
2025年の大阪・関西万博について、大阪府の吉村知事が「8月中に黒字になる見込み」と述べた。累計1700万枚超の入場券販売と週40~50万枚の販売ペースから、損益分岐点の1840万枚到達が現実味を帯びている。関西経済界からは「安心した」「レガシーに集中できる」との声も上がり、万博後の展望に注目が集まっている。
大阪万博が黒字見通し
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大阪・関西万博において、運営費1160億円のうち入場券収入で8割を賄うとする収支計画に対し、吉村洋文大阪府知事が「8月中に黒字転換の見込み」と発言した。1700万枚を超える入場券の販売実績を背景に、関西経済界では安心感と今後への期待が広がっている。財界は初期段階で万博の赤字リスクを懸念していたが、現在は“レガシー創出”に向けた議論へと関心が移行しつつある。
販売枚数と黒字見通しの進展
大阪・関西万博における運営費は1160億円に設定されており、その8割にあたる928億円を入場券収入でまかなう計画が示されていた。この計画に基づく損益分岐点は、1枚あたりの平均価格を約5000円と仮定した場合、およそ1840万枚が必要とされる。
7月25日時点で、入場券の販売実績が1700万枚を超えたことが吉村洋文大阪府知事から明かされた。吉村氏は、週あたりの販売ペースが40万~50万枚で安定している点を踏まえ、「このまま推移すれば8月中に損益分岐点を超える」と述べ、黒字達成の見通しを報告した。
万博協会側も、夜間花火イベントや夏休み効果によって販売が堅調に推移しているとの認識を示しており、短期的には収支の改善が視野に入りつつある。
吉村知事が示した収支計画の根拠
黒字見込みの説明に際して、吉村知事は「まだ見込みの段階ではあるが、達成に向けて取り組みを継続する」と述べ、慎重な姿勢を崩さなかった。協会側の試算によると、入場券収入は販売状況に応じて上下する可能性があり、単価が割引チケットや団体券の比率によって変動する点も考慮されている。
一方で、協会は夜間イベントの拡充や広報強化を継続しており、黒字の条件となる販売ペースの維持には一定の戦略的裏付けがあるとみられる。特に8月中の山場を越えた後、9月以降の動員力をどう維持するかが次の課題とされている。
黒字見通しに対する関西経済界の反応整理
このように、関西の財界関係者からは前向きな受け止めが相次いでおり、万博の成否を“黒字化”で評価するフェーズから、次の議題である「閉幕後の活用」へと視点が移り始めている。
予備費の少なさと販売鈍化リスク
大阪・関西万博の運営費に対して、協会側は約50億円の予備費を計上しているものの、これは全体の数%に過ぎない。想定外の支出――たとえば酷暑対策や追加警備、海外要人の警護対応などが発生した場合、わずかな黒字幅はすぐに相殺される可能性がある。
さらに、現在の入場券販売ペースは、夏休みや花火大会といった季節要因に支えられたものであり、9月以降に販売が鈍化すれば収支見通しも再び不安定化しかねない。吉村知事が「まだ見込み段階」と慎重な表現を選んだ背景には、こうしたリスク要因への警戒がある。
経済界が黒字を望んだ本当の理由
関西経済界が「黒字化」に強くこだわってきた背景には、自らが協賛金という形で巨額の資金を提供してきた経緯がある。万博が単なる“イベント”ではなく、関西全体の国際競争力を高めるための“共通投資”と位置付けられていたからこそ、赤字は許容できないシナリオだった。
また、万博終了後に議論が本格化する「跡地のレガシー活用」――すなわち、国際金融特区やベンチャー拠点化などに予算を振り向ける上でも、黒字で閉幕することは政治的・心理的な正当性を持つ。経済界は、収支以上に“次の資金確保”を視野に入れている。
チケット収支と予備費による黒字化
よくある5つの疑問
Q1. 黒字見通しはどこまで確実ですか?
A1. 損益分岐点1840万枚に対し、1700万枚を突破。週次販売ペースが維持されれば8月中の達成が期待されているが、確定ではない。
Q2. チケットの平均価格はすべて5000円なのですか?
A2. 平均価格は5000円前後と試算されているが、団体券や割引券が含まれるため若干の変動余地がある。
Q3. 運営費1160億円にはどんな支出が含まれていますか?
A3. 人件費、シャトルバス、施設維持、広報などが中心。追加警備や熱中症対策費も含まれる可能性がある。
Q4. なぜ関西経済界は黒字化を重視しているのですか?
A4. 協賛金提供の立場にあり、レガシーへの再投資や国際信用の確保に黒字化が直結するからとされている。
Q5. 今後チケット販売が減速した場合は?
A5. 夏休み明けの販売減速は想定内。協会は夜間イベントの継続や追加プロモーションで対応する方針。
黒字転換と財界の対応から見えた全体像
黒字発表が呼び起こした政治的含意
万博が黒字見通しを得たことで、吉村知事や関西経済界にとっては“次のフェーズ”が正当化されやすくなった。単なる財政の健全性という文脈を越え、跡地活用・IR構想・スタートアップ投資といった将来の成長資源としての万博が位置づけ直された格好である。
一方で、予備費の薄さや収支前提の脆弱性は、政・財・市民の間に潜在的な温度差を生んでいる。黒字であることが「すべて順調だった」と短絡的に受け止められた場合、本来議論すべき課題――施設の維持管理費負担や、閉幕後の責任分担問題――が置き去りにされかねない。
黒字という事実そのものよりも、それを“誰がどう使おうとしているのか”という文脈のほうが、むしろ今後の議論を左右する論点となっていく。