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王谷晶『ババヤガの夜』ダガー賞受賞 日本人初の快挙

作家・王谷晶さんの小説『ババヤガの夜』が、英国推理作家協会が主催する世界的なミステリー文学賞ダガー賞」の翻訳部門を受賞しました。翻訳はサム・ベット氏が担当。日本人作家としては翻訳部門で初の快挙となります。暴力団会長の娘と護衛役の女性の複雑な関係性を描いた同作は、ミソジニーやLGBTQ要素も織り交ぜた独創的な構成が高く評価されました。

 

『ババヤガの夜』ダガー賞受賞

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日本人作家の王谷晶さんが手がけた小説『ババヤガの夜』が、英国の名門ミステリー文学賞ダガー賞」の翻訳部門で受賞を果たした。翻訳はサム・ベット氏が担当し、日本人原作作品としては史上初の快挙となる。ジャンルを越えた革新性と、女性を主軸に据えた力強い物語が国境を越えて評価された。

項目 内容
受賞作品 『ババヤガの夜』(著:王谷晶/訳:サム・ベット)
受賞部門 ダガー賞・翻訳部門(Translated Dagger)
主催 英国推理作家協会(CWA
授賞日 2025年7月3日(ロンドンにて授賞式開催)
受賞の意義 翻訳部門での日本人作家として初の受賞
評価された点 女性連帯・暴力・LGBTQ要素などを融合した独自性

王谷晶さんが翻訳部門で日本人初のダガー賞受賞

2025年7月3日、英国ロンドンにて開催された「ダガー賞」の授賞式で、日本人作家の王谷晶さんが原作を務めた小説『ババヤガの夜』が翻訳部門を受賞した。翻訳を担当したサム・ベット氏とともに表彰され、翻訳作品としての完成度と物語の独創性が高く評価された。

ダガー賞は1955年に英国推理作家協会(CWA)によって創設され、世界の優れたミステリー文学作品を称える賞として知られている。翻訳部門は国際的な作品を英語に翻訳した書籍を対象とし、審査の厳格さと選考の権威性でも知られる。

王谷さんの作品が翻訳部門で選ばれるのは日本人として初めてであり、これまで最終候補には複数の日本作品が選出されていたが、受賞には至っていなかった。今回の受賞は、日本文学が国際的な評価の新たな段階に入ったことを象徴する事例とされている。


過去の最終候補作との明確な差異

これまでダガー賞の翻訳部門では、日本のミステリー作品がたびたび最終候補に残っていた。代表的な作品には、横山秀夫さんの『64』や東野圭吾さんの『新参者』、伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』などが挙げられる。いずれも緻密な構成と人間描写が評価されたが、受賞には至っていなかった。

今回の『ババヤガの夜』は、ミステリーの枠を超えて女性の連帯や社会的抑圧を描いたテーマ性が際立っており、過去作品との評価軸の違いが明確に表れていた。単なる犯罪小説ではなく、多層的な人物構造と文化的要素を融合させた点が、審査委員団に強く印象づけられたとされている。

 受賞前インタビューで語られたテーマ意識の高さ

授賞式に先立ち、TBS系列JNNのインタビューに応じた王谷晶さんは、「女性を主役にして何か描こうと思ったら、日本ではミソジニーが避けられない」と語っていた。ジャンルに関係なく、現実社会の中にある抑圧や偏見と向き合わざるを得なかったという視点が、作品全体に濃密に織り込まれている。

王谷さんはまた、「文化や国を超えて、特に女性の読者とは『あるある』が共有できたのかもしれない」と述べ、読者の体験と作品の感覚が深く交差していたことを示唆していた。こうした意図が、翻訳を通じて国際的に伝わったことが、今回の受賞にもつながっていた。

過去候補作と受賞作の評価基準の変化

比較項目 過去候補作品(64/新参者/マリアビートル) 『ババヤガの夜』
構成とジャンル 本格警察小説/市井ミステリー/サスペンス 暴力団×女性護衛×連帯アクション
評価点 構成の緻密さと描写の完成度 独自性・社会性・文化要素の融合
審査員コメント 構造的に優れたが類似作品が他にも存在 「ヤクザ映画・LGBTQ・漫画文化の融合が独創的」
結果 最終候補止まり 翻訳部門で初の受賞

 

審査員が「独創的」と評した表現融合

今回の『ババヤガの夜』について、ダガー賞翻訳部門の審査委員長マキシム・ジャクボウスキ氏は、「漫画文化、ヤクザ映画、北野武、そして強いLGBTQの要素を融合させていた。その全体の組み合わせがとても独創的だった」と評している。

このコメントからも明らかなように、作品の魅力は単なる文学表現にとどまらず、日本のポップカルチャーや社会的視点を編み込んだ「複合的語り」にある。従来のミステリー作品とは一線を画し、ジャンルを横断するような表現力が今回の評価につながったといえる。

