長野県内の複数の病院で、米不足により入院患者への食事提供が困難となる異常事態が起きている。業者の供給停止や制度外の調達負担により、病院職員がスーパーで買い出しに走るなど現場対応に追われた。学校や福祉施設には備蓄制度がある一方、民間医療機関は制度外。制度の構造と現場の対応格差を整理する。
コメ不足で
医療現場が買い出し
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
米の値上がりが続く中、病院の厨房に異変が起きている。長野県内の複数病院では、業者からの納入が突然ストップし、入院患者に出すはずのご飯が確保できないという異常事態が発生。医療職員がスーパーを奔走する事態まで起きている。制度上、病院が「備蓄米供給の対象外」とされていたことが、静かに波紋を広げている。
冒頭要約表
項目 | 内容 |
---|---|
対象施設 | 長野県内の複数民間病院 |
発生日 | 2025年5月〜継続中 |
発生内容 | 業者からの米飯供給停止/入院患者へのご飯提供が困難に |
背景事情 | コメ価格の高騰・流通在庫の逼迫/供給業者の契約撤退 |
職員対応 | スーパーでの緊急買い出し・備蓄米の放出対応 |
注目点 | 医療機関が災害備蓄米などの公的供給制度から除外されている制度的盲点 |
病院でコメが足りないのはなぜ起きたのか?
業者が一斉に「供給できない」と通告した理由
2025年5月以降、長野県内の複数の民間病院で、業者による米の納入が突然止まった。これまで病院給食を支えていた契約業者数社が相次いで「市場から確保できない」と通告。全国的な米価格の急騰と在庫不足を理由に、契約を履行できない状況に陥ったという。医療施設側にとっては寝耳に水だった。
通常、業者との年間契約で安定供給が図られるはずの米飯が、価格と物流の両面から崩れた格好となった。代替手段として他業者への切り替えも試みたが、すべての業者から「対応不可」との回答が相次いだ。病院関係者によれば「一度も売ってくれた業者はなかった」という。
調達できない中で職員が取った非常手段
ご飯を止めるわけにはいかない病院食において、現場の対応は極めて属人的だった。厨房職員や管理栄養士らが、朝早くから地域のスーパーを巡り、店頭在庫の米を手分けして買い求めた。ある施設では、複数職員が自腹で購入し、備蓄分と併用しながら献立をしのいでいる。
病院によっては災害用に備蓄していた米を“前倒し”で放出することで当面の危機を乗り越えているが、「これが切れたらもう終わり」と話す職員もいる。急場しのぎのための追加購入や対応業務は、本来の調理労務の負担に加え、心理的・経済的ストレスを増幅させている。
病院が「制度の外」に置かれていた構造的理由
制度的に見ると、病院がコメ供給の優先対象に含まれていない点が根本にある。国や自治体は「災害備蓄米」「国の備蓄米」を管理しているが、配分対象は主に自治体施設・学校・福祉機関に限られ、民間の医療施設は対象外とされてきた。行政の想定では、病院は「民間調達が可能な施設」と位置づけられていた。
一部では農林水産省が「国の備蓄米を特例放出する方針」と報じられているが、現場の病院にはまだ一粒も届いていない。制度が対応を開始するまでのタイムラグをどう埋めるかは、完全に病院側の自己努力に委ねられている。
-
病院は制度的に備蓄供給の“空白地帯”に位置している
-
自治体の災害時配分表においても「病院」記載がないケースが多数
-
診療報酬にはこうした緊急食材調達費は含まれていない
学校・自治体と病院のコメ供給制度の違い
区分 | 災害備蓄制度 | 優先供給ルート | 緊急対応の制度支援 |
---|---|---|---|
公立学校 | ○(文科省+自治体) | ○(教育委員会経由) | ○(即時手配あり) |
自治体福祉施設 | ○(社会福祉法人向け) | △(自治体経由) | △(申請対応) |
民間病院 | ×(制度外) | ×(業者調達のみ) | ×(制度支援なし) |
病院側はどのように対応したのか?
制度が機能しない中、現場はどう動いたか
・複数の病院で「非常時対応」として備蓄米の放出を決断
・しかし備蓄量は限られており、数日~1週間で底をついた
・職員が地元スーパーやJA直売所で買い出しに走る例もあった
・一部では「弁当形式への変更」や「おかずのみ提供」への切り替えが行われた
・それでも入院患者には「コメなし」という事態を回避するための最低限の対応策だった
医療機関が国に要請した支援とは
・長野県の病院団体は国に「医療用コメの供給ルート整備」を要望
・農水省・厚労省は「災害備蓄の転用」や「特例供給」を検討するも、即時対応は難航
・制度の壁により、最終的には地域単位で自治体が支援に動く形が主流に
✅ 現場の証言と制度の限界
・調理員:「スーパーで買える分を買って、それでなんとか翌日の食数を組んでます」
・事務長:「業者がゼロになったと聞いた時は、正直ゾッとした。供給制度が全くなかった」
・一部病院では「ご飯が足りない場合はおにぎりに切り替える」と掲示で告知
・法制度上、「病院食材の供給保証制度」は存在しない
・災害時の特例制度も、病院単位での供給には申請や手続きが必要で即応性に欠ける
✅ コメ供給停止から患者食確保までの流れ
供給業者の調達困難 → 病院への納入停止通知
↓
病院の備蓄米で対応 → 数日で在庫枯渇
↓
スーパー・JAで職員が買い出し
↓
提供形態の変更(おかずのみ/弁当形式)
↓
自治体・国に支援を要請 → 制度上は即応不可
↓
一部で自治体がコメ支援を実施
範囲 | 要点 |
---|---|
前半のまとめ | 米価高騰により病院の契約業者が供給停止し、入院食が危機に陥った。現場職員が買い出しで対応した。 |
後半の導入 | 制度が医療機関への食材供給を想定しておらず、緊急時にも支援が届かない実態が明らかになった。 |
病院で食べるご飯は、入院患者にとって治療の一部でもある。
けれど、それを確保する制度が、実はどこにも存在していなかった。
災害備蓄があっても、それはすぐに使えるものではない。
届ける仕組みがなければ、制度は“あるようで、ない”のと同じだ。
今回の米不足は、そんな盲点を突いた。
制度が支えるのは「市民」か「市場」か
入院食が不足していた。
現場の職員が、スーパーを巡って米を集めていた。
この国には、たしかに備蓄がある。だが、それは誰のためにあるのか?
市民か。
医療現場か。
それとも、流通を握る市場か。
供給制度は「整っている」とされてきたが、
その“整い”が、誰を支えるかは、定義されていなかった。
米を買いに走る医療従事者の姿は、その矛盾をくっきりと映し出している。
✅ FAQ
Q:病院で使用するコメには優先供給制度がありますか?
A:現行制度では、医療機関向けの優先供給ルートは存在していません。
Q:備蓄米は病院に直接提供されますか?
A:災害備蓄米の提供は自治体経由が基本で、病院単位では申請が必要です。
Q:なぜ業者が一斉に供給を止めたのですか?
A:市場の米価格高騰と品薄により、安定供給が困難になったとされています。
✅ まとめ
視点 | 内容 |
---|---|
制度の空白 | 医療機関への食材供給制度が存在せず、国の備蓄も直結しない構造 |
現場の対応 | 備蓄放出・スーパー買い出し・献立変更などで臨時対応 |
制度と現場の乖離 | 支援の申請制・即応性の欠如が、供給断絶を深刻化させた |
提示された問い | 食の制度は、誰を優先するよう設計されているのか |