2025年6月、札幌市の北海道大学構内で、猛毒植物「バイカルハナウド」とみられる外来植物が複数株確認された。皮膚炎や失明の危険があるとされ、現在は専門家による同定作業が進行中。環境省の外来種リストには未登録で、対応が求められる状況に。健康リスクと制度の空白が交差する現場対応に注目が集まっている。
大学構内に猛毒植物
バイカルハナウド発見
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北海道大学構内で、強い毒性を持つ外来植物「バイカルハナウド」とみられる植物が複数確認された。国内では存在が未確認とされてきた本種の報告は、健康リスクの観点でも注視されており、専門家による同定作業と並行して、現場の封鎖や対応の議論が始まっている。
なぜ猛毒植物が北大で見つかったのか?
バイカルハナウドとは何か?
バイカルハナウド(Heracleum sosnowskyi)は、西アジアを原産とするセリ科の多年草である。欧米では「ジャイアント・ホグウィード」の名で広く知られ、その危険性から繁殖・拡散に対する強い警戒が行われている。最大の特徴は、茎や葉、花に含まれる樹液に光線過敏を引き起こす毒性成分が含まれている点である。
この毒性物質が皮膚に付着し、さらに紫外線に当たることで激しい炎症や火傷に近い症状を引き起こす。目に入った場合は視力障害や失明をもたらす危険もあるとされている。繁殖力が非常に強く、一度定着すると駆除が難しいことから、欧米諸国では「特定有害植物」として除去対象に指定されてきた。
どこで誰が発見し、どう対応したのか?
2025年6月24日、札幌市中心部に位置する北海道大学キャンパス内の南東側にある道路沿いにおいて、外部からの通報により「バイカルハナウドに酷似した植物が10株以上生育している」との情報が大学側に寄せられた。植物に関心を持つ市民または研究関係者が発見者とされている。
これを受け、北海道大学は即座に専門家への調査依頼を行い、同定作業を開始。生育が確認された周辺区域は、学生以外の通行も多いエリアであったことから、大学側は安全確保のため、立入制限と通行禁止措置を講じた。現在は植物の正確な種の同定を待ちつつ、関係機関との対応協議に備えているとされる。
国内制度と外来植物の扱いは?
日本では、有害な外来生物に対して「特定外来生物」や「生態系被害防止外来種リスト」などを通じた登録・対応制度が存在する。しかし、バイカルハナウドはこれまで国内での発見例がなく、環境省のリストにも掲載されていなかった。これは、毒性の高さと繁殖力の強さが知られている一方で、日本国内での侵入リスクが現実化していなかったためと考えられる。
今後、今回のような発見例を契機に、制度的な登録見直しや新たな外来種リスク評価体制の強化が求められる可能性がある。現場対応と制度構築の両輪によって、同様の植物による健康被害を未然に防ぐ仕組みが整備されていくことが期待されている。
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国内では未登録であり、対応制度が未整備
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北海道は自然植生が豊富で、侵入植物の定着リスクが高い
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大学構内での発見は公共施設における植物管理の難しさを示す
要素 | 国内対応(今回) | 欧米の対応(過去) |
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登録状況 | 環境省リスト未登録 | 有害植物リストに明記 |
制度的対応 | 専門家調査・立入制限措置 | 拡散防止法・駆除義務あり |
公共空間での発見 | 北大構内(道路沿い) | 河川敷・公園・民家周辺など |
この発見がもたらす影響は?
関係機関の動き
今回の通報を受けて、北海道大学は植物の正確な同定作業を進めており、確認が取れ次第、環境省などの関係機関との協議に移行する方針を示している。バイカルハナウドは、現時点で「特定外来生物」や「生態系被害防止外来種リスト」には含まれておらず、法的な駆除義務や管理制度の対象外となっている。
環境省は、こうした制度的空白が存在する状況においても、健康被害や生態系への影響が確認されれば、緊急措置やリストの見直し検討を行うとされている。ただし、制度改定には専門委員会での審査や官報告示などの工程を要するため、迅速な対応には限界もある。
学内外の安全管理と地域反応
北海道大学は、対象区域の立入を一時的に禁止し、警戒テープや看板などを設置して通行人への注意喚起を実施した。発見場所が市街地に近く、観光や通学経路にも近接しているため、地元住民や学生からは「事前に気づけなかったのか」といった声も出ている。
一方、過去においても外来植物の急速な定着例は複数報告されており、特に北海道は冷涼な気候と多様な植物相を持つことから、欧州由来の植物が適応しやすい土壌環境であるとされる。今回のように、制度による網がかからない種が市街地近くで見つかったことで、安全管理や監視体制の再検討が求められている。
健康被害と制度未整備のリスクとは?
バイカルハナウドは、見た目には大型のセリ科植物であり、一般の人が「雑草」や「山菜」と誤認する可能性も否定できない。樹液に含まれる毒性成分は皮膚に激しい炎症を起こし、場合によっては失明の危険性を伴うため、適切な情報提供と啓発が重要とされる。
一方で、日本の外来植物制度では、毒性や侵入実績が確認された種のみが対象となっており、「未確認種」への対応フローは曖昧なままである。今回の件を機に、制度的な事前対策の再構築や、自治体単位での予防的ガイドラインの導入が検討される可能性がある。
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一般市民が見分けにくい外見を持つ
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医療現場での即時対応が必要なケースも想定される
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現行制度では未確認種への対応手順が明文化されていない
【猛毒植物の通報から対応までの流れ】
① 外部から大学に通報
↓
② 北海道大学が植物を確認・記録
↓
③ 専門家に植物同定を正式依頼
↓
④ 生育場所を封鎖・立入制限を実施
↓
⑤ 確定後に関係機関と対応を協議
外来植物に対する対応は、既知の事例に基づいて設計されている。それは制度上の合理性に従った処理だが、今回のように未確認の種が突如として出現した場合、果たして一般の通行人がその危険性を見抜ける場面はどこにあったのだろう。自分がその道を歩いていたら、気づくことができただろうか――。
植物リスク管理と今後の論点
今回のケースは、健康被害リスクを持つ外来植物が制度の網をすり抜けて公共空間に定着するという事態を示している。現行制度は主に「既知の有害種」への対応を前提として構築されており、未知種への即時対応や発見後の初動措置については曖昧なままだ。
仮にバイカルハナウドが正式に確認されれば、今後は「外来種の事前評価制度」や「潜在危険種リスト」など、新たな枠組みの必要性が議論されるだろう。誰が、どの段階で、どの制度に基づいて対応すべきだったのかという問いが、いまなお制度の外側に残されている。
❓ FAQ
Q1:バイカルハナウドの危険性はどのような点にありますか?
A:皮膚に付着した樹液が紫外線に反応し、火傷のような炎症を引き起こす点が最大の危険とされています。
Q2:なぜ環境省の外来種リストに入っていないのですか?
A:日本国内での確認例がなかったため、リスク評価や指定の対象とされていなかったとされています。
Q3:今後の制度対応としてどのような方針が検討されますか?
A:確認が取れれば、特定外来生物の指定や健康被害予防のためのガイドライン策定が議論される可能性があります。