ウェア大手のルルレモン・アスレティカが、コストコの自社ブランド「カークランド」が模倣品を販売しているとして、米連邦地裁に訴訟を提起。訴状では、商品デザインの類似により消費者の誤認とブランド価値の損傷が生じていると主張し、損害賠償と販売差し止めを求めている。今後の判決が企業のPB戦略にも影響を与える可能性があるとして注目が集まっている。
ルルレモンがコストコ提訴
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ルルレモン・アスレティカが、米小売大手コストコ・ホールセールを提訴した。
訴えの内容は、ルルレモンのヨガウェアに酷似した商品をコストコが自社ブランドから販売しているというもの。
ブランド保護をめぐる訴訟の行方が、業界に波紋を広げている。
項目 | 内容 |
---|---|
提訴元 | ルルレモン・アスレティカ(カナダ) |
被告企業 | コストコ・ホールセール(米国) |
訴訟提起日 | 2025年6月下旬(カリフォルニア州連邦地裁) |
主張内容 | 商標権侵害・不正競争行為(商品類似による誤認) |
製品対象 | パーカー・レギンスなど(「カークランド」ブランド) |
請求内容 | 損害賠償/販売差し止め |
請求額 | 未公表(2025年7月現在) |
訴訟の経緯と主張の焦点
ルルレモン・アスレティカは2025年6月、米カリフォルニア州の連邦地方裁判所において、コストコ・ホールセールを提訴した。
この訴訟は、コストコが展開する自社ブランド「カークランド」から、ルルレモンの製品と酷似したヨガウェアが販売されていたとするもので、原告側は商標権の侵害および不正競争行為を主張している。
訴状によれば、問題とされたのは主にパーカーやレギンスといった商品群で、いずれもロゴやデザインがルルレモン製品に類似していたと記録されていた。
ルルレモン側は、これらの販売が消費者の誤認を招き、自社ブランドの評判を著しく損なう可能性があるとし、損害賠償および販売の差し止めを請求している。
被告であるコストコ側は、提訴時点において本件に関する公式コメントを出していない。
ただし同社の「カークランド」ブランドは、過去にも他企業との間で類似性を巡る論争が生じていた事例があり、今後の対応に注目が集まっている。
ブランド保護と訴訟の構図
ルルレモンは1998年の創業以来、ヨガウェア市場における先駆者的な存在として知られており、独自の素材開発や体型別設計といったイノベーションを積み重ねてきた。
特に商標やロゴに対するブランド認知戦略は、消費者との信頼構築に直結していたとされている。
一方、コストコの「カークランド」製品は低価格帯を中心とした展開で知られており、高品質とコストパフォーマンスの両立を打ち出してきた。
この2ブランドの接点が訴訟として表面化した背景には、価格帯の違いとブランド価値の捉え方に大きなギャップが存在していたことが示唆されていた。
PB商品と“模倣”の境界
カークランド製品に関する問題は、過去にも他社との類似性を巡って議論が交わされていた経緯があった。
報道記録には「高級ブランドに似た意匠の商品が並ぶことで、購買行動が左右された」という指摘が繰り返されていた。
また、法的には意匠や配色が著しく似通っていたとしても、「消費者が誤認したかどうか」が争点となることが多く、明確な線引きが難しいとされている。
ルルレモン側もこの点を踏まえたうえで、「明確なブランド認知の混乱が起きた」と主張している。
ルルレモンとカークランドのブランド構成
比較項目 | ルルレモン | カークランド(コストコ) |
---|---|---|
ブランド起源 | 1998年設立(カナダ) | 自社PB(1995年~) |
製品戦略 | ヨガ特化・高価格帯 | 多用途展開・低価格 |
素材・機能 | 吸湿速乾・体型別設計 | 標準素材・大量供給 |
ブランドロゴ | 丸囲いの“a”型記号 | 波型デザインと白文字 |
販売チャネル | 直営+EC | 会員制倉庫型店舗 |
この比較から見えるのは、両者が立脚している価格戦略とブランド哲学の違いである。
ルルレモンは「専門性と信頼」、カークランドは「価格と数量」の構造を軸に展開しており、訴訟の核心もそこに含まれていた。
企業間訴訟の波紋と今後の展望
ルルレモンによる今回の訴訟は、単なる商品類似の指摘を超えて、ブランド価値の防衛戦略そのものに踏み込んだものと位置づけられている。
提訴対象となったコストコのカークランド製品は、国内外で高い流通力を持ち、幅広い購買層にアプローチしてきた。
こうした中で、ルルレモンが商標侵害を理由に連邦地裁に訴えを起こした背景には、業界全体に対する警告的意味合いも含まれていたとされている。
ヨガウェアという専門市場において、機能性や素材だけでなく、視覚的ブランド構造そのものが「競争の根拠」となる傾向は今後さらに強まっていくと予想される。
また、請求金額が非公開とされたことからも、経済的損失よりも市場秩序の是正を優先した戦略訴訟である側面が浮かび上がっていた。
広報戦略の交錯と「偶然の一致」問題
興味深いのは、訴訟と時を同じくして、ルルレモンが新たなグローバル・アンバサダーに日本人アーティスト(LE SSERAFIMのカズハ)を起用したことである。
一部のSNS上では「訴訟とPR戦略を並走させたブランド強化策ではないか」との見方も浮上していた。
ただし企業広報におけるスケジュール調整は数か月単位で動いており、今回のアンバサダー発表が訴訟に合わせたものかどうかは不明である。
しかし結果的に、両者の動きが重なったことで、ルルレモンのブランド主張がより広く認知される契機となったことは否定できない。
消費者の信頼を揺るがす「類似」の感覚
訴状で焦点となったのは、「消費者が誤って購入してしまうような類似性」だった。
この“誤認可能性”の判断基準は、単なるデザインだけでなく、ブランドイメージや価格帯との一致にも左右される。
高級志向のブランドが築いた認知の輪郭に、低価格帯の類似商品が入り込む構図は、結果的に「買ってみたら別物だった」という体験を生む。
たとえ明示的なロゴが異なっていても、そうした落差が「騙された」と感じさせる起点となることもあり、信頼の連鎖はそこから途切れてしまう。
企業が一度失った“らしさ”は、再び築き上げるのに時間とコストを要する。
その意味で今回の訴訟は、商品開発の競争ではなく、信頼の輪郭を守るための対抗措置と捉えるべきかもしれない。