2019年、神戸市立中学校で発生した男子生徒の転倒事案について、市教委の追加調査が「故意のいじめ」と認定。学校側が当初「事故」と判断し、重大事態としての報告を1年近く怠っていたことが被害の深刻化を招いたと指摘された。制度上の裁量の広さが報告遅延の要因となった構造も明示され、再発防止に向けた見直しが求められている。
中学生転倒を「事故」
学校判断が覆る
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神戸市立中いじめ重大事態、報告までの遅れが招いた深刻化
神戸市立中学校で2019年、1年生の男子生徒が同級生の足に引っかかって転倒し、PTSDと高次脳機能障害を発症。学校は当初「事故」と判断し、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態報告を行わなかった。報告は約1年後、市教委の判断でようやく実施された。2024年6月、追加調査委員会が「報告の遅れが被害を深刻化させた」と指摘。学校と教育委員会の対応に制度的課題が浮上している。
なぜ報告に1年近くかかったのか?
学校の初動判断は妥当だったのか
2019年6月、校内の廊下で男子生徒が同級生の足に引っかかり転倒。顔を強打し、その後PTSDと高次脳機能障害の診断を受けた。この事案について、学校は当初「故意性はなく偶発的な事故」と判断。いじめと認定せず、市教委への報告を行わなかった。
学校側は「見守りの対象」として一定の対応をしていたとされるが、重大事態の報告義務には至らないと判断した。結果としてこの判断が、制度的な対応の遅れを招いた。
市教委が動いた経緯と再調査の流れ
保護者が市教委に対して再調査を要望したことが転機となった。2020年9月に調査委員会が設置され、2022年2月には「いじめ」として認定されたが、保護者側は事実認定に不服を示し、2023年6月には追加調査委員会が設置された。
最終的に2024年6月に公表された追加報告書では、「転倒を含めた一連の行為には故意性が認められ、学校の初動判断は不適切だった」と記されている。
✅報告遅延による二次被害と制度の限界
報告が行われるまでの約1年間、生徒は必要な支援を受ける機会を失った。転倒による怪我が精神疾患へと発展し、最終的には不登校から転校に至った経緯は、報告制度が機能しなかった代償を示している。
被害生徒は当初から小学生時代の暴力の経緯を訴えていたが、制度上、学校側に“報告義務”があるかどうかの判断は現場に委ねられていた。学校側が「事故」と結論づけた以上、報告制度は発動されなかった。
🟦初回調査と追加調査の違い
項目 | 初回調査(2020〜2022) | 追加調査(2023〜2024) |
---|---|---|
認定対象 | 転倒事案のみを調査 | 小学校時代からの4件すべて |
故意性 | 明確な認定はなし | 故意による転倒と認定 |
いじめの範囲 | 中学校入学以降に限定 | 小学校時代からの継続性も考慮 |
被害の深刻度 | 身体的被害を中心に評価 | PTSD・高次脳機能障害も正式認定 |
制度的指摘 | 特に明記なし | 「報告感度の低さ」を明示的に批判 |
再調査で何が明らかになったのか?
同級生による継続的いじめ行為の認定
今回の追加報告書では、男子生徒が中学校に入学する以前から同じ同級生による暴力を受けていた事実が認定された。小学校時代から数えて計4件のいじめ行為が確認されており、その一連の加害行為の延長線上に中学校での転倒もあったとされた。
特に、廊下での転倒については「偶発的ではなく、意図的に足を出して引っかけた行為」と明確に認定されている。これは、当初の「事故」という学校の見解を覆すものであり、故意性の判断において重大な転換点となった。
制度上の限界と教委の指摘
報告書は、学校が重大事態と認知できなかった背景として「いじめに関する感度の低さ」「制度理解の不徹底」を挙げている。制度的には、被害生徒の深刻な負傷や不登校といった状況が発生した時点で、報告義務が生じていた可能性が高いとされている。
一方で、制度自体が「重大事態の判断を学校現場に委ねている」ことも問題視された。制度設計上の裁量が広すぎることで、報告遅延や被害拡大を招く構造になっているという指摘が、追加報告書に明記されている。
✅報告制度の改善案と現場裁量の縮減提案
現在の制度では、学校側が「重大」と判断しなければ教育委員会の関与が始まらない。だが、被害者が心的外傷や機能障害を負い、学業生活が困難になったケースでも「事故」扱いとされれば制度は動かない。
今回のように後から故意性が認定された場合、制度の“入り口”を見直さなければ再発は防げない。報告の基準を明確化し、「判断困難時は即報告」という義務的枠組みへの転換が求められている。
▶ 重大事態報告
学校内で被害発生
↓
【学校】状況確認(故意性・被害程度)
↓
【学校】→「重大事態」と判断した場合のみ
↓
【教育委員会】調査委員会の設置
↓
【調査委員会】いじめの認定・報告書作成
↓
【追加調査】保護者要望により再調査(裁量)
↓
【市教委】故意性認定/制度上の問題指摘
範囲 | 要点 |
---|---|
前半の要点 | 学校は転倒を「事故」と判断し報告を怠った |
後半の注目 | 再調査により「故意」と認定され、制度的盲点が顕在化した |
学校は「生徒同士の接触」としか見ていなかった。だが、その判断の奥には「対等な関係で起きた偶発性」が前提にあった。教師が“日常的な悪ふざけ”と認識する一方で、受けた側には恐怖が蓄積していた。制度の条文が生徒の実感に寄り添えていなかったことこそ、今回の根源だったのかもしれない。
制度は被害者を守れるのか?
報告制度がある。
でも、それは使われなければ意味がない。
なぜ報告しなかったのか?ではなく、なぜ“報告しにくい構造”になっていたのか。
学校は、「いじめじゃない」「事故かもしれない」という判断の余白に逃げた。
この余白こそが、制度の弱点だ。
重大事態とは、制度の語彙ではなく、生徒の人生に起きている。
報告義務を“運用任せ”にした瞬間、制度は被害者の盾ではなくなる。
子どもが傷ついたあとに動く制度では、遅い。
FAQ
Q:重大事態報告は学校が判断するのですか?
A:現行制度では、学校長が判断し報告する仕組みとなっています。
Q:転倒が「いじめ」と認定されたのはいつですか?
A:2022年2月に初回の調査報告書で認定されました。
Q:再調査はなぜ行われたのですか?
A:保護者側が「故意性が認定されていない」などと主張し、再調査を求めたためです。
Q:今回のような報告遅延は他にもありますか?
A:「調査中」事案はあるものの、全国的に報告の遅れは複数例報告されています。
Q:制度の改善は予定されていますか?
A:市教委は「判断困難な場合でも報告義務を負う制度改正」を検討するとしています。
まとめ
視点 | 要点 |
---|---|
制度的視点 | 学校の裁量が報告の遅れを生み、制度が実効性を失った |
時系列視点 | 2019年の転倒から2024年の再認定までに約5年を要した |