さらに、主人公である新道依子が護衛する暴力団会長の娘との関係性を「名前のつけられないもの」として描いた点も、従来の構図にとらわれない視点として注目された。そこに宿る緊張と連帯の描写が、読者と審査員の双方に強く響いたことは間違いない。

女性作家による国際的評価の広がり

今回の授賞作と同時に、柚木麻子さんの『BUTTER』も最終候補に選出されていた。日本の現代女性作家によるミステリーや心理小説が、海外市場においても高く評価される傾向が続いている。

『BUTTER』は現代社会に潜む偏見と女性の生きづらさを描いた作品で、特に英国では累計40万部を超える売上を記録しており、王谷作品と並び「女性作家の文芸的進出」を象徴する存在とみなされた。

これらの作品に共通するのは、「女性が主人公であること」そのものを描くのではなく、女性であることに内包された社会的課題や視点を物語に組み込んでいる点にある。文学における女性作家の役割が、表層的なジャンル分類を越えて再定義されつつある流れを如実に示した結果である。

「描かざるを得なかった」ミソジニーと女性視点の交差

王谷晶さんがインタビューで語った「ミソジニーを避けて通れなかった」という言葉には、物語の核心がある。主人公・新道依子を通じて描かれる女性同士の関係性は、守る・守られるといった単純な図式では収まらない。

むしろ、相手との関係性の中で自分の立場や過去と向き合う過程こそが物語の軸となっていた。これは単なるフィクションではなく、現代に生きる読者と地続きの視点として共有される感覚であり、特に女性読者にとっては強い共鳴を生む構造だったと見られている。

 

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 ダガー賞翻訳部門・受賞までの流れ

ステップ 内容
Step 1 小説『ババヤガの夜』が日本で出版される
Step 2 翻訳者サム・ベット氏により英語訳が刊行される(前年)
Step 3 英国推理作家協会がダガー賞の候補作として選出
Step 4 審査委員会にてLGBTQやヤクザ要素の融合が高く評価される
Step 5 2025年7月3日、ロンドンにて授賞式が行われ、翻訳部門の受賞が発表される

✅ FAQ

Q1:ダガー賞とはどのような賞ですか?

A1:英国推理作家協会(CWA)が主催する、ミステリー・犯罪文学を対象とした文学賞で、1955年から続く権威ある賞です。

Q2:『ババヤガの夜』はどのような作品ですか?

A2:暴力団会長の娘を護衛する女性・新道依子の視点を通じて、連帯や暴力、女性蔑視などを描いたアクションミステリーです。

Q3:日本人作家として初めての受賞ですか?

A3:翻訳部門において、日本人作家が受賞するのは今回が初めてです。

Q4:翻訳は誰が担当しましたか?

A4:アメリカの翻訳家サム・ベット(Sam Bett)氏が英語訳を担当しました。

Q5:なぜこの作品が評価されたのですか?

A5:LGBTQ要素、日本のポップカルチャー、社会的視点を融合した独自性と表現力が高く評価されたためです。


✅ まとめ

区分 要点整理
作品名 『ババヤガの夜』(著:王谷晶/訳:サム・ベット)
受賞内容 英国CWA主催「ダガー賞」翻訳部門で2025年に日本人作家として初の受賞
評価点 ミソジニー・連帯・暴力・LGBTQを融合した複合的な表現が独創性として高評価
広がる波及効果 柚木麻子『BUTTER』も最終候補となり、日本女性作家の国際的進出が進展中

 

ジャンルを越境する表現が世界文学の「枠」を揺るがす

『ババヤガの夜』が国際的な賞で評価された背景には、日本文学が従来抱えていた「ジャンルの壁」を内側から突き破った構造があった。暴力団を舞台にしながら、単なる犯罪描写にとどまらず、女性同士の関係性や社会的抑圧を描き出した点は、物語の形式そのものを再定義する契機となっていた。

特筆すべきは、女性作家が描く「女性の視点」が、もはや一つのサブカテゴリではなく、国際的な文芸のメインストリームに食い込む表現軸として受容されつつある点である。王谷作品に見られるような「連帯」「曖昧な関係性」「葛藤を越えた共生」は、ミステリーの枠を越えて人間の深層に迫る装置として機能していた。

また、翻訳を経てもなお失われなかった「語感」や「空気感」が、読者と作品との距離を詰めた。これは、言語の壁ではなく、構造と文体の設計によって成立した国際的な共鳴と言える。

ジャンルを横断するだけでなく、文化・社会・性の境界線をも内包した物語は、もはや周縁の実験作ではなく、国際文学の核を形成し始めている。日本の女性作家がその中心に立ち始めている現実こそ、今回の受賞が示した最大の到達点である。