神奈川県川崎市の物流会社で、品物管理を担当していた59歳の男が倉庫から銅線314点、約710万円相当を盗んだ疑いで逮捕された。容疑者はセキュリティカードを使って6回にわたり侵入し、供述では「生活レベルを変えたくなかった」と語った。物流現場の内部不正と防犯体制が問われている。
生活維持のため
銅線窃盗の男逮捕
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
勤務先の物流倉庫から約710万円相当の銅線を持ち出していたとして、品物管理を担当していた男が逮捕された。59歳の容疑者は、給料減少を理由に生活水準を維持しようとしたと供述している。セキュリティカードを用いた計画的な侵入が繰り返されており、企業内部に潜む情報管理の甘さが問われている。
なぜ倉庫の銅線が狙われたのか？
高騰する銅価格と転売の現実
今回盗まれたのは、銅線が巻かれたドラム314点で、被害総額はおよそ710万円。
銅は電線・配線・建築資材として広く使われ、近年は世界的な価格高騰が続いている。リサイクル市場でも換金性が高く、専門知識や販路がなくとも現金化しやすい特徴がある。
被害品はドラムごと運び出されたが、業務上アクセスできる立場にいた容疑者にとっては、その運搬も困難ではなかったとされる。警察は既に換金済みである可能性も視野に入れて調査を進めている。
内部犯による侵入と監視の盲点
泉容疑者は、川崎市内の物流会社で品物管理を担当しており、会社のセキュリティーカードを使って6回にわたり倉庫へ侵入したとされる。
監視カメラが設置されていたにもかかわらず、複数回の搬出が見逃されていたことは、管理部門の監督体制に重大な抜け穴があったことを示唆している。
犯行は2024年9月から11月の間に行われた。業務上の信頼を悪用し、規則をすり抜けた点において、企業内犯罪としての性質が強い。
セキュリティ制度の不備と再発防止策
本事件は、セキュリティカードによる認証だけでは侵入防止が機能しないことを裏付けた形となった。容疑者は自身のIDで入館し、その履歴を消すことなく繰り返し犯行に及んでいたとみられる。
さらに問題となるのは、管理部門による在庫の確認体制。ドラム単位の大きな品目にもかかわらず、紛失が発覚するまで約2か月の空白があった。業務フローの中で「誰が・いつ・何を動かしたか」を把握できる仕組みが存在しなかった点は、単なる人的ミスでは片づけられない。
今後求められる対応は以下の通りである：
-
侵入ログのリアルタイム監視とアラート通知の導入
-
高額資材の定期棚卸と抜き打ち監査の実施
-
職務分離とアクセス権限の細分化
-
人的信頼に依存しない在庫管理システムの構築
こうした対策が取られなければ、企業内部からの窃盗リスクは今後も繰り返される恐れがある。
企業倉庫における内部犯対策の制度差
| 比較項目 | 本事件の物流会社 | 対策導入企業（例：大手宅配系倉庫） |
|---|---|---|
| セキュリティ手段 | セキュリティカードのみ | 多要素認証＋侵入アラート＋顔認証 |
| 侵入履歴の監視体制 | ログ取得はしていたが、リアルタイム監視なし | 自動監視＋不審挙動のAI検知あり |
| 在庫の点検頻度 | 棚卸は不定期・手作業 | 毎日自動在庫カウント＋月次監査 |
| 不正検知の再発防止措置 | 未導入または不明 | アクセス権限を日別・時間帯別に細分化し再発防止 |
容疑者の生活と、なぜ給料減少が動機となったのか？
「生活レベルを落としたくなかった」男の言い分
泉容疑者は警察の取り調べに対し、「給料が減っても生活水準は下げたくなかった」と供述している。
報道によれば、容疑者は以前から同居家族を養っており、日常的に車を使用し、外食の頻度も高かったとされる。生活費を賄うための副収入を模索するなかで、勤務先の資材に目をつけたと見られる。
