電線やエアコンの室外機、道路の金属製ふたなどが相次いで盗まれる中、警察庁は古物営業法施行規則の一部を改正し、金属資材の売却時に売却者の本人確認を義務づける方針を示しました。対象物は金額に関わらず確認対象となり、買い取り現場での制度強化が始まります。
金属盗対策で法改正へ
本人確認を義務づけ
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金属価格の高騰に伴い、エアコン室外機や電線、道路の金属製ふたが狙われる盗難が急増している。警察庁は再流通の防止を狙い、買取業者に対して売却者の本人確認を義務づける方針を固めた。
項目 | 要点 |
---|---|
被害急増 | 金属資材の盗難被害が前年比で倍増 |
改正方針 | 警察庁が買取時の本人確認を義務化へ |
対象物 | 電線・室外機・道路の金属製ふた等 |
適用時期 | 改正施行は10月1日を予定 |
なぜ本人確認が義務化されるのか?
金属価格高騰と盗難急増の背景
銅価格の高騰を背景に、金属類の盗難被害が顕著に増えている。特に電線やエアコンの室外機、電気温水器のヒートポンプなど、再資源化しやすい物品が狙われやすい傾向にある。2023年には電線窃盗だけで1万件を超え、前年の約5500件から急増した。価格と需要の関係が盗難の動機を強めている様子が見られた。
一方、盗まれた金属は解体・破砕されたのち、金属業者へと流れ込み、出所の確認が極めて困難になる。中には公共インフラである道路の金属製ふた(グレーチング)まで標的となっており、安全面への影響も無視できない状況が続いている。
取引現場での確認手順と抜け道
現行法では、1万円未満の古物取引に関しては本人確認が免除されている。ただし、オートバイやゲームソフトなど一部の品目については金額に関係なく確認が求められる。今回の改正では、これと同様に「対象品目」方式が採用され、金属製品を対象に本人確認が義務化される。
これにより、盗品が少額であっても買い取りを拒否できる環境が整う見込みである。業者側には運転免許証などの身分証明書による確認義務が生じ、記録保存も求められる。これまで抜け道とされていた「少額持ち込み」への対策が明文化されることとなる。
本人確認の例外と1万円未満ルールの見直し
警察庁は、金属製品については「金額にかかわらず本人確認を義務化する」と明言している。これにより、これまでの1万円基準は金属類に関しては実質的に撤廃される形となる。オートバイなどと同じく、「品目ベースでの特例対象」が拡張されることになる。
業界からは「事務負担が増える」との声もあるが、警察庁は被害防止を優先するとして方針を崩していない。あわせて、本人確認を怠った業者への指導・注意も強化される方向で調整が進められている。
実効性はどこまで担保されるのか
金属類の窃盗は、多くが匿名での売却ルートを利用しており、買取時の身分確認を義務づけても、盗難ルートが完全に遮断される保証はない。買い取りを断られたとしても、野積み保管や非正規取引に流れるケースもある。
こうした事態を防ぐためには、本人確認だけでなく、金属の出どころを記録する「由来記録制度」の整備や、盗難防止装置の設置義務など、周辺措置の併用が必要となる。法改正だけで対応が完結するわけではなく、物理的・技術的対策も同時に動いている構図がある。
本人確認の義務有無の違い
対象品目 | 現行の扱い | 改正後の扱い |
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電線/室外機/金属製ふた | 1万円未満は本人確認不要 | 金額に関わらず本人確認が必要 |
ゲームソフト・書籍 | 現行でも金額に関係なく確認義務あり | 継続して確認が必要 |
バイク・自転車 | 買取時の本人確認が義務化済 | 継続して義務対象 |
不特定金属類 | 一部除外対象あり | 今回の改正で対象に含まれる方向 |
どのような影響と反応が出ている?
