徳島県の白滝製麺が2024年8月から後払い決済を廃止します。背景には、未払いの急増や食品の転売被害、そして顧客を疑うことへの心理的な負担がありました。年間100万円に迫る損失を防ぐために、やむなく信用取引の打ち切りを決断した同社の姿勢と、同様の悩みを抱える事業者たちの声を紹介します。
白滝製麺の葛藤
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「もう限界です」──そう語ったのは、徳島県の半田そうめん製麺所「白滝製麺」の代表、森岡太悟さんだ。全国のファンに長年親しまれてきた同製品だが、近年、後払い決済での未払いが急増。悪質なケースでは、商品がネット上で転売される事例も確認されているという。信頼を前提にした販売体制が揺らぎ、同社はついに後払い決済の終了を決断した。背景には、金銭的損失だけでなく、顧客との関係性や心理的負担の蓄積があった。
後払い廃止を決断した背景と被害状況
白滝製麺では長年、全国の顧客を対象に通信販売を行っており、後払い決済も「信用を前提とした関係」として継続してきた。郵便振替による支払いは商品到着後7日以内としており、高齢者や贈答用購入者などにとって利便性が高かったという。
しかし、2024年に入り未払い件数が急増。支払いをしないまま転売サイトに商品が出品されているケースも確認された。こうした事案では、2~3万円のまとまった注文がある一方、督促に対する応答もなく、電話・郵送・弁護士相談などの対応コストがかさむばかりだった。
7月時点ですでに複数の未払い案件が発生しており、このまま推移すれば年間の損害額は100万円に迫ると推計された。「お客さまを信じることと、会社を守ることの両立が難しくなった」と語る森岡代表は、心身の負担も考慮し、8月から後払いサービスの終了を決定した。
苦情対応と心理的負担の実態
注文受付時に過去の滞納履歴をチェックする手間が発生し、これが「お客さまを疑う業務」として従業員にも大きな心理的負担を与えていたという。電話での支払い督促においても「払えない」と開き直る態度や、音信不通となる事例が後を絶たず、結果として時間と労力が浪費されていた。
白滝製麺は地域に根ざした小規模事業者であり、大量の未回収金を抱え込む体力はない。森岡代表は「1件ずつの金額は少額でも、積み重なれば経営への圧力となる」と語った。
類似事業者の対応方法と自衛措置
| 内容分類 | 具体的対応内容 |
|---|---|
| 支払い方法の見直し | 代引き・後払い決済の廃止(複数の中小事業者) |
| 法的措置 | 少額訴訟/内容証明郵送による督促/弁護士への相談 |
| 啓発手段 | オンラインショップに未払いに関する告知ページを設置 |
| 顧客対応強化 | 過去購入履歴・信用状況の事前確認体制の導入 |
| 決済手段の追加 | クレジット/Amazon Pay/楽天ペイ/PayPayなど前払い型中心へ移行 |
決済方法の今後と支援の選択肢
白滝製麺では、今後の対応として「PayPayなどのスマホ決済やオンライン完結型の前払い方式を強化する」としており、すでにAmazon Payや楽天ペイにも対応している。後払い決済の廃止については「やむを得ない防衛策」としつつも、従来の購入方法に慣れた高齢者層への影響も懸念材料となっている。
同社は公式オンラインショップ内での告知に加え、SNS上でも情報を発信。「支払い方法の選択肢は今後も増やす方向で検討している」と明記し、顧客離れを最小限に抑える工夫を続けている。
顧客信頼と利便性のはざまで揺れる現場の葛藤
白滝製麺の判断は、いわゆる“信用取引”に依存してきた中小食品メーカーの限界を示している。贈答用やリピーターを対象とした後払いは、本来は顧客との信頼関係に基づく利便性の高い仕組みだった。
しかし、近年は消費者側の倫理感の変化や「支払い逃れ」の手段化が進み、企業側の与信チェックや訴訟対応などが求められる時代になってきた。同社では「疑うための作業にコストを割くのではなく、より良い商品開発や顧客対応に注力したい」という方針が示されており、体制転換の意義は大きい。
零細メーカーが抱える「信用」と「限界」のリアル
森岡代表が語る「信用と経営のバランスを取る難しさ」は、ECを展開する他の中小企業にも共通する課題だ。SNSでの告知後、「うちも代引きやめました」「回収業務でスタッフが疲弊している」といった同業者からの声も寄せられていた。
事業規模が小さいほど、1件ごとの未回収が経営体力に直結しやすく、また、顧客の信頼を損なわずに対策を講じる難しさも抱える。白滝製麺の事例は「零細であっても“仕組みを変える覚悟”ができるか」が問われる時代の象徴ともいえる。
決済廃止に至る経緯と検討の流れ
よくある5つの質問と事業者の回答
Q1. いつから後払いが使えなくなりますか?
→ 2024年8月1日以降の注文から、郵便振替による後払いは終了となります。
Q2. クレジットカードや他の支払い方法は使えますか?
→ はい。クレジットカード、Amazon Pay、楽天ペイ、銀行・ゆうちょ銀行振込(いずれも前払い)に対応しています。
Q3. 高齢の家族が後払いに慣れていたので心配です。
→ 今後、スマホ決済や新たな前払い手段の導入を検討中です。ご家族の代行手続きなどもご活用ください。
Q4. もし未払いをしてしまった場合は?
→ 督促や法的手続きが必要となる場合があります。ご注文の際は、支払い期日(商品到着から7日以内)を必ずご確認ください。
Q5. 転売された商品に関して、食の安全は保証されますか?
→ 製品本来の品質は保証されておりますが、転売品の保管状況や出荷管理は当社では把握できません。
被害額と決済廃止判断の要点整理
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 被害額 | 年間で約100万円に迫る未収が懸念されていた |
| 発生理由 | 悪意ある未払い・支払い遅延・転売目的の購入 |
| 判断背景 | 精神的負担・対応コスト・顧客との信頼維持が困難化 |
| 対応方針 | 8月以降、後払いを全面廃止し、前払い中心に移行 |
| 影響と備え | 他の決済手段導入/高齢層への周知/今後の信用構築戦略へ |
零細事業者が取引信用を手放すという決断の重さ
白滝製麺の後払い廃止は、単なる決済手段の変更にとどまらない。小規模事業者が顧客との“信用による取引”をやめるという判断は、経営上のリスク回避であると同時に、長年育んできた信頼関係との決別でもある。
その背景には、回収不能な損失と対応コスト、さらには“顧客を疑う”という心理的ストレスの蓄積がある。森岡代表が語るように、「便利に使ってくださっていた方には申し訳ない」が、その言葉には、信頼と経営を天秤にかけた末の苦渋がにじんでいた。
同様の課題は、全国の中小・零細企業にも広がっている。取引信用に頼らない販売手法の模索と、信頼構築のアップデートは、いまや避けて通れない経営課題となりつつある。