複数回に分けて持ち出された銅線は、近隣のスクラップ業者やネット経由で処分された可能性もあるが、現時点では換金ルートは未特定のままとされている。
雇用環境と“非犯罪的動機”の交差
容疑者の勤務先では、2023年の秋ごろから受注の減少により賞与が大幅に削減されたとの報告もある。
この変化は物流業界全体で起きていた傾向で、特に中堅事業者では賃金カットや福利厚生の見直しが進められていた。
こうした外的変化が、個人の焦燥や倫理観を揺さぶるきっかけとなり、「犯罪でなければ生活が保てない」という心理的圧力につながった可能性がある。
物流現場に残されたリスクの構造
物流倉庫では、人手不足や非正規雇用の常態化が進む中、内部統制の空白が拡大している。
セキュリティカードを持った社員が夜間に出入りし、監視の目が届かない時間帯に行動するという今回のような手口は、特に中小規模の物流施設では発見が難しい。
加えて、換金性の高い資材（銅・真鍮・バッテリーなど）は、型番や管理番号によるトレースが困難なため、盗難発覚後も追跡が難航する。
制度設計の不足は、以下のリスクを伴っている：
-
社員の経済的ストレスと倫理意識の希薄化
-
物理的監視体制より先に突破されるID認証
-
転売ルートの特定困難により検挙率が低下
この事件は、単なる「モノの窃盗」ではなく、制度疲労が生んだ構造的問題の一端を表している。
川崎市銅線窃盗事件の流れと制度的抜け穴
勤務先の業績悪化 → 賃金減少 → 経済的焦り →
IDカードによる夜間侵入 → 銅線ドラムの持ち出し →
在庫確認の遅れ → 被害発覚（約2ヶ月後） →
監視ログ確認で容疑者特定 → 窃盗容疑で逮捕
| 前半のまとめ | 後半の注目ポイント |
|---|---|
| 内部犯による銅線窃盗事件。侵入にはIDカードが用いられ、監視体制に盲点があった。 | 容疑者は給料減による焦りから犯行に及び、制度的リスクの構造が背景にあった。 |
| 物流倉庫の資材管理体制が問われ、企業のセキュリティ制度の見直しが急務となっている。 | 再発防止には技術と人事制度の両面からの対策が必要とされる。 |
今回の事件を「個人の犯罪」として終わらせることはできない。
経済的に追い詰められた59歳の男が、生活を守るために“最後の一線”を越えた構図には、社会の側にある見落としが浮かび上がる。企業のセキュリティは形式だけが整っていればいいのか。倉庫を守るべき制度は、誰を守るためのものだったのか。
倉庫の静寂に紛れていたのは、制度の「音のなさ」だったのかもしれない。
企業の盲点は、誰の責任か
小さな欲望が社会の隙間をすり抜け、やがて一つの制度を崩していく。
川崎の物流倉庫で起きた銅線窃盗事件は、倫理観の破綻ではなく、社会制度と現実の間に横たわる“意図されない空白”を浮き彫りにした。
容疑者は自らの手でセキュリティドアを開け、資材を搬出し、数十回の「小さな決断」を重ねた。その先にあったものは、転売による金銭ではなく、“誰にも止められなかった日々”だったのではないか。
システムは整っていたが、監視は不在だった。形式はあっても、意味は失われていた。見落とされていたのは、不正の兆候ではなく、「なぜ今、この人がここにいるのか」という問いそのものだった。
この事件の責任は、企業、容疑者、社会、すべてにまたがっている。そして、同じ構造は、あなたの職場にも潜んでいる。
❓FAQ
Q：事件が起きた倉庫はどこにありますか？
A：川崎市川崎区にある物流会社の倉庫とされています。
Q：盗まれた銅線の総額は？
A：合計で約710万円相当と報じられています。
Q：容疑者の職務内容は？
A：物流会社で品物の管理を担当しており、倉庫への立ち入り権限を持っていたとされます。
Q：犯行時のセキュリティ対策は？
A：IDカードによる認証が導入されていましたが、リアルタイム監視や不正検知は導入されていませんでした。
Q：今後の再発防止策は検討されていますか？
A：企業側では、監視体制の強化やアクセス権限の再設定を含む制度見直しが求められています。
