突然の大雨で水の流れが止まり、魚は酸素を失って静かに力尽きた。鳥取の養魚場で発生した約450万円相当のニジマス大量死。水路管理の脆さが問われる今回の事故を通して、自然と向き合う営みにどんな備えが求められていたのかを検証します。
鳥取県倉吉市の養魚場で、出荷直前だったニジマスおよそ2トンが酸欠によって大量死しました。水路の詰まりによって池への水供給が滞ったことが原因で、被害総額は約450万円にのぼります。大雨
養魚場でニジマス1000匹
酸欠死
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による突然の変化に、養殖業者の悲痛な声が広がっています。
なぜ大量死が起きたのか?
直前の雨と池の構造的弱点
倉吉市関金町では6月23日の夜に1時間あたり22.5ミリの雨を観測し、複数の養殖池への水路に泥や落ち葉が流入した。とくに水源から直接水を引き込む水口に異物が詰まり、給水量が著しく低下したという。24日朝の時点で5つの池が酸素不足に陥り、飼育されていたニジマスやイワナが水面に浮かぶ状態となっていた。
小椋社長の証言と養殖状況
現場では小泉川養魚場の小椋勝美社長が「水口にゴミが詰まって水が止まった。池に魚が多くいたことも影響した」と話し、出荷直前だった大型のサーモンサイズの魚に特に被害が集中したと明かしている。養殖歴55年で過去に1度だけ同様の全滅を経験したと語り、今回の被害の深刻さが浮き彫りとなった。
記録的な雨と供給設備の脆さ
大山からの清水を引く仕組みは自然に依存しており、突発的な雨量に対する予備ルートや排水機能が限定されていた。特に水口の形状が複雑で、葉や枝などが絡みやすい構造であったことが、緊急時の対応を困難にした背景となっていた。
養魚場の設計上、複数の池に対して一元的に水を供給する方式だったため、一箇所の詰まりが連鎖的に他の池にも影響する結果となった。酸欠に陥った池では、わずか数時間の間に魚が次々と浮かび上がり、復旧措置が間に合わなかったという。
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水路詰まりは視認しづらく夜間の巡回では把握困難
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池ごとの給水分岐がなく集中管理方式だった
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大雨警報発令時に避難設備や酸素補助装置は未設置
同様の酸欠事故との比較
影響と現場の対応はどうなったか?
地域の降雨量と気象データ
6月23日夜、倉吉市関金地区では短時間に強い雨が集中し、1時間あたりの降水量は22.5ミリに達した。近隣の米子市では同日、3時間で77ミリと、6月としては過去最大級の降雨を記録しており、地域全体が広範な雨量の影響を受けていた。
この集中豪雨により、用水の取り込み口に泥や葉が堆積し、水の流れが遮断された。大山から引かれる水の供給が断たれたことで、池の水位は数時間のうちに目に見えて下がり、水中の酸素濃度も急速に低下したという。
水路詰まりと今後の清掃強化
小泉川養魚場では、これまでも台風時などに給水不安定となることはあったが、今回のように明け方まで気づけないケースは稀だった。特に夜間の巡回が困難で、センサーや遠隔監視装置も設置されていなかったため、異変に即応できなかった。
この事態を受けて、養魚場側は水口周辺の定期清掃の頻度を倍増させるほか、大雨警報発令時には水位センサーやエアレーション装置を稼働させる方針を固めた。また、今後は池ごとに独立した水供給ルートを検討する必要も出てきている。
水産管理への転換点としての意識
養殖という業態は自然の水を活用するため、気象変動の影響を受けやすい。近年の極端な気象に対し、養魚場ごとに事前対策の手段を持たなければ被害の拡大は避けられない。現場では初動の遅れが致命的になりうるとの認識が広がっている。
地元の他の養殖業者からは、今回の事故をきっかけに「管理と観察の目をもっと研ぎ澄まさねば」との声も上がっている。水を引くための工夫、詰まりやすい構造の改善、そして異変を知らせる装置の導入が急がれている。
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給水経路の独立化で被害範囲を縮小
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雨量変化への即時反応にはセンサーの設置が鍵
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被害想定とリスク管理の棚卸が地域でも始まっている
酸欠被害の発生と対処までの流れ
① 大雨で水路の水口にゴミが詰まる
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② 給水が止まり池の水位が低下
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③ 酸素濃度が急激に低下
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④ 魚が酸欠状態に陥る
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⑤ 復旧作業も間に合わず、大量死が発生
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⑥ 水路管理強化・センサー導入など再発防止対策が始動
池に水を引くための水路が詰まり、水の流れが止まった――それは突然のことで、夜の間には誰も気づけなかった。出荷を控えた魚が静かに力尽きていく様子に、何を優先すべきだったのかと、考える余地が残されていた。日々の作業が続く中で、どこかで変化の兆しを見落としていたのかもしれないという判断が、今も残っていた。
養魚の現場を揺るがす水の不確かさ
水路に依存する養殖の方法は、自然の変化に脆弱なまま継続されてきた。特に一元的に水を引く仕組みでは、詰まりが起きた瞬間に複数の池が同時に影響を受ける。この構造は、急な雨や夜間の変化に対して余地が残されていなかった。今回の出来事は、作業の習慣と供給手順が長年見直されてこなかったことへの警鐘でもあった。水路が詰まっただけで450万円分の命が絶えるなら、今求められているのは魚ではなくしくみの見直しという判断だった。
❓FAQ
Q1:魚が死んだ原因は何ですか?
A1:給水口に落ち葉や泥が詰まり、池に水が流れ込まず酸素が不足したためです。
Q2:死んだ魚の種類や量はどれくらいですか?
A2:ニジマスとイワナあわせて約2トン、約1000匹が死亡しました。
Q3:この養魚場では過去にも同様の被害がありましたか?
A3:55年間で一度だけ、今回と同じように水路が塞がり全滅した経験があるとされています。
Q4:今後の対策は何が検討されていますか?
A4:水路清掃の強化、センサー導入、池ごとの水系分離などが挙げられています。
Q5:同様の事故は他の地域でも起きていますか?
A5:2018年の西日本豪雨や2023年の富山湾などでも、水質変化や酸欠による大量死の事例が報告されています。