川崎市の麻生総合病院で勤務していた看護師の女が、死亡した入院患者のクレジットカード情報を不正に使用していた疑いで逮捕された。通販サイトでの買い物やアイドルグッズの購入など、約200万円分を私的に利用していたとされ、病院側は情報管理体制の見直しを進めている。個人情報保護の盲点と再発防止策が問われている。
死亡患者のカード不正使用
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死亡した入院患者のクレジットカード情報を悪用し、アイドルグッズなどを不正購入していたとして、麻生総合病院(川崎市)に勤務する看護師の女が警視庁に逮捕された。容疑は私電磁的記録不正作出・同供用および窃盗。患者の死後も不正利用を続けていたことから、遺族が不審に思い発覚した。動機には「借金」と「趣味への出費」があったとされる。
死亡患者のカードを盗用し、私的な買い物に使っていた経緯
2025年7月2日、警視庁野方署は、川崎市内の麻生総合病院に勤務する看護師の女(24)を私電磁的記録不正作出・同供用および窃盗の疑いで逮捕していた。
調べによると、看護師は勤務中の2023年10月ごろ、80代の男性患者の病室でクレジットカードを無断で撮影。その後、通販サイトにカード情報を入力し、アイドルグッズや料理宅配サービスの購入などに不正使用していたという。
容疑の一部には、2025年2月9日に患者名義のカードで1570円のステッカーセットを購入した事例が含まれていた。遺族が、患者の死亡後にもカードが使われ続けていたことを不審に思い、同署に相談したことで事件が発覚した。
複数の患者情報を不正取得か、捜査は拡大中
看護師は取り調べに対し「借金があり生活に困っていた。グッズがほしかった」と動機を認めたという。これまでの調べでは、少なくとも200万円相当の不正決済が確認されており、購入した商品はいずれも私的使用目的だったとみられている。
また、本人は「他の患者数人のカード情報も撮影していた」とも供述しており、警察は余罪の可能性も視野に入れて捜査を続けている。病院は当該看護師を懲戒解雇し、患者や家族に謝罪したと発表した。
カード情報管理体制と医療機関の内部対策の遅れ
事件を受けて、医療機関における個人情報の管理体制に対する不信感が広がっている。病室内に財布や貴重品を保管する際の対応が施設ごとにばらついている現状があり、患者が不在の時間帯に職員が私物へアクセスできる状態にあったことが問題視されている。
麻生総合病院は、今後すべての職員に対する情報管理研修を実施するとし、貴重品の預かり方法や鍵付き保管の運用見直しを進めていると説明した。
看護師による個人情報不正利用事件の比較表
病院側の対応と、再発防止に向けた取り組み
事件後、病院は対象患者の遺族に謝罪し、院内の個人情報保護体制を全面的に見直す方針を示した。病棟内でのカード保管ルールや職員の立ち入り権限を再検討し、患者や家族への説明内容も文書で整備する方針だという。
一方で、外部の第三者委員会を立ち上げる予定は今のところなく、病院内での調査結果をもって対応を終える可能性も示唆されている。再発防止研修は全職員を対象に7月中旬から順次実施される予定とされている。
医療現場での「無意識な油断」が生むセキュリティの隙
今回のような事案では、特別なハッキングや技術的手口が用いられたわけではなかった。鍵のかかっていない引き出しにカードがそのまま保管され、看護師が私物のスマホで撮影するまで誰にも制限されていなかったという点が、結果的に被害の出発点となっていた。
また、死亡後もカードが使われたことに対し、病院が利用停止処理を遺族に依頼するなどの明確なフローを用意していなかった点も、早期発見の遅れにつながっていた。
病院内での「個人情報管理」の現実的な限界
今回の構造では、加害者が医療従事者であり、通常は信頼関係が前提となる職種であったことが被害の深刻さを際立たせていた。医療現場において、患者の金銭やカードなどの私物をどのように保管し、どの職種までがアクセス可能かという点は施設ごとに曖昧なままであることが多い。
また、死亡後の手続きやカード会社への通知義務も、遺族任せにされていた構図が見られていた。個人情報保護という観点だけでなく、「死後の情報処理」に関する明確な役割分担も課題として浮かび上がっていた。
犯行の流れを整理したフローチャート
【1】
患者が病室を不在中
↓
看護師が引き出し内のカードをスマホで撮影(2024年10月)
【2】
通販サイトでカード情報を使用
↓
アイドルグッズ・料理宅配などを繰り返し注文
↓
患者が11月に死亡後も不正利用が続行
【3】
遺族がカード明細を確認
↓
死亡後の使用に不審を抱き警察へ相談
↓
警視庁が捜査を開始し、看護師を逮捕(2025年7月2日)
❓FAQ よくある5つの疑問
Q1. カードの不正利用がなぜ死亡後まで続いたのか?
A1. 病院側がカード利用停止の手続きに関与せず、遺族も使用明細を見るまで気づかなかったためとされている。
Q2. 看護師は他にも被害者がいたのか?
A2. 本人は複数の患者のカード情報を撮影していたと供述しており、警視庁が余罪の有無を調べている。
Q3. 病院に刑事責任は問われないのか?
A3. 現時点で法人としての刑事責任は問われていないが、管理体制の不備は行政指導の対象になる可能性がある。
Q4. 同様の事件は他にもあるのか?
A4. 比較表にもある通り、医療職員による不正利用事件は全国で複数例報告されている。
Q5. 遺族が損害を補填してもらう手段はあるか?
A5. カード会社の補償制度を通じて返金されたケースもあるが、病院との間で示談交渉が行われる可能性もある。
区分 | 内容 |
---|---|
発覚経緯 | 死亡後も不正利用が続き、遺族が明細で異変に気づいた |
犯行手口 | 看護師が病室内でカードをスマホ撮影し通販で使用 |
被害額 | 総額200万円以上、アイドルグッズ・料理宅配など含む |
組織対応 | 懲戒解雇と謝罪、情報管理体制の見直しを実施予定 |
信頼の土台を壊す行為が、制度の甘さをあぶり出していた
本件の本質は、個人情報の管理不備や制度的脆弱性よりも先に、医療職に求められる「信頼」の崩壊にあった。看護師という立場にある人間が、患者の死後もカードを使用し続けていたという事実は、病院という空間の透明性と安全性に対する社会的信頼を大きく揺るがすものだった。
同時に、死亡後のカード管理を遺族任せにしていたことも、医療現場における構造的な盲点として顕在化した。監督官庁による指針強化や外部調査体制の常設が求められているのは、まさにこうした「信頼の前提が崩れた現場」への対処が追いついていないからである。