三重県松阪市の市立小学校で、大腸菌が検出された受水槽の検査結果が「陰性」に書き換えられていたことが発覚。清掃業者の70代男性役員が有印私文書偽造などの疑いで書類送検された。市が再検査を求める中、検体が提出されず、不審に思った検査会社が市に通報。市内45校すべてが同業者の管理対象であり、他校でも改ざんの疑いが出ている。報告と実態がズレた水質管理の盲点とは。
小学校で水質検査偽装
大腸菌「陰性」に改ざん
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
松阪市内の小学校で実施された受水槽の水質検査において、大腸菌が検出されたにもかかわらず、検査結果が「陰性」に書き換えられていたことが明らかになった。清掃業者の70代男性役員が有印私文書偽造などの疑いで書類送検され、市内全体に波及しかねない不正が露見している。
なぜ改ざんが行われたのか?
清掃業者が依頼した検査の経緯
松阪市立の小中学校に設置された受水槽の清掃業務を請け負っていた「共同商会」は、昨年8月ごろ、市内45校分の水質検査を第三者機関に依頼していた。そのうち、ある小学校の検査結果で大腸菌が「陽性」とされたが、業者は結果を受け入れず、別の報告用紙に「陰性」の表示を切り貼りし、市に提出した。
改ざんの手口と提出資料
検査報告書の改ざんは、検査会社から送られた正規の書面を加工し、別の用紙に転記したうえで切り貼りによって「陰性」の結果にすり替えたとされる。市に提出された文書は一見して正規の様式に見えたため、当初は不正が見抜かれなかった。業者の男性役員は、松阪署の取り調べに対して容疑を認めている。
なぜ偽装に及んだのか、業者側の事情
清掃業者が水質検査の結果を改ざんした背景には、市からの契約継続や信頼維持を意識した動機があったとみられている。定期的な清掃を担っていた同社にとって、検査結果の「陽性」は契約上の信頼低下や再施工への対応を求められる要因になりかねなかった。
水質検査は形式的に通過する前提で業務が進んでいた可能性があり、「検査のやり直しによる手間や費用を避けたかった」と供述しているという。一方で、今回の偽装により、45校分の全検査結果に対して信憑性が問われる事態となっている。
-
市との契約は複数年にわたる長期の清掃業務だった
-
検査結果が原因で追加対応を避けようとしたとされる
-
偽装の対象は一校だけでなく複数校に及ぶ可能性も浮上している
正規検査結果と提出内容の差異
項目 | 正規検査の内容 | 提出された改ざん内容 |
---|---|---|
大腸菌の検出 | 陽性(検出あり) | 陰性(検出なし)に書き換え |
報告書様式 | 検査会社発行の原本 | 自社編集の用紙に切り貼り |
再検査の有無 | 検体未提出で再検査不能 | 再検査を装う記述あり |
提出先 | 松阪市教育委員会経由 | 正規ルートでそのまま提出 |
他校への波及と住民不安
共同商会が担当した小中学校は市内に45校あり、透明度や色といった別項目の基準値も改ざんされた疑いが浮上している。検査会社の報告によれば、一部では数値が基準値を超えていた可能性があるが、報告書上はすべて問題なしと記載されていたという。
市民の間では「子どもが通う学校で何が起きていたのか不安」「信頼していたのに裏切られた」との声が出ており、今後の説明会や調査結果の公開に対する関心が高まっている。
見落とされた管理と検証の弱点
今回の改ざんは、受託業務に対する外部監査が制度的に整備されていなかったことが一因とされている。清掃報告や検査結果は基本的に業者任せとなっており、提出資料の内容確認も形式的だったと市職員が認めている。
特に受水槽のようなインフラ要素は、日常の中で可視化されにくい部分だけに、検査データが唯一の判断材料となることが多い。そこに不正が入り込んだことで、他のインフラ管理分野にも監視の目が必要であるとの声が行政内でも上がりつつある。
-
報告書の信頼性が前提となっていた
-
外部監査制度が存在していなかった
-
他の委託業務全般への影響も懸念されている
① 水質検査で大腸菌「陽性」検出
↓
② 清掃業者が検査結果を改ざん
↓
③ 検査会社が再検査用検体の未提出に気づく
↓
④ 市に相談・告訴状提出
↓
⑤ 松阪署が書類送検
受水槽の管理は、検査結果の信頼性に依存する形式で運用されていた。そこに人の手が入れば、数字ひとつで判断が覆る現実があった。だが、子どもが飲む水の安全を、保護者が確認できる手段はあったのだろうか。見えない信頼の上に組み立てられた管理のかたちが、今回問われていた。
検査と信頼のすり替えが残したもの
水質検査という仕組みが、形式の整合性だけを求める運用に傾いていた。大腸菌の有無という明確な数字に対して、そのままの報告が許容されなかった理由は何だったのか。業務委託という関係のなかで、検証よりも円滑な報告を重視する傾向があったなら、制度そのものが安全確認を形骸化させていたことになる。安全とは何かという根本の問いに、今、立ち返る必要があるのではないか。
❓FAQ
Q1. 今回の改ざんはどのように発覚したのですか?
A. 清掃業者が再検査用の検体を提出しなかったため、検査会社が異変に気づき、市に相談したことが発端となりました。
Q2. 改ざんされた内容はどのようなものでしたか?
A. 大腸菌が「陽性」と記載された検査報告書の一部を切り貼りして「陰性」に書き換え、市に提出していました。
Q3. 書類送検された人物は誰ですか?
A. 清掃業者「共同商会」の70代男性役員が、有印私文書偽造・同行使の疑いで書類送検されました。
Q4. 他の学校にも同様の改ざんがあったのでしょうか?
A. 松阪市内の他校についても透明度や色などの数値が改ざんされた可能性があり、現在調査中です。
Q5. 健康被害は確認されているのですか?
A. 現時点で健康被害の報告は確認されていませんが、市は引き続き影響の有無を調査中としています。