京都・西城陽中学校で事務職員が給食費や修学旅行費など2200万円以上を着服していた事件。6年にわたり不正が続いた背景には、白紙伝票の押印や単独管理が許された制度的な空白があった。市教委は再発防止策を発表し、警察への被害届提出を進めている。
給食費を6年間流用
管理契約の闇
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
京都府城陽市立西城陽中学校の男性事務職員が、給食費や修学旅行積立金などの学校徴収金を私的流用し、着服額は2200万円を超える見通しとなった。通帳管理を単独で行っていたことが原因とされ、市教育委員会は制度運用の見直しと刑事告訴を検討している。
要約表
事務職員はなぜ2200万円もの資金を操作できたのか?
1人管理体制と「公印付き白紙伝票」の存在
城陽市教育委員会の説明によれば、同中学校の学校徴収金は1名の事務職員により管理されていた。着服は2019年から継続的に行われており、給食費や教材費、修学旅行の積立金などが対象となっていた。
とくに問題視されたのが、職員が学校の公印を押した白紙伝票を使って出金できる環境にあった点である。金額や用途を自ら記入しても発覚しづらい状態で、これが着服の継続を可能にしたとされる。
返金と帳尻調整の反復
当該職員は、着服後に一定の金額を口座に返金する行為を繰り返していた。これは帳尻を合わせることで不正の発覚を免れる目的だったが、2025年5月に市学校給食センターから「給食費未納」の指摘を受け、職員本人が不正を認めた。
本人の供述では「カードローン返済や遊興費に充てた」としており、「生涯をかけて返済する」との意志を示しているが、返済計画の実現性は不透明とされている。
この問題を複雑化させたのは、学校現場における金銭管理の属人化である。西城陽中では、教職員による複数人チェックや口座操作記録の開示制度がなかったことが確認されており、担当者個人の裁量に依存した運用が常態化していた。
さらに、公印付きの白紙伝票という不適切な帳票管理も、制度上の抜け穴として放置されていた。市教委はこの点について「組織としての責任も大きい」と認め、管理フローの全面的な見直しを進めている。
-
属人化した金銭管理体制
-
公印付き白紙伝票という制度の盲点
-
市教委による「組織責任」の認定
他自治体での類似着服事件との相違点
比較項目 | 城陽市・西城陽中(本件) | 他自治体(例:福岡市・名古屋市など) |
---|---|---|
管理体制 | 1人管理・公印付き白紙伝票 | 複数名管理・金庫+口座の分離型 |
発覚契機 | 給食センターの「未納通知」 | 定期監査/内部告発 |
着服額 | 約2,200万円(2025年までに継続的) | 数十万〜数百万円規模が中心 |
制度的背景 | 管理帳票・出金伝票の運用にルール不備あり | 電子化済み/承認フローの明文化 |
教育委員会の対応 | 被害届提出/再発防止策を検討中 | 多くは懲戒解雇+文書公表+制度改定 |
市教委はどのように再発防止に動くのか?
着服ルートを遮断する体制変更は進んでいるか?
市教委は事件発覚直後から、西城陽中学校を含む全市立校に対し、徴収金の運用実態について緊急調査を実施した。特に、職員1名に業務が集中する「単独管理体制」や、白紙の伝票への公印押印といった運用慣行について、制度上の危険性が指摘された。これを受け、同市では「複数名管理の義務化」および「公印の保管と使用記録の義務付け」に踏み切った。
2025年6月の段階で、すでに市立小中学校すべてにおいて「二重チェック体制」が導入され、徴収金の引き落としは校長と事務職員の連名確認制に移行している。出金に必要な伝票も「電子決裁化」に向けて試験導入が始まったとされる。
帳簿・口座・伝票…「3点監査体制」構築はどこまで進んだか?
