川崎市は2025年7月、20年以上にわたって中原区のマンション住民から誤って下水道使用料を徴収していたと発表しました。浄化槽が設置されていたにもかかわらず、制度上不要な料金が継続して課されており、最高で154万円の返金対象も含まれていました。返還対象者は80人で、登録時と統合時の見直しが行われていなかったとされています。
川崎市で下水道料金誤徴収
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
川崎市は、市中原区にある賃貸マンションで、20年以上にわたって誤った下水道使用料を徴収していたと発表した。対象は延べ138人に上り、このうち返還可能な80人には、総額435万597円を返金するとしている。誤徴収の最高額は法人で154万円超に達しており、制度上の確認不備が長年見過ごされていた形だ。
誤徴収の発覚と制度的ミスの経緯
川崎市上下水道局は、2025年7月2日に行った発表で、中原区の特定賃貸マンションにおいて、20年以上にわたり下水道使用料を不適切に徴収していたと明らかにした。発覚のきっかけは、内部資料の確認中に、下水道区域外の施設から継続的に料金が徴収されていたことが判明したことだった。
2004年に建設されたこのマンションには、公共下水道ではなく浄化槽が設置されていた。制度上、本来であれば下水道使用料は発生しない構造だったが、当時の建設局が徴収登録を行う際、誤って対象物件として入力していたという。
さらに2010年の組織再編により、水道局と建設局下水道部が統合され「上下水道局」が発足した際にも、過去の登録情報の確認が行われていなかった。この組織的な見落としが、制度上の誤徴収を長期化させる要因となっていた。
組織統合時に確認されなかった登録情報
誤徴収の原因とされる登録ミスは、2004年当時の建設局によるものだった。徴収業務は水道局に委託されていたが、マンションの下水道使用区分が「合流式」として誤って入力されていたと見られている。
その後2010年、建設局下水道部と水道局が統合され、上下水道局として新設されたが、登録情報の再確認や現場設備との照合は実施されなかった。制度設計の上では分流式や浄化槽の設置状況に応じて料金の有無が決定されるが、この点が引き継ぎ時にチェックされなかったことが問題視されている。
登録時の制度整合とその逸脱
当初の登録手続きでは、浄化槽の有無を確認する項目が設けられていたが、対象マンションについては「下水道使用区域」として自動登録されていた記録が残っていた。
また、徴収業務を担った水道局側でも、浄化槽設置地域であることを把握していなかったことが後の調査で明らかになっている。
組織間の引き継ぎ文書にも設備区分の明示は含まれておらず、再確認手続きが実施されないまま20年が経過していた。制度的には整合を欠く状態だったが、請求は続けられていた。
法人と居住者で異なった返金額の実態
区分 | 返金対象者数 | 最高額 | 年間平均額 |
---|---|---|---|
法人(店舗経営) | 1社 | 1,542,846円 | 約77,000円 |
一般居住者 | 約79人 | ~40,000円前後 | 約9,000円 |
返金対象のうち、法人利用者では年間数万円に上る過徴収が継続していた一方、一般住民の平均は年間9千円前後とされていた。
徴収方法は使用水量に応じた従量課金方式であり、商業利用者との料金格差が明確に現れていた。
返還対応と制度的限界への直面
川崎市上下水道局は、誤徴収があった中原区のマンション住民のうち、時効が成立していない直近10年分の契約者80人に対し、下水道使用料を返還する方針を明らかにした。返還総額は435万597円に上り、すでに契約終了している住民や、転居者にも連絡を行うとしている。
ただし、20年近くにわたり誤徴収が行われていたにもかかわらず、10年を超える分については民法の時効が適用され、返金は行われない。これにより、58人の元契約者に対しては補償が及ばない可能性が高いとされている。
上下水道局は再発防止策として、今後は浄化槽設置区域や設備区分を毎年照合するチェック体制を導入すると説明している。しかし、これまでの経緯から「見逃しやすい制度の構造的問題」が指摘されており、体制の整備が進んだとしても、すぐに信頼が回復する状況には至っていない。
時効による返金制限と市民の受け止め
誤徴収に気付くまでの長期的な時間経過により、制度上の返金範囲には制限が生じていた。関係者の説明によれば、過去10年分を超える料金は「法的には返金対象外」とされ、制度上の対応範囲を逸脱できなかったという。
この対応について、住民の中には納得できないという声も出ていた。制度ミスによる徴収であったにもかかわらず、法的な救済が限定されている現実が、行政への信頼を揺るがせる要因となっていた。
市側は「個別対応を丁寧に行うことで、一定の理解を得られるよう努める」としているが、制度設計の根幹が問われる状況にあることは否定できなかった。
誤徴収の根底にあった制度整合の不在
この誤徴収の問題には、部局間の業務移行時に制度整合を確認する工程が設けられていなかったことが背景としてあった。建設局から水道局への業務委託、さらには2010年の上下水道局への統合といった複数の移行過程を経ていたにもかかわらず、初期登録の誤りが見直される機会は一度も設けられていなかった。
また、制度上は浄化槽区域での徴収は不要と明記されていたが、徴収システム上では誤区分のまま請求が継続していた。このような構造的盲点は、単なるミスではなく、運用工程そのものに整合が欠けていた結果といえる。
図解:制度誤登録から返還対応までの流れ
川崎市の下水道誤徴収問題は、以下のような3段階で構成されていた。
① 初期登録の誤り(2004年)
建設局が浄化槽設置区域にもかかわらず、下水道使用区域として誤登録していた。
↓
② 組織統合後の確認漏れ(2010年)
上下水道局への統合時に、登録区分の再確認が実施されていなかった。
↓
③ 誤徴収発覚と返還処理開始(2025年)
内部調査で長年の誤徴収が判明し、80人に対する返還処理が進められている。
よくある5つの疑問
Q1. どうして20年以上も誤徴収が続いていたのですか?
当初の登録誤りが組織的に見逃され、設備の現地確認が行われなかったためと説明されています。
Q2. 下水道使用料はどのように計算されていたのですか?
水道使用量に応じた従量課金方式が採用されており、実際の排水方法とは無関係に請求されていました。
Q3. なぜ10年を超える分は返金されないのですか?
民法上の消滅時効が適用され、10年を過ぎた債権は返還義務が消滅するためです。
Q4. 法人の返金額が高額なのはなぜですか?
商業利用による使用水量の多さが影響し、1件あたりの請求額が高くなっていたと見られています。
Q5. 今後このようなミスを防ぐ手段はありますか?
市は毎年設備区分と徴収情報を照合するシステムを導入し、チェック体制を強化するとしています。
記録から読み取れる全体の要点
観点 | 内容 |
---|---|
対象 | 中原区の賃貸マンション138人 |
原因 | 2004年の登録誤り+2010年以降の確認漏れ |
発覚 | 2025年、内部調査で明らかに |
返還範囲 | 10年以内の契約者80人(約435万円) |
制度運用の盲点が長期的被害を引き起こしていた
今回の誤徴収事案は、制度に基づく運用であっても確認工程が欠落すれば、市民に対する経済的損失が発生し得ることを示している。行政は制度通りに運用していたと説明するが、実際には「対象ではない人から金銭を徴収していた」という事実が残った。
特に、設備区分の入力や変更時の再確認が存在しなかった点は、制度運用上の重大な空白であり、チェック機構の不在が問題の本質であった。法的に返還できないとされる過去の誤徴収に対し、どこまで責任を取るべきかが今後の行政姿勢に問われていくことになる。