:IARCはグリホサートを「おそらく発がん性がある」と分類していますが、直接的な因果関係は現在も研究中です。
Q:安全な生理用品を選ぶ方法はありますか?
A:無漂白・無香料・オーガニック認証製品を選ぶことや、メーカーの成分開示情報を確認することが推奨されています。
区分 | 要点 |
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前半の整理 | 英仏の環境団体がタンポンから有害農薬成分を検出。グリホサートなど発がん性が指摘される物質も含まれていた。 |
後半の注目 | 現行制度では成分検査義務が不十分で、規制の空白が続く。粘膜吸収の特性から、少量でも長期リスクが懸念されている。 |