業者・自治体・現場の反応と備え
本人確認の義務化は、古物商の業務に直接影響を与える。業者の間では「事務負担が増す」という声も聞かれる一方で、「盗品の受け取りを未然に防げるなら意味がある」との意見も出ている。
自治体では、道路のグレーチング蓋の盗難が相次いでいたことから、これをきっかけに金属資材の保管方法や監視体制を見直す動きが広がっている。現場では「夜間の盗難」に備えた監視カメラの設置や、防犯チェーンの導入など、具体的な備えが進んでいる。
太陽光施設やケーブル被害の広がり
盗難被害は都市部だけでなく、郊外の太陽光発電施設にも及んでいる。外国人犯罪グループによる組織的な銅線窃盗が報告され、被害額が数千万円にのぼるケースも出てきた。
これに対し、ケーブルの切断に使われる工具を規制する「金属盗対策法」が成立し、警察庁は該当工具の仕様定義と所持制限を政令で明示した。特定のサイズや機構を持つボルトクリッパーやケーブルカッターは、隠し持つだけで拘禁刑の対象となる。
制度だけでなく現場の実効対応も並行へ
制度の整備と同時に、実際の現場対応が効果を左右する。ある地方自治体では、盗難多発区域に限って金属類の夜間回収を停止し、日中の定時回収に切り替える措置を実施。これにより、夜間に不審車両が周囲を巡回する事例が減少した。
また、一部の業者は、持ち込み時に撮影記録を自動で保存するAIカメラを設置しており、本人確認と同時に履歴情報も収集できるようになっている。制度が現場の運用と連動して初めて、実効性が確保されるという見方もある。
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回収方法の変更で盗難件数が一定数減少
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AI監視カメラと連動した本人確認装置も導入進行中
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警察による事後調査用データの収集支援が求められている
見出し | 要点 |
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被害の広がり | 都市部だけでなく郊外の太陽光施設でも被害が増加 |
工具規制 | 新法で特定工具の所持が罰則対象に |
業者の備え | AI監視カメラ・記録保存機能の導入が進行中 |
自治体対応 | 夜間回収の制限や監視の強化が進められている |
金属盗対策の流れ
① 窃盗事件の発生
↓
② 買取業者への持込
↓
③ 本人確認と記録保存
↓
④ 警察・自治体による履歴照会
↓
⑤ 違法ルート遮断・検挙へ
本人確認の義務化は明らかに進んでいるが、その制度がどこまで現場に浸透しているかはまだ揺らいでいる。現物の扱いや確認のタイミングによって、盗品がすり抜ける余地が残っているとの声もある。すべての取引が制度と連動するには、細部への落とし込みがまだ足りていないと受け止められていた。
本人確認だけでは止まらない盗難流通の連鎖
金属資材の売却における本人確認の強化は、一見すれば制度的な網を整える行為に映る。しかし、その網が破られてきた原因には、確認の“形式”に依存しすぎた対応の緩さも含まれていた。
制度が示す方向性は明確であっても、その通りに動かない現場の実情があり、確認書類が揃っていても盗難物はすり抜ける構図が残っていた。
業者側の努力と警察の目線が一致しないままでは、制度の重みだけが宙に浮く。その状態がどれほど長く続いてきたのか、今ようやくその影が制度の下に引き戻されてきたところにある。
❓FAQ
Q1. なぜ金属製品の売却に本人確認が必要になるの?
A1. 電線やエアコン室外機などの盗難が急増し、金属製品が盗品として売却される事例が多発しているため。
Q2. 対象になる品目はどれですか?
A2. 電線、室外機、金属製のふた(グレーチング)など、銅などの高価な金属を含む資材が中心。
Q3. 少額取引でも確認が必要なの?
A3. はい。今回の改正では金額に関係なく本人確認が義務づけられます。
Q4. どんな確認方法がとられるの?
A4. 運転免許証などの顔写真付きの身分証による確認と、記録保存が求められます。
Q5. 違反するとどうなりますか?
A5. 法改正後に確認義務を怠った場合、業者に対して指導や行政処分が下される可能性があります。
見出し | 要点 |
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金属価格高騰 | 銅などを含む電線・蓋の盗難が倍増中 |
法改正の狙い | 買取業者に本人確認を義務化 |
対象範囲 | 室外機・電線・側溝ふたなど |
新たな規制 | 特定工具の所持にも罰則を設定 |