着服の直接的な手口は、徴収金の口座からの出金に関する書類をすべて一人で作成・保管し、白紙の出金伝票に後日金額を記入して着服を繰り返したものだった。これを防ぐため、市教委は「3点(通帳・伝票・帳簿)を別々の担当が点検する体制」への転換を推進中と説明している。
また、チェックの形式だけでなく、システム面でも「徴収金専用ソフトの導入」を視野に入れており、紙ベースからの脱却も方針として掲げられている。外部監査の定期実施と、市民説明会の開催も今後の対応策に含まれているが、これらはまだ準備段階にとどまっているとされる。
市教委はどのように再発防止に動くのか?
市教委は今回の事件を「制度の空白が引き起こした不祥事」と認識し、以下の3段階で再発防止策の構築に取り組んでいる。
-
第1段階(即時対応):徴収金業務の緊急棚卸し/全校調査の実施/着服金額の把握
-
第2段階(制度再設計):二重管理体制の導入/伝票保管ルールの見直し/市内全校での研修会実施
-
第3段階(継続監査):外部監査制度の常設化/電子化の推進/不正検知の内部通報体制整備
この3段階の方針は6月中に内部通達として策定され、今後は監査記録の共有や不正検知ログの蓄積が重視されることになる。
市教委の再発防止対策の流れ
学校給食費未納が発覚(2025年5月)
↓
職員が着服を自認
↓
市教委が調査開始・会見実施(6月)
↓
全校への徴収金業務調査を実施
↓
管理体制の一元化から複数管理へ
↓
出金手続きの電子化と伝票規則の整備
↓
外部監査導入・市民説明会の準備へ
↓
不正検知・通報制度の整備が今後の課題
見出し | 要点 |
---|---|
市教委の初動対応 | 事件直後に全市立校へ緊急調査を実施 |
管理体制の見直し | 単独管理から二重チェック体制へ移行 |
電子化の取り組み | 出金伝票の電子決裁システムを試験導入中 |
今後の課題 | 外部監査と通報体制の整備が残されている |
学校徴収金の着服という行為は、金額の大小ではなく「信頼の喪失」を意味していた。保護者が預けた積立金は、子どもたちの思い出に直結する費用であり、その管理が「一人の胸先三寸」で運用されていたという事実こそが、市教委の制度疲労を象徴している。口座の残高や出金伝票の数字では測れないものが、そこにあった。
着服事件はなぜ繰り返されるのか?
金銭を扱う業務に、なぜ一人きりで向き合わせるのか。
そして、なぜ誰も「その人を疑うこと」が制度として組み込まれていないのか。
今回の着服事件は、特殊でも異例でもない。学校や自治体、福祉や医療の現場で、同じような構図が幾度も繰り返されてきた。
責任者が不在で、チェック体制も曖昧。だが、それでも“信頼で成り立っていた”という空気が、逆に油断を招いた。
人を信じることと、制度に甘えることは違う。
今回の事件が突きつけたのは、「善意による管理」が制度ではない、という事実だ。
事務職員個人を断罪するだけでは、また別の現場で同じ歪みが生まれる。
制度が人を守るのではなく、人が制度の空白を突いてしまう。
それを防げるのは、“疑うことを前提に設計された透明性”しかない。
FAQ(制度対応・管理体制)
Q:着服された金額はどのくらいですか?
A:総額は2,200万円以上にのぼるとされ、市教育委員会が警察に被害届を提出する方針です。
Q:着服された期間はいつからいつまでですか?
A:2019年8月28日から2025年5月15日までの約6年間にわたります。
Q:管理体制に問題はなかったのですか?
A:徴収金の口座管理を1人の職員に任せていた上、出金伝票の白紙押印など不正が可能な環境が放置されていました。
Q:再発防止策はどうなる予定ですか?
A:市教委は金銭管理の複数名チェック制導入、公印管理の厳格化、口座取引の定期監査を含む見直しを進めるとしています。
Q:被害者側の補償や返金は行われるのですか?
A:詳細は調整中ですが、保護者や関係者に対し説明と対応が検討されています(調査中)。
記事全体の整理