
韓国の人気グループBTSを擁するHYBEの創業者パン・シヒョク氏に対し、韓国警察が不正取引の疑いでHYBE本社を家宅捜索。上場延期を装いSPCへ株式を移転させたとされる疑惑に、金融当局は1900億ウォンの不正利得が発生したと見ている。創業者支配と企業統治の在り方が問われている
HYBE創業者に強制捜査
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韓国の大手芸能事務所HYBEの創業者で取締役会議長を務めるパン・シヒョク氏に対し、韓国警察が2025年7月24日、証券犯罪の疑いで強制捜査に踏み切った。捜査の対象には、上場前の株式取引や企業間資本スキームが含まれており、当局は数百億円規模の不正利得があったと見ている。パン氏は現時点で正式な容疑者とはされていないが、捜査の行方次第では、韓国のエンターテインメント業界全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発端 | HYBE創業者が上場前に株式を特定企業へ移転したとする不正取引の疑い |
| 捜査着手日 | 2025年7月24日午前9時、韓国警察がHYBE本社を家宅捜索 |
| 金額規模 | 金融当局の推計によると約1,900億ウォン(約200億円)の利得が発生 |
容疑の経緯と捜査開始
韓国の捜査当局は2025年7月24日午前9時ごろ、ソウル・竜山区にあるHYBE本社に捜査員を派遣し、家宅捜索を開始したと発表した。対象は主に、同社創業者であり現在も取締役会議長を務めるパン・シヒョク氏が関与したとされる過去の株式売却と資本移転に関する資料である。
捜査の端緒となったのは、HYBEの上場を控えた2019年ごろ、パン氏が一部の既存投資家に対して「上場が延期される」との情報を提示し、その間にHYBEの役員が出資したプライベート・エクイティ・ファンド(PEF)が新たに設立した特別目的会社(SPC)を通じて株式を取得したとする疑惑である。
警察はこの株式取得が、虚偽の情報をもとに投資判断を誘導した行為に該当する可能性があるとみており、証券犯罪捜査団が中心となって捜査を続けている。
推定される不正利得と警察の立場
金融監督機関はこの取引により、HYBE側が不当に得たとされる利得はおよそ1,900億ウォンに達すると分析している。これは日本円で約200億円に相当し、上場時の株価と譲渡価格との差額をもとに試算されたものとみられる。
警察側は、この金額の大部分が設立されたSPCを通じて創業者側に流れた可能性があるとみて、当時の資本政策の経緯や株主間の取引記録など、複数の資料を押収して事実関係の解明を急いでいる。
HYBE側はこれまでのところ、強制捜査について公式な見解を発表しておらず、パン氏も個人としてのコメントを出していない。
時系列整理表:設立・売却・捜査日
| 年月 | 事象内容 |
|---|---|
| 2019年頃 | HYBE上場準備の過程で「IPO延期」の説明が一部投資家に伝えられる |
| 同年 | HYBE役員が出資したPEFによりSPC設立、当該SPCが株式を取得 |
| 2020~21年 | HYBEが最終的に上場、市場評価額が急騰 |
| 2025年7月24日 | ソウル警察庁がHYBE本社を家宅捜索、証拠物押収 |
捜査の今後と立件可能性
現在のところ、パン・シヒョク氏は正式に容疑者として立件されたわけではないが、韓国警察は証券取引関連法の違反容疑で捜査を継続している。今後は押収された株主間の取引記録や社内資料を分析し、意図的な情報操作や利益誘導の構造があったかどうかを判断材料とする。
また、プライベート・エクイティ・ファンド(PEF)の運営主体や、特別目的会社(SPC)に出資したHYBE役員らの関与についても、刑事責任の有無を個別に確認していくとみられる。韓国の証券犯罪捜査においては、捜査段階で複数関係者の供述と電子的証拠が揃った時点で立件される傾向がある。
創業者支配企業に求められる統制力
HYBEはBTSを世界的な成功に導いた企業として知られ、創業者であるパン・シヒョク氏の影響力が極めて大きいことで知られてきた。だが、その「創業者支配型モデル」がもたらすリスクについては、これまであまり可視化されてこなかった。
企業統治の観点から見ると、取締役会議長が意思決定に深く関与しながら、同時に株主間取引やファンド設立にも実務的に関与していた場合、情報の非対称性や説明責任の空白が発生しやすい。今回の捜査によって、そうした支配力と法的責任の境界が、より明確に問われることになる。
HYBEを巡る主要動きの流れ
設立 → 株式取得 → 上場 → 捜査着手
↓ ↓ ↓ ↓
PEF設立 SPC経由 市場評価上昇 家宅捜索
↓
利益流入構造の解明へ
よくある5つの疑問
Q1. パン・シヒョク氏は現在、容疑者として扱われているのですか?
A1. 現時点では「容疑の対象者」であり、正式に立件されたとの報道は確認されていません。
Q2. HYBEの経営やBTSの活動に影響はありますか?
A2. HYBE側はこれまでに経営陣の交代や事業方針変更などの発表を行っていません。影響は限定的と見られます。
Q3. SPCとはどのような仕組みですか?
A3. 特別目的会社(SPC)は、特定の資産を管理・運用するために設立される法人で、PEFなどの投資機関が資本注入して運用します。
Q4. 不正利得とされる1900億ウォンは確定額ですか?
A4. 金融当局による推定額であり、捜査と審理の進展により変動する可能性があります。
Q5. HYBE株の市場反応はどうなっていますか?
A5. 24日午前のソウル証券市場では一時的な下落が見られましたが、終値ベースでの影響は限定的との分析が出ています。
記録から読み取れる全体の要点
| 要素分類 | 内容概要 |
|---|---|
| 発端 | HYBE創業者が上場延期を装い株式をSPCに売却した疑い |
| 対象企業 | HYBE本社、関連SPC、出資PEF |
| 捜査機関 | ソウル警察庁 証券犯罪捜査団 |
| 押収対象 | 株主間契約書、社内メール、資本取引記録など |
| 捜査進行 | 家宅捜索完了。今後は証拠の精査と関係者聴取へ |
| 被疑金額 | 推定1,900億ウォン(約200億円)の不正利得が指摘されている |
上場と信頼──資本市場に問われる倫理性
証券市場における「上場」は、単なる資金調達手段ではなく、経営の透明性と社会的信頼を担保する装置でもある。その意味で、今回のように創業者が情報を恣意的に扱い、上場前の株式を密かに移動させていたとすれば、それは単なる脱法行為を超えた市場倫理の逸脱といえる。
特に、エンターテインメント企業のようにブランド価値と信頼が収益の源泉となる産業では、経営のガバナンス構造そのものが企業価値と直結している。HYBEのような国際企業において、その支配構造が不透明であったことは、今後の事業展開においても深刻なリスク要因となり得る。
この事件が意味するものは、ひとつの企業の不祥事というよりも、韓国資本市場全体が問われている信頼の質そのものである。