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子どもたちの学びを支える力として、「SEL(社会性と情動の学び)」が注目されている。学力だけでは測れない、感情や関係性を育てるこの手法は、世界各国の学校で導入が進み、日本でも変化の兆しが広がってきている。
要約表
SELとは何か?なぜ世界で広がるのか
SELの定義と5つの力
SEL(Social Emotional Learning)は、子どもたちの感情や人間関係を育てる教育的なアプローチであり、以下の5つの資質・能力を段階的に育てていく。
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自己認識力(気持ちに気づく力)
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自己管理力(感情を扱う力)
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社会認識力(他者への共感力)
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関係づくり力(信頼関係の構築)
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意思決定力(自分で判断する力)
知識よりも先に“心の土台”を整えることが、学びの持続性を支えている。
アメリカ・日本での導入経緯
アメリカでは1990年代からSELの実践が始まり、2015年にはシカゴ市内のすべての公立学校で正式導入されるまでに至った。CASELという教育団体がその推進役を担っている。
日本でも1990年代から研究は始まっていたが、本格的な注目は近年に入ってから。教育改革の文脈で、非認知能力の育成が必要とされる中、2022年の「生徒指導提要」にSELが明記されたことで、実践の裾野が広がりつつある。
🔸教育の変化とSELの必要性
かつて日本の教育は、知識や技能の習得が重視されてきた。しかし、不登校やいじめの問題が深刻化し、単なる学力では対応できない場面が増えたことで、SELのような“感情”と“関係性”に注目が集まるようになった。
教員や保護者が「子どもたちが人とどう関わるか」「どう自分の思いを言語化できるか」に目を向けはじめた背景には、社会の分断や孤立の進行も影響している。
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感情のコントロールや共感の力が、教室の安定を支える
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探究学習やグループ活動の基盤となる非認知能力が求められている
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教員自身が内省する文化づくりがSEL導入の第一歩となっている
📊SEL導入前後のちがい
項目 | 導入前の状態 | SEL導入後の変化 |
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学びへの姿勢 | 指示待ち・無関心が目立つ | 自分の意見を持ち、発言し始める |
教室の雰囲気 | 対立・無関心・孤立 | 協力・共感・安心感が共有される |
不登校・出席率 | 登校しぶりや突然の不登校が多発 | 登校復帰・継続登校のきっかけが見られる |
教員の働き方 | 精神的負荷が大きく孤立感もある | 相談や共感の文化が根づき負担が分散される |
どのような実践が現場で行われているか?
授業・部活動・研修の連動実例
SELは特別な時間ではなく、日常の教育活動に組み込まれて実践されている。授業では「感情カード」や「気持ちのラベル付け」などが行われ、子どもが自分の状態に気づき、言葉にするきっかけを持つ。
また、部活動や朝の会、学級活動でも「よかったこと・困ったこと」を共有する時間が取られ、感情や関係性の変化を見つめ直す機会が設けられている。教員も年数回の研修を受け、関係性やフィードバックの方法を学んでいる。
SELがもたらした変化
導入された学校では、「子ども同士の衝突が減った」「保護者とのやり取りが活発になった」などの変化が語られている。
ある地域の小学校では、以前10人以上いた不登校児が半年以内に全員登校するようになったという報告があり、別の学校では教員の精神疾患による休職がゼロに抑えられたという声もある(※関係者談。統計的裏付けは調査中)。
このような変化は、単にSELだけの効果ではなく、「話してもいい」「失敗しても大丈夫」という土台を丁寧に築く文化が関与している。
🔸見えづらい変化に目を向ける
教室でのSELは、劇的な成果がすぐに見えるわけではない。だが、「怒って席を立っていた子が、ある日ふと『自分でイライラしてたかも』と口にするようになった」「保護者が『家庭でもこんなこと話してました』と伝えてくれるようになった」など、積み重ねの中で確かな変化が育っている。
こうした気づきは、数字で測れるものではなく、観察と対話によって初めて浮かび上がる。SELの本質は、こうした“人との関係を丁寧に育てる行為そのもの”にある。
SEL実践による主な変化 | 概要(事例) |
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不登校の改善 | 自己表現や対話の機会が増え、登校意欲が回復 |
教室の雰囲気の変化 | 安心感や協力が育ち、学級の一体感が増した |
教員の負担軽減 | 感情の共有や職員間の対話が促進され、孤立感が減少 |
保護者の関与 | 家庭でも感情について話す機会が増え、教育連携が強化 |
🔁 SEL導入の実践
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教員研修の実施
└ 教員自身が自己認識・共感を体験する場を設ける
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授業設計の見直し
└ 感情に気づくワークや協働的対話を組み込む
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日常の活動と接続
└ 朝の会/行事/委員会活動などにSEL的観点を導入
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子どもの反応を観察・記録
└ ウェルビーイング指標・感情変化の観察記録を活用
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保護者・地域との連携
└ 活動共有や対話の場をつくることで理解と支援を拡大
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成果共有・改善・再設計
└ 学校全体での振り返りと次年度への反映
カードに丸をつけて渡すだけで少し落ち着く。それが何度か続くうちに、言葉にならなかった思いが少しずつ形になっていく。
子どもたちは、教えられたことよりも、そばにいる大人がどう向き合うかをよく見ている。SELは、誰かの傷を癒すものではなく、誰かと一緒に許す時間なのかもしれない。
これからの教育に求められる“心のまなび”
SELは、「教えること」より「ともに感じること」に重きを置いた学び方である。だからこそ、すぐに成果が見えないこともある。だが、静かに根づいた感情の言葉や関係のひもは、後になって確かな支えとなっていく。
効率や成果を重視する流れの中で、こうした時間は無駄と切り捨てられがちだ。だが、学びに向かう意欲も、仲間と語り合う楽しさも、その手前にある“心の余白”があってこそ生まれてくる。
いま、教室に求められているのは、静かに子どもを支える時間の積み重ねではないだろうか。
【FAQ】
Q1. SELはすべての学校で導入されているのですか?
→ 全国的な必須ではなく、自治体や学校ごとの判断で導入が進んでいます。
Q2. 家庭でSEL的な学びは取り入れられますか?
→ 子どもの気持ちを言葉にする習慣や、一緒に感情を整理する時間を持つことで可能です。
Q3. SELは学力にも影響するのですか?
→ 感情の安定が集中力や意欲に繋がり、学力向上の土台になるという報告もあります(効果は地域により差あり)。
Q4. 教員側にはどんな研修がありますか?
→ 感情理解の技法、リフレクションの方法などを扱う対話中心の研修が多く導入されています。
Q5. 導入の課題は何ですか?
→ 時間確保と評価方法の整備が課題とされており、形骸化を防ぐ工夫が必要です。
📋まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
SELの概要 | 感情と人間関係の力を育てる学び方 |
教育効果 | 不登校改善/関係性の修復/学びの意欲向上などが見られる |
実施内容 | 授業・行事・対話・保護者連携・教員研修の連動 |
今後の焦点 | 導入の継続性と、学校文化として根づける取り組みが求められる |