山梨学院大レスリング部で5月、部員が大麻成分を含むとされるクッキーを摂取後、寮から飛び降りて重傷を負った。クッキーは部員がSNSを通じて購入し、「合法」と表示されていたと説明。大学は関与した4人の部員に処分を下し、厚生労働省も「合法表示の商品でも危険性がある」と注意を呼びかけている。制度の隙間と認識のずれが招いた実害が問われている。
大麻入りクッキー重傷事故
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「合法と表示されていた」──その言葉を信じて食べたクッキーが、命に関わる事故を引き起こした。
山梨学院大レスリング部で5月、部員がインターネットで購入した“大麻成分入り”とされるクッキーを摂取後、大学寮から飛び降りて重傷を負っていたことが明らかになった。SNSで著名人が紹介していたという背景と、「合法」とうたう販売サイトの表示が招いた実害に、厚生労働省も警鐘を鳴らしている。
飛び降り事故の経緯と発覚
山梨学院大学のレスリング部で5月、10代の男子部員が大学寮の2階から飛び降り、頭の骨を折る大けがを負っていたことが大学側などへの取材でわかった。事故が起きたのは、大麻成分を含むとされるクッキーを摂取した直後のことで、別の部員と2人で食べた数時間後に異常行動を起こしたとされている。
クッキーを購入したのはレスリング部の別の3人の部員で、そのうちの1人が男子部員を誘って一緒に食べたという。事故当時、男子部員は大学寮2階の部屋から突然飛び降り、直後に再び部屋へ戻って再度飛び降りようとするなど、錯乱状態に陥っていた。現場に居合わせた人物が制止し、再びの転落は免れた。
事故発生後、大学は関与した4人の部員から聞き取りを実施。購入経緯や摂取状況などを調査し、本人たちも関与を認めたという。大学は「寮内での薬物関連トラブルを重く受け止めている」として、部員全員を一定期間の公式戦から除外する処分を決定した。
レスリング部の実績と大学側の処分内容
山梨学院大レスリング部は、昨年の全日本大学レスリング選手権大会で団体優勝を果たし、世界選手権やアジア選手権などの国際大会にも複数の選手を送り出している。過去には五輪メダリストを輩出した実績もあり、国内有数の強豪校として知られてきた。
今回の事案により、同部は活動の一部を自粛。事故に関与した4人の部員については、すでに大学が一定期間の試合出場停止を決定し、今後の再発防止策を含めた指導体制の見直しも行うとしている。
販売サイトの表示と厚労省の見解の対照
SNSと“合法表示”が与えた誤認リスク
大学側の調査では、クッキーを購入した部員が「SNSで著名人が紹介しているのを見て、興味を持った」と話していたことが確認されている。投稿を通じて見かけた販売サイトには、「高揚する成分が含まれている」とされる一方で、「合法」と明記されていたことも明らかになっている。
販売元が掲げる“合法”という言葉により、利用者が違法性の判断を誤るケースが増えている。厚労省もこの件に関し、「表示が合法であっても、身体への影響や救急搬送につながるケースが確認されている」と注意喚起しており、SNS経由の情報拡散が未成年や若年層に与える影響への懸念も高まっている
合法表示商品の制度分類と行政判断(2025年時点)
制度の隙間に落ちる「合法表示」の実害
今回のクッキーに含まれていたとされるのは、カンナビノイド系成分の一種であり、明確に違法指定されているものではなかった。そのため警察も「違法成分の検出はなかった」と判断したが、部員は摂取後に意識が混濁し、飛び降りるなどの異常行動を起こした。
制度上の“合法”と、現実の“安全”は必ずしも一致しない。今回のように販売サイトでは合法性がうたわれていても、摂取者の身体に強い影響を及ぼす可能性は排除できない。特に若年層にとって、「合法」「紹介されている」という情報が“信頼の証”として誤解される構造が、事故を生みやすくしている。
クッキー摂取から事故発覚までの構造図
❓FAQ
Q1. 今回のクッキーには違法な大麻成分が含まれていたのですか?
A1. 山梨県警の調査では、違法成分(大麻取締法に基づく指定物質)は検出されていません。ただし、カンナビノイド類の一種が含まれており、厚生労働省は「合法と表示されていても危険性がある」として注意を呼びかけています。
Q2. クッキーを購入した部員たちは処分されたのですか?
A2. 山梨学院大学は、関与した4人のレスリング部員に対し、一定期間の公式戦出場自粛処分を発表しています。大学は今後の再発防止に向けた指導体制の見直しも進めています。
Q3. なぜ“合法”と表示された商品に危険があるのですか?
A3. 一部のカンナビノイド系成分は法規制の対象外である場合がありますが、安全性が確認されているわけではありません。厚労省によると、合法表示により使用者が過信し、意識障害や救急搬送に至るケースが確認されています。
Q4. このような商品はどこで購入されるのですか?
A4. 今回のケースでは、SNSで紹介されていた販売サイトから部員が個人で購入していたとされています。販売元のサイトには「合法」「高揚感」などの文言が記載されていたと報じられています。
Q5. 今後、大学側はどういった対応をする予定ですか?
A5. 山梨学院大学は、部員の処分に加え、再発防止策として寮内での生活指導やインターネット利用に関する教育を見直す方針です。また、外部機関との連携による薬物教育も検討されています。
山梨学院大レスリング部 大麻クッキー事故の全体構造
認識のズレが生む「合法リスク」──制度と感覚の乖離
SNSで「紹介されていた」、販売サイトに「合法と書かれていた」──これらの文言に、どれほどの重みを感じるかは年齢や経験によって異なる。若年層にとっては、それが安全や正当性の裏付けと受け取られることも少なくない。
今回の件では、制度上は違法とされない成分であったにもかかわらず、摂取後に深刻な行動異常を引き起こす結果となった。販売側は“合法”と掲げることで法的リスクを回避し、消費者側はその表示を信じた。だが、その間に存在するのは、制度と実害の“隙間”である。
厚生労働省が強調したのは「表示に惑わされず、実態を見ること」であり、制度の枠組みにないからといって安全とは限らないという警告でもある。商品が合法か否かよりも、「摂取後に何が起きるか」に焦点を当てた視点転換が、今後の教育や啓発には不可欠となる。
“認識のズレ”が命に関わる結果を生む――その現実が、今回の事故を通じて浮き彫りになっている。