NHK赤字決算
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NHKが2024年度決算で2年連続の赤字を発表した。受信料収入は過去最大の下げ幅を記録し、支払率も全国的に低下する中、NHKはスクランブル化の導入を否定し、番組の質と量を維持するとしている。しかし制度の持続性と受信者の公平性には、大きなひずみが生じている。
2年連続赤字と制作費の構造的負担
2024年6月に公表されたNHKの決算報告によると、事業収入は前年度比406億円減の6125億円、事業支出は6574億円で、449億円の赤字となった。赤字決算は2年連続となり、不足分は積立金で補填された。背景には、2023年10月に実施された受信料の1割値下げがある。
NHKは、2027年度までに累計1000億円の支出削減を掲げ、最終的に年間5770億円で収支均衡を目指す計画だが、すでに内部からは「予算編成の困難さ」を懸念する声も上がっている。
事業支出の約76%にあたる4971億円は、国内放送番組の制作と送出に費やされている。テレビ番組の制作費は3079億円にのぼり、その内訳はニュース関連が923億円(30.0%)、ライフ・教養番組が743億円(24.1%)、スポーツやドラマなども含めると全体の構成比はさらに多岐にわたる。
制作費の中で人件費は781億円(約25%)を占めており、委託要員費404億円、取材・ロケ費用311億円、編集・音響効果費232億円なども積み上がっている。とりわけ、ニュース番組は放送時間に比して制作費率が高く、災害・事件などへの即応体制維持がその要因とされる。
受信料減少と制度維持の限界
受信料収入は、前年度比426億円減の5901億円と過去最大の下落幅を記録した。これに伴い、受信契約総数はこの5年間で145万件減少。24年度末の全国平均支払率は77.3%となり、高知県を除く46都道府県すべてで支払率が低下している。
都市部では支払率の落ち込みが特に顕著で、東京都は66.2%、大阪府は64.3%にとどまった。NHK側は、大都市圏では単身世帯や集合住宅が多く、対面営業が困難なことが一因としている。一方、これまで支払率90%超を維持していた東北・山陰などの“岩盤層”地域でも支払率に陰りが見えており、制度の浸透力そのものに変調が表れ始めている。
このような状況下でも、NHKは「番組の質と量は維持する」とし、スクランブル化については導入を否定している。井上副会長は6月の定例会見で「収入が減っても、視聴者サービスの質を落とさずに効率化で対応する」との方針を示したが、BS再放送の増加やドラマ枠の“過剰感”を指摘する職員の声も上がっている。
制度の公平性と“ただ見”問題
NHKの受信料制度は、テレビを所有しているだけで契約義務が発生する構造であり、視聴の有無は問われない。このため、NHKを視聴していない世帯にも契約義務が課され、「なぜ見ないのに支払う必要があるのか」という疑問が根強く残っている。
一方、契約者からは「見ていない人がただで番組を見られるのは不公平」との不満が噴出しており、支払率の低下と制度不信の一因ともなっている。
未契約者に対する割増金制度や、民事訴訟・支払督促などの措置も導入されたが、それらは最終手段であり、根本的な支払率向上には「公共放送としての理解促進」しか手立てがないという現状に直面している。
支払率の地域別下落傾向
支出構造改革と波数の見直し
NHK内部では、2027年度までの収支均衡に向けて、現在のチャンネル数や再放送比率、外注依存率の見直しを求める声が高まっている。特にBSプレミアム4KやBS8Kなど、多波運用にかかる送出費用と人的コストが重くのしかかる中で、「すべての波を残す必要があるのか」という根本的な問いが組織内外から浮上している。
井上副会長は「波数の削減ではなく、効率化で質と量を維持する」と語ったが、実態としては一部BS番組の“水増し編成”や、再放送の常態化が進んでおり、制度と現場の乖離が徐々に露呈し始めている。
公共放送と視聴義務の“分断”
現在の受信料制度は「視聴していなくても契約義務がある」という構造で運用されているが、視聴者の意識は明らかに「見るなら払う/見ないなら払わない」という“選択制”へとシフトしている。
この意識の乖離は、「NHKに触れる頻度がゼロに近い世帯」と、「ニュースや災害情報で日常的に頼っている層」の分断を深め、制度そのものに対する納得度を著しく低下させている。NHKが“公共”という名のもとに全世帯に契約義務を求める以上、この意識の断層をどう埋めるかが、今後の最大の焦点である。
赤字決算から収支均衡まで
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2023年10月:受信料を1割値下げ
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2024年6月:2年連続の赤字決算を発表(▲449億円)
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積立金で補填しつつ、支出削減策を継続
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制作費の見直し・業務委託費の圧縮・波数維持の効率化
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2027年度:収支均衡(年5770億円)達成を目指すが困難も予測される
❓FAQ
Q1. NHKはなぜスクランブル化しないのですか?
A1. 見たい人だけが契約する仕組みは「公共放送の責任と一致しない」として、現時点で導入を否定しています。
Q2. 赤字補填に使われた積立金はいつまで保つの?
A2. 現行計画では2027年度の収支均衡まで積立金を活用する想定ですが、削減目標が未達なら枯渇リスクもあります。
Q3. 支払率が下がったのは都市部だけですか?
A3. 都市部での低下が目立つ一方、従来支払率が高かった地方でも下落傾向が確認されています。
Q4. NHKは人件費を見直す予定ですか?
A4.具体的な削減案は示されていませんが、職員の間からは支出構造の再検討を求める声が出ています。
Q5. NHKを見ない人も契約しなければならないの?
A5. 現行制度では、テレビを持っていれば視聴の有無にかかわらず契約義務が発生します。
まとめ
区分 | 要点内容 |
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決算赤字 | 2024年度は449億円の赤字で、2年連続の赤字決算に。 |
受信料収入 | 5901億円(426億円減)と過去最大の下げ幅。 |
支払率 | 全国平均77.3%、都市部で特に低迷。 |
支出構造 | 番組制作費3079億円中、781億円が人件費。 |
制度維持姿勢 | スクランブル化は否定、番組の質・量は維持方針。 |
公共放送の再定義と信頼の回復へ
NHKが掲げる「公共放送としての普遍的な使命」は、制度上すべての国民に対してサービスを提供することに根ざしている。しかし、その制度の根幹をなす“受信料の強制徴収”は、視聴者のライフスタイルやメディア環境の変化により、今や“制度のための制度”という印象すら抱かせるようになっている。
番組を見なくても払う義務、払っていなくても見られる現状、この不均衡をどう是正するかは制度論の核心に迫る問いだ。スクランブル化の是非をめぐる議論を避けながら支払率を上げようとする姿勢は、かえって信頼の低下を招きかねない。今こそ、公共放送として“誰に・何を・どう届けるのか”を再定義することが問われている。