福岡県飯塚市の大内田産業が、LPガス容器の法定耐圧検査を実施しないまま「合格」として電子帳簿を改ざんし、約8万5000本の容器が九州各地の家庭や事業所に流通していたことが明らかになりました。検査制度の監査体制が不在だった事実も浮上し、現在は全容器の回収と再検査が進められています。
LPガス容器
未検査で流通
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約8万5000本のLPガス容器が未検査だった。
要約表
改ざんは電子帳簿で行われていた
福岡県飯塚市の大内田産業において、LPガス容器の耐圧検査を実施せず、電子記録上のみで「合格」として処理していたことが判明していた。県に寄せられた通報をきっかけに、警察との合同立入調査が行われ、帳簿の改ざんが明るみに出ていた。
高圧ガス保安法では、LPガス容器の耐圧検査を5年に1回、検査所にて実施することが義務付けられているが、今回の事案では一部ではなく全体的に検査が省略されていた。県は制度上最も重い違反行為とみなして対応していた。
未検査の容器は約8万5000本に上り、すでに福岡県・佐賀県・熊本県・大分県・長崎県の家庭や事業所に納入されていた。使用者が容器の状態を視認できる構造にはなく、外観からは検査未了を判断できなかった。
通報と立入検査で判明していた事実
大内田産業に対する初動は、内部関係者と思われる人物からの通報で始まっていた。福岡県はこの通報を受けて、警察とともに検査所への立入を実施。帳簿の改ざん履歴と、検査実施記録の欠落が確認されていた。
立入調査では、耐圧試験に必要な作業工程が一切実施されていなかった容器が多数存在していた。検査実施日時が記載されていた電子帳簿についても、同一日時・同一担当者による不自然な連番処理が行われていたとされていた。
検査制度と改ざんの手法が明らかになっていた
LPガス容器の耐圧試験は、一定の水圧を容器内に加え、漏れや変形の有無を確認する工程を含んでいる。今回の不正ではこの工程が省略され、記録上のみで「異常なし」と処理されていた。
改ざんは手書きではなく、専用端末から入力される電子帳簿において行われていた。実際に試験を担当していない人物名義が記録されていた例や、業務日報との突合で矛盾が確認されていた例も報告されていた。
検査制度の地域別体制比較
比較項目 | 福岡県 | 他県(佐賀・大分等) |
---|---|---|
検査頻度 | 5年に1回(法定) | 同上 |
検査所の登録制限 | 民間登録あり(大内田産業含む) | 公的検査所中心 |
帳簿形式 | 電子帳簿併用 | 紙帳簿が中心 |
指導・監査体制 | 通報ベース/定期監査なし | 年1回の行政立入調査あり |
比較の結果、福岡県内では民間検査所に対する直接監査が行われていなかった実態が確認された。他県では、行政による定期立入が制度化されている例もあった。
使用者と制度全体への影響が広がっていた
対象となったLPガス容器の多くは、すでに家庭や業務用の現場で日常的に使用されていた。外観から不正を見抜く手段がないこともあり、利用者は不正品と知らずに接触していた可能性が高い。
加えて、今回の改ざんが発覚するまでの期間において、制度上の点検義務が形骸化していた点も浮かび上がっていた。記録のみが整っていれば実物の確認が省略されるという状況が制度的に許容されていたためである。
この事件を受け、福岡県は回収と再検査の徹底を進めているが、未使用容器・不在容器への対応指針が定まっておらず、現場対応の混乱は当面続くとみられていた。
なぜ利用者は気づけなかったのか
LPガス容器の多くは、充填・配送・使用の工程において外観確認が中心となっていた。検査済みシールや記録ラベルも表面に貼付されるのみであり、その裏付けとしての耐圧試験実施有無までは、一般利用者が把握できる仕組みにはなっていなかった。
また、販売店も帳簿上「合格」表記された容器を信頼して流通させており、現場単位での再検査や試験履歴の再確認が求められる場面は制度上ほとんど存在していなかった。このことが、不正の長期化を許す要因となっていたと記録されていた。
🟦LPガス容器の耐圧検査不正が判明
① 通報と内部告発の受付(2025年春)
県に対して「一部容器の耐圧試験が実施されていない」との通報が寄せられていた。
↓
② 合同調査による帳簿改ざんの確認(2025年6月)
警察と福岡県が立入調査を実施し、電子帳簿の「合格」記録が改ざんされていた事実を確認していた。
↓
③ 回収・再検査の全県指示(2025年7月)
未検査容器の一斉回収と、LPガス協会との連携による再検査が進められていた。
FAQ
Q:不正があったのはどの会社?
A:福岡県飯塚市の大内田産業だった。
Q:何本のLPガス容器が対象?
A:約8万5000本の容器で検査が省略されていた。
Q:耐圧検査は本来どう行われる?
A:専用の圧力機器で内部に水圧をかけ、漏れや変形を確認する方式が採用されている。
Q:流通先はどこまで広がっていた?
A:福岡・佐賀・熊本・大分・長崎の家庭や事業所に納入されていた。
Q:行政の対応は?
A:福岡県とLPガス協会が連携し、容器の回収と再検査を進めていた。
検査所制度の盲点が浮かび上がっていた
電子帳簿上で耐圧試験の「合格」処理が完了していたことで、外部からの検知が極めて困難な状況が続いていた。検査制度は存在していたが、実施の実態と記録が一致しているかを外部機関が随時確認する仕組みは用意されていなかった。
制度上、民間の検査所であっても法定業務を委託される構造が維持されていた。大内田産業が検査所として登録され続けていた間、実地監査やサンプル検査といった現場確認の工程が抜け落ちていたことも確認されていた。
改ざんの発覚が通報頼みであった点も含め、制度が「書類とデータ」に依存していた体質が露呈していた。現時点では再発防止策の具体化には至っておらず、制度の実効性を担保する監査体制の再設計が求められていた。