今治造船の工場で発生したクレーン事故により、外国人技能実習生の男性が死亡した件で、労働安全衛生法違反の疑いにより会社と主任が書類送検されました。作業時に合図者を定めず、安全対策を怠ったとされています。今治労基署が対応し、企業の安全管理責任が問われています。
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クレーン事故で実習生死亡、今治造船と主任を送検
愛媛県今治市にある今治造船で、外国人技能実習生がクレーン作業中に死亡した事故を受け、労働基準監督署は安全対策を怠ったとして会社と主任を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検した。指名すべき合図者を定めず、連絡調整も実施しなかった疑いがある。
安全確認の不備が事故につながったのか?
クレーン作業での基本義務が守られなかった理由
今治造船の工場で2024年11月、クレーンのワイヤロープに実習生が巻き込まれ死亡した事故は、基本的な作業指示・連絡の欠如が一因とされています。労働安全衛生法では、クレーン作業時には「合図者の選任」が義務づけられており、危険区域に人が立ち入らないよう監督する必要があります。しかし、今回の作業ではこの合図者が指名されず、指揮系統も曖昧だったとされます。
死亡したのは44歳の外国人技能実習生で、資格が不十分なまま現場作業に従事していた可能性も指摘されています。今治労働基準監督署は、こうした体制が「安全確認義務の放棄」と判断し、管理者と企業そのものの責任を追及しました。
資格不備のまま従事させた可能性も浮上
今回の事故では、被害者の外国人技能実習生が「クレーンの操作資格を持たない状態で作業に関わっていた」とする見方も浮上しています。クレーン操作は重量物の取り扱いを伴い、高度な知識と資格が求められる作業です。通常、法令では特別教育や技能講習を受けた者にしか許可されておらず、雇用者側の管理責任が問われます。
労基署の調査でも、この資格問題について複数の証言が出ており、今後は業務上過失致死の適用可能性や、外国人実習制度全体の運用に対する検証も焦点となります。技能実習制度の目的である「技術移転と育成」と、現場の労働実態の乖離が改めて浮き彫りになった格好です。
事故をめぐる経緯と企業の対応はどうだったか?
今回の事故を受け、今治造船では社内調査と安全確認の再点検が進められましたが、詳細な再発防止策については具体的な発表が行われていません。愛媛県労働局が把握したところによれば、事故後の一定期間、当該工場ではクレーン作業を一部制限する措置が取られていたとされます。
また、実習生の遺族との対応に関しても明確なコメントは控えられており、透明性と誠意を欠くとの指摘も一部から出ています。企業としての社会的責任と外国人実習生を受け入れる立場の重みが問われています。
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今治造船は「全面的に協力する姿勢」としつつも、原因の詳細や責任範囲については公表を避けている
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実習生が有していた作業資格の有無に関する報告も現段階では非公開
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労基署は今後、同様の業態における安全点検を広域で実施予定と説明
今治造船の事故と他社の対応差
企業側の安全管理と再発防止策は?
今治造船の管理体制に問題はあったのか?
書類送検の対象となったのは、作業責任者の選定および合図担当者の指名を怠った点である。事故当日、被害者の技能実習生は、クレーン作業中に巻き上げワイヤに巻き込まれ、致命的な圧迫を受けた。調査によれば、作業工程における合図・指示系統の整備が不十分で、作業者間の連携が途絶していた可能性が指摘されている。
同労働基準監督署は、クレーン操作の際には必ず合図者を配置し、責任の所在を明確にするよう定めているが、今治造船はこの基本ルールを遵守していなかったとされる。また、当日の作業計画書や安全確認記録に不備があった点も報告されている。
安全配慮義務を企業が怠れば、重大事故につながることを改めて示した形だ。
今治造船の対応と再発防止の動きは?
今治造船側は、事故後に遺族や関係当局に謝罪したうえで、社内の安全管理体制を見直す方針を表明した。再発防止策として、次のような施策が発表されている。
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クレーン作業における合図者の明確な配置制度の導入
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外国人実習生を含む全作業員への安全教育プログラムの再編
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毎日の作業前点検と、作業工程ごとのリスク評価(KY活動)の強化
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安全巡視員によるリアルタイム監視体制の導入
これらの取り組みはすでに一部工場で開始されており、他の事業所にも段階的に拡大予定とされている。
しかし、第三者機関による監査体制の導入にはまだ至っておらず、外部監視による実効性確保が今後の課題とされている。
企業責任と制度不備が生んだ構造的課題
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技能実習生は言語や文化の壁から、危険察知能力や伝達の精度に格差があるにもかかわらず、作業配分に十分な配慮がなされていなかった。
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クレーン作業は高度な危険管理が求められるにもかかわらず、責任体制が属人的に曖昧だった点が、事故の引き金となった。
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現場任せの安全対策から脱却し、制度的・構造的に責任を分担する設計が必要である。
【クレーン事故に至る作業連携の欠落】
作業指示の不備
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合図者の未指定
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技能実習生が単独で危険領域に立ち入る
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巻き上げ作業が進行
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クレーンのワイヤに巻き込まれる
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緊急停止が遅れる
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致命的な事故が発生
安全とは、誰かが見ていることを前提に成り立つ。
だが、もしそれが形式になり、現場で空洞化していたとしたら──
そのとき命を守るのは、制度ではなく「具体」だという矛盾が残る。
不祥事の連鎖と信頼の死角に、私たちは何を見ているのか
事故が起きたとき、私たちはいつも、誰か一人の過失に回収したがる。主任が合図を出さなかったから。安全担当が配置されていなかったから。そう言えば話は簡単になるし、責任の所在も見えやすくなる。
けれど、今回の事故を本当に一人の「主任」や「担当」に押し込めていいのか。それは、技能実習生という制度の「常態化した無理」が、事故の背後に沈んでいたからではないか。合図がなかったことよりも、「なぜ合図が出せなかったのか」という構造にまで、目を向ける必要がある。
指差し確認が形式だけになり、連絡調整が属人的な慣行で行われ、誰も止められない現場がそのまま走っていく。この国の多くの現場で、いまも起きていることだ。実習生は、制度の外から来たのではない。制度そのものの中に、組み込まれていたのだ。
だからこそ問う。制度の安全を、誰がどこで止めるのか。それがなければ、次もまた同じ構図が繰り返されるだけだ。
❓FAQ|今治造船のクレーン事故と書類送検に関する制度対応
Q:今治造船が書類送検されたのはなぜですか?
A:2024年11月に実習生が死亡したクレーン事故において、合図者の指名や作業連絡の調整を怠ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで書類送検されました。
Q:死亡した実習生の作業内容は何でしたか?
A:巻き上げ作業の補助として現場に配置されており、クレーン操作そのものではなく、荷の誘導や現場整備に関わっていたと報じられています。
Q:実習生に必要な資格はありましたか?
A:クレーン作業に直接関与する場合は資格が必要ですが、当該実習生が資格を保有していたかは公表されておらず、現在も調査中です。
Q:会社の安全管理体制にどのような不備がありましたか?
A:作業計画の明確化や合図者配置が不徹底であり、作業責任の所在や危険回避措置が不十分だったとされています。
Q:今後の再発防止策はどのように示されていますか?
A:合図者制度の徹底、安全教育の再構築、作業前の点検強化、安全巡視体制の導入などを含む再発防止策が検討されています。