
トランプ政権の関税政策は中国製を狙ったはずが、なぜ韓国LGが減益?消費冷却と構造依存の実態を解説します。
LGテレビが直撃
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トランプ関税は中国狙いのはずが…LGに直撃 営業利益半減の構造要因とは
米トランプ政権が再び中国製品への関税政策を強化する姿勢を示す中、韓国の家電大手LGエレクトロニクスが深刻な影響を受けた。表向きには「制裁対象ではないはず」のLGが、2025年4〜6月期に営業利益を半減させる結果となった背景には、グローバルなサプライチェーンの構造的リスクと消費心理の冷却という二重の要因が絡んでいる。
冒頭要約表(2025年7月時点)
制裁の対象外でも利益は削られた
2025年7月、LGエレクトロニクスは2025年4~6月期の暫定業績を公表し、売上高は20兆7400億ウォン、営業利益は6391億ウォンとなった。前年同期比で営業利益は約46.6%の大幅減となり、証券各社の予想を大きく下回った。
同社は発表の中で「米国通商政策の変化が関税費用の増加および市場競争の激化を招いた」と明記した。生活家電や電装事業では一定の収益を確保したが、テレビ部門では販売不振が直撃。液晶パネル価格の上昇や広告費の増加も重なり、収益性は大きく損なわれた。
米国は中国製テレビに41.4%の関税を課しており、中国製冷蔵庫や洗濯機に対しても同様の高率関税が継続されている。一方、LGのテレビはメキシコ工場から出荷されるため、米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により関税は免除されている。それにもかかわらず打撃が避けられなかった背景には、構造的な要因が浮かび上がっている。
「部材依存」と「市場心理」の二重苦
最大の要因とされるのが、テレビ用液晶パネルの調達構造だ。LGは中国のBOE社などからLCDパネルを購入しており、同社テレビ部門における原材料費のうち、約38%がLCDモジュール購入費として計上されている。米中間の輸出規制や関税の影響が部材コストに波及し、利益率を押し下げた形だ。
さらに、世界のテレビ市場全体における需要縮小も影響している。産業研究院によれば、グローバルな家電需要が鈍化し、通商政策の不確実性が消費心理の急速な萎縮につながったとされる。
LGは価格競争力を持ちにくいOLED中心の製品戦略を進めているが、世界市場では依然としてLCD製品の需要が大きい。中国メーカーが低価格帯を攻める中、LGのテレビは構造的に価格競争に不利な状況にあり、収益確保が難しい状態が続いている。
事業再構築と欧州市場攻略への展開
こうした中、LGは下半期以降の事業再構築に向けて、B2B中心の事業拡張に注力している。とくに、データセンター向けのHVAC(空調設備)事業と、サブスクリプション型サービスを軸にした「機器+サービス」モデルの拡大に取り組んでいる。
また、物流費の改善が見込まれることから、通商リスクへの対応策として欧州市場の強化を図る。LGは欧州の温水ソリューション企業OSOを買収しており、今後は冷暖房空調分野を中心に欧州市場でのシェア拡大を狙っている。
米中関税構造とLG依存構造の対応比較
| 区分 | 内容(中国製品) | 内容(LG製品) |
|---|---|---|
| 製品例 | 中国製テレビ・冷蔵庫・洗濯機 | LG製テレビ(メキシコ製) |
| 米国への関税率 | テレビ:41.4%/冷蔵庫:55%/洗濯機:38% | 0%(USMCA対象) |
| 原材料供給元 | 自国内完結 or 中国国内調達 | LCDパネル:BOE(中国) |
| 原価構造依存度 | 中国製に一部依存(関税対象) | LCDモジュールが原材料費の38%を占める |
| 影響の出方 | 関税で直接価格上昇 | 間接的コスト上昇+消費心理冷却の複合影響 |
| 対応方針(今後) | 国内生産回帰やASEAN移転 | HVAC・B2Bシフト+欧州事業強化 |
