
ヒコロヒーさんの短編集『黙って喋って』(朝日新聞出版)が第31回島清恋愛文学賞を受賞したことが、2025年7月31日に発表された。恋人との関係に揺れる女性心理や不倫の葛藤などを描いた18篇が評価され、芸人としては初の同賞受賞となった。学生推薦が導入された選考方式や今後の展開も注目されている。
ヒコロヒーが恋愛文学賞
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
ヒコロヒーさんの短編集『黙って喋って』(朝日新聞出版)が、2025年の第31回島清恋愛文学賞を受賞した。バラエティ番組で活躍する芸人として知られる彼女にとって、初の小説受賞作となる。発表は7月31日、贈呈式は9月に金沢学院大学で行われる予定である。
作品の描写と選考結果
『黙って喋って』は、恋愛にまつわるさまざまな距離感や、関係の揺れを描いた短編18作品からなる小説集である。表題作では、浮気を繰り返す恋人との関係を断ち切れない女性の心理が、切実な一人称で描かれていた。さらに、友情とも恋愛ともつかない関係や、不倫、別れの予感を孕む再会など、いずれの編も「今そこにある違和感」をリアルに切り取っていたと報道されている。
受賞作の発表は7月31日付で金沢学院大学から行われ、同賞としては初めてお笑いタレント出身の作家が選出された。選考委員のひとりは「言葉を生業とする彼女ならではの視点と文体に引き込まれた」と講評していたという。
今回の選考では、学内の学生による推薦が反映されているという。金沢学院大学の公式発表によれば、候補作品の選出に際しては、学生グループが約20作品から数点を事前に抽出。そのうえで選考委員会による最終決定が下されたという仕組みが紹介されていた。
学生推薦を組み込んだ方式は他の主要文学賞にはあまり例がなく、ヒコロヒー作品のもつ“今”の共感性が若い世代に届いた証左とも受け取れる。
| 整理項目 | 内容 |
|---|---|
| 賞の創設年 | 1994年(石川県美川町/現・白山市) |
| 運営主体 | 金沢学院大学(現在) |
| 主な過去受賞者 | 林真理子(2013年)、三浦しをん(2018年) |
| 今回の特徴 | 学生推薦→芸人作家の選出→ジャンルの越境性 |
学生が選ぶ文学賞という位置づけ
島清恋愛文学賞では、学生たちが自らの感性で候補作を選び出す方式が採用されている。大学公式の説明によれば、約20作品の候補を読んだ学生グループが複数の推薦作を提出し、教員と選考委員が最終審議に臨む形式であった。今回、芸人として知られるヒコロヒーさんの作品がこの学生層に強く支持されたことは、文学賞としての価値観の広がりを示す結果ともいえる。
文学と芸人文化の越境に見える時代性
“お笑いタレント初の受賞”という点が注目される一方で、ヒコロヒーさん自身は「言葉を生み出す」職業に長く携わってきた。これまでの舞台やエッセイ、トーク番組で見せてきた一人語りの構成力が、小説という形式に変換されたとも捉えられる。漫談における語りの間(ま)や、矛盾した感情を含んだ語彙の選び方が、恋愛というジャンルの中で新しい響きを持って伝わったとすれば、それは芸人としての経験と文学的表現が交錯した結果だといえる。
選考までの流れと受賞決定の手順
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 候補作品の読書会 | 学内で学生有志による読書グループを編成 |
| ② 学生推薦リスト提出 | 読了後、推薦候補作を大学側に提出 |
| ③ 教員・委員による再審査 | 推薦作品を選考委員と大学教員が精査 |
| ④ 受賞作決定 | 受賞者を決定し、7月31日に公表 |
| ⑤ 贈呈式実施(予定) | 2025年9月に金沢学院大学で開催予定 |
FAQ|よくある5つの疑問
Q1. ヒコロヒーは過去に小説を書いていた?
A1. 本作『黙って喋って』が初の短篇集だが、以前からエッセイ『きれはし』(Pヴァイン)など著作活動は行っていた。
Q2. 島清恋愛文学賞の他の受賞者には誰がいる?
A2. 林真理子(三面記事小説)、三浦しをん(あの家に暮らす四人の女)など、著名な純文学作家が複数いる。
Q3. 芸人で小説を書いた人は他にもいる?
A3. 又吉直樹(火花)などが有名だが、恋愛文学のジャンルで正式な文学賞を受けたのはヒコロヒーが初。
Q4. 学生が選ぶ賞はほかにもある?
A4. 「高校生直木賞」「学生小説大賞」などが存在するが、島清賞のように正式な選考工程に学生推薦が組み込まれている賞は少ない。
Q5. ドラマ化や映像化の可能性は?
A5. 現時点で映像化は発表されていない。ただし、18編の短篇構成と作家本人の知名度を踏まえると、将来的な展開の可能性はある。
全体のまとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受賞者 | ヒコロヒー(1989年生・芸人) |
| 作品 | 『黙って喋って』18篇の短篇集 |
| 評価 | 恋愛の葛藤や切なさをリズムある文体で描写 |
| 選考 | 学生推薦→大学審査委員→正式決定 |
| 意義 | 芸人と文学の越境、若い読者の視点反映 |
| 今後 | 9月に贈呈式、映像化の可能性も示唆されている |
文学賞という制度と“痛み”の描写の交差点
『黙って喋って』が注目された理由の一つに、“恋愛における傷つき方の多様さ”があった。本作では、「言えない」「言われない」「続けてしまう」という曖昧な感情の連鎖が、平易な語り口のなかで執拗に繰り返されていた。
文学賞とは、作品そのものだけでなく、誰が、どういう立場で書いたかにも評価の視点が及ぶ制度である。芸人としての活動を続けながら、表現として小説を選んだヒコロヒーさんの姿勢は、「自分を語る手段」としての文学の可能性を改めて示した。
そして、それを受け取ったのが若い学生たちだったという事実は、“読む側”の変化をも証明している。