小田原短大の通信課程で、教材と設問が一致する単位認定試験を内部告発した男性教員が、系列専門学校から契約終了処分を受けた。男性は「公益通報だったのに解雇された」として、地位保全と賃金支払いを求め札幌地裁に仮処分を申立てた。教育現場で何が起きていたのか、背景をたどる。
模範解答を写す
試験を通報
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幼稚園教諭免許取得に必要な試験問題が、教材の模範解答と一言一句同じであることが明らかになった。この問題を内部告発した男性教員が、系列の専門学校から契約を打ち切られたことが分かり、現在、札幌地裁で争われている。
要約表
見出し | 内容要点 |
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概要 | 通信課程の試験問題が教材の模範解答と完全一致していた |
告発 | 男性教員が内部通報し、構造的な問題を指摘した |
解雇 | 告発後、専門学校から契約が打ち切られた |
主張 | 男性側は「報復的な扱い」として仮処分を申立てた |
模範解答一致と通報の経緯とは
試験設問と教材の一致が常態化していた状況
通信課程では2020年度以降、教材に掲載された例題が試験の設問として出題されており、さらにその教材には模範解答が巻末に記載されていた。加えて、学生はその教材を試験時に持ち込むことが認められていた。これにより、書き写しが容易な状態が続いていた。
この課程には、短大だけでなく系列の専門学校14校の学生も共通で在籍していたとされる。試験形式や使用教材が共有されていたことから、全体として同様の対応が行われていた可能性がある。
内部通報とそれに続いた処分通知の流れ
今年2月、男性教員が問題を外部に通報し、それが報道機関に取り上げられたことで問題が広く知られることとなった。通報後しばらくして、勤務先の専門学校から「内部資料の扱いに問題があった」とする通知が届き、5月31日付で契約が終了となった。
男性はその後、「公益性のある内容を通報したことで不利益を受けた」として、教員としての地位の維持と給与の支払いを求め、札幌地裁に仮処分を申し立てた。
通報と処分の関係に残る疑問点
男性教員が記者会見で語った内容によれば、「子どもたちの安全にかかわる問題だった」として、今回の通報には教育上の正当性があるとする立場を取っている。一方で、系列校を運営する法人側は「更新基準による判断だった」として、通報との関連を否定している。
しかし、解雇通告が報道後すぐに行われた点や、これまでの勤務実績に関する具体的な説明が一切示されていない点など、処分の理由が曖昧なままであることが争点となっている。
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通報から解雇までの時間差がごく短期間だった
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「秘密の資料流出」という表現の範囲が不明確
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教員としての評価項目が非公開のままとなっている
本件と類似事例の扱い差
比較項目 | 今回の短大・専門学校事例 | 類似する大学教員通報事例 |
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通報の対象 | 試験と教材の解答一致・持込許可 | 成績評価の改ざん疑惑 |
機関の初期対応 | 解雇通知・通報との関係を否定 | 通報受理後に外部調査委員会を設置 |
教員の扱い | 契約終了(懲戒処分) | 教員職に留まり内部保護措置を適用 |
公益性の扱い | 判断軸が明示されていない | 「教育への影響」として通報保護対象とされた |
通報後の影響と反応はどう広がったか
学生や保護者への波及と教育信頼の揺らぎ
報道を通じて問題が明るみに出たのち、試験に関わる教材や評価の信頼性に対し疑問の声が上がっている。特に免許取得に直結する単位で不適切な扱いがあったことは、制度的な基盤ではなく“教職への信頼”に影響を与えていた。
保護者や現場の保育関係者の間でも、「形式的な評価だけで免許が与えられていたのではないか」といった懸念が広がっており、今後の対応に注目が集まっている。
通報後の処遇と今後の判断軸
教員側の訴えによって、今回の解雇の扱いが社会的に問われる状況になった。運営側が掲げる「判断基準に基づく契約更新」の説明に対し、外部からは「因果関係が不透明」とする指摘が相次いでいる。
今回の対応が、今後の内部告発を抑制する方向に働くか、あるいは教員の表現行動を守る動きに変わるか。現時点では判断が分かれており、司法判断に関心が寄せられている。
記者会見で男性教員は「命を守る教育を目指していた」と語り、子どもたちが受けるはずだった“正当な評価”が軽視された点を重く受け止めていた。通報には明確な公益的動機があったとして、世間からの理解を求めている。
一方、教育機関側は「外部への連絡が不適切だった」とする姿勢を保っており、通報者への処遇のあり方について統一的な見解は出ていない。内部での再発防止策や第三者調査の設置といった対応も今のところ示されていない。
観点 | 内容 |
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教材 | 模範解答が巻末に掲載され、持ち込み可能だった |
試験 | 設問が教材と一言一句一致していた |
通報 | 男性教員が公益性を理由に内部告発した |
解雇 | 学園側は「資料流出」を理由に契約を打ち切った |
男性が黙っていなかったのは、教育が命を守る仕事だと知っていたからだ。
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試験設問が模範解答と一致
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教材の持ち込みが許可されていた
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書き写し行為が常態化
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男性教員が内部通報
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報道機関が問題を公表
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教員が解雇通知を受けた
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仮処分を地裁に申し立て
告発行動は守られるべきものなのか
公益を理由に通報した人物が、処分される形で教育の現場を去る──。それが今回の問題の核心だ。
“黙っていれば守られたもの”と、“語れば消える職場”の間で、教育に携わる者は何を選ぶのか。
通報の是非ではなく、その動機に踏み込む構造が、まだ社会には足りていなかった。
FAQ
Q1. 教材の持ち込みは当初から認められていた?
→ 2020年度以降、模範解答付き教材の持ち込みが可能だった。
Q2. なぜ設問と模範解答が同じだったの?
→ 教材の例題と試験問題が完全一致していたため。
Q3. 教員はなぜ通報したの?
→ 教育上の不正が見過ごせなかったと判断したから。
Q4. 解雇は通報と関係あるの?
→ 学園側は否定しているが、時系列に近接性がある。
Q5. 今後、同様の通報は保護される?
→ 現時点では統一的な見解がなく、判断は分かれている。
まとめ
観点 | 内容要点 |
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試験内容 | 設問と教材が完全一致していた |
教材持込 | 巻末の模範解答も使用可能だった |
教員の動き | 内部通報を行い、報道につながった |
処分対応 | 契約終了後、仮処分を申立てた |
→ 今後、通報行為と雇用の関係がどのように扱われるかが注視されている。