下半期以降の収益回復戦略と通商対応
2025年後半、LGは関税による影響が本格化する見通しの中で、冷蔵庫や洗濯機などのB2C製品の収益性維持と並行し、法人向け(B2B)事業の強化に注力する構えを示している。
とくに、データセンター向け空調設備(HVAC)や電装部品分野では、単発販売ではなく保守・運用を含めた反復型の売上構造に移行しつつある。また、生活家電の一部はサブスクリプション型のサービス提供を進めており、単価上昇よりも「安定収益モデル」への転換を重視する方針が明らかにされた。
今後は、物流費の改善と欧州での冷暖房空調市場攻略がカギとなる。LGは欧州の温水ソリューション企業OSOの買収を完了し、現地市場の販路強化と製品展開の本格化を図るとしている。
LGが直面したのは「制裁対象国でないにもかかわらず影響を受ける」という地政学リスクの構造だった。米国が関税対象としたのは中国製テレビであり、LG製品には関税は直接かかっていない。だが、構成部材の多くを中国サプライヤーに依存していた結果、調達コスト上昇や物流停滞が避けられなかった。
同時に、世界の消費市場が米中摩擦の報道により慎重姿勢を強め、テレビの買い替えを控える傾向が強まった。これは「関税そのものの有無」よりも、「消費心理の崩壊」が先に企業収益を直撃した事例と言える。
テレビ事業では、価格競争が激化する中、LGは自社で価格決定権を持ちにくい構造にあり、家電全体の中で最も利益率が低いセグメントとなっている。今回の減益は、制度や関税ではなく“購買行動の変化”により利益構造が崩れたことを示している。
◉ FAQ
Q1. LGのテレビは関税をかけられていないのに、なぜ収益が落ちたのですか?
A1. LGのテレビはメキシコ工場で製造されており、米国では関税が免除されています。しかし、構成部材に中国製の液晶パネルを使用しており、その価格上昇や調達リスクが利益を圧迫しました。さらに、米中対立による消費不安がテレビ需要全体を冷え込ませた影響もあります。
Q2. 中国製テレビの関税率と比較してLG製品の優位性はなかったのですか?
A2. 中国製テレビには約41.4%の関税が課せられており、表面上はLGのほうが有利なはずでした。ただし、価格帯の異なる競合製品との競争や、構成部材の依存度の違いにより、結果的にLGのテレビ部門も打撃を受けました。
Q3. LGは今後どういった分野で利益を回復する見込みですか?
A3. LGはデータセンター向け空調設備(HVAC)や電気自動車部品などの法人向け事業を強化しています。また、欧州市場での冷暖房空調事業を拡大する方針も示しています。
Q4. LGがOLEDを重視している理由は何ですか?
A4. OLEDはLGが技術優位を持つ分野であり、中国メーカーとの価格競争を避ける戦略でもあります。しかし、世界市場ではLCD需要が依然として高く、構造的な価格競争力の確保が課題となっています。
Q5. 消費心理の冷え込みはなぜ起きたのですか?
A5. 米中摩擦の再燃や通商政策の不確実性により、消費者の購買行動が慎重になりました。とくに高額な家電製品では、買い替えの判断が先送りされる傾向が強まっています。
◉ まとめ
今回のLG減益は、関税の有無という「政策判断」ではなく、消費心理と原材料構造という「企業環境の脆弱性」が収益性を揺るがした例として注目される。とくに、サプライチェーン上における中国製部材への依存は、間接的なコスト増加をもたらし、制度上の優遇ではカバーしきれない損失を誘発した。
さらに、テレビという製品カテゴリそのものが、価格競争と需要減退の波を受けやすい特性を持っていた点も重要である。LGが自社製の主要部品を持たないテレビ分野では、価格決定権を握れず、中国企業との競争環境において防御力を欠いた。
米中対立の余波は、直接の対象国を越えて波及することを示している。今回の事例は、国家間の貿易摩擦が単なる関税問題にとどまらず、企業の製品構造・購買動向・利益配分にまで影響を及ぼすことを改めて証明する形となった。