
猛暑で“海のミルク”に異変。2025年のカキは成長が遅れ、広島で水揚げ20日遅れ、宮城は出荷延期。一方、福岡・糸島では大ぶりで豊作。海水温と潮の流れが変えた“旬の境界線”を追う。
2025年の秋カキに異変
猛暑で小ぶり続出
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秋の味覚・カキに異変 猛暑の影響で成長遅れ、小ぶりが目立つ2025年
産地別にみるカキの異変と明暗
広島・宮城で相次ぐ遅れ、糸島では豊作も見られる
秋の味覚として親しまれるカキに、2025年は異変が起きている。
例年ならぷりっとした大ぶりの身が楽しめる時期だが、今年は夏の猛暑で海水温が高止まりし、全国の産地で生育が遅れている。
日本一の産地・広島県では、養殖カキの水揚げ開始が例年の10月1日から約20日遅れとなった。海水温の上昇で稚貝の成長が鈍り、予定より小ぶりのまま育っているという。現地の漁業関係者は「10月半ばを過ぎても殻の中が十分に育たない年はまれ」と話している。
宮城県石巻市でも例外ではなく、県漁協は品質検査の結果を踏まえて、例年9月29日としていた出荷解禁を10月27日へ延期した。検査で確認された個体は全体的に小さく、漁協は「十分な大きさに達するまで待つことで品質を守りたい」としている。
一方、福岡県糸島市では明るいニュースもある。前年は台風や高水温で大きな被害を受けたが、今年は海水温の急変が少なく、穏やかな気象条件が続いた。海中のロープには大ぶりのカキがびっしりと実り、早くも漁港では豊かな水揚げが始まっている。現地のカキ小屋関係者は「昨年の不作から一転し、例年以上の身入りになりそう」と笑顔を見せた。
原因は“長すぎた夏”と海水温の高止まり
今年の異変は、気象庁が記録的とした猛暑の長期化が背景にある。
カキの生育は水温が20度前後で安定するとされるが、夏以降も海水温が25度を超える日が続き、成長に必要なプランクトンの発生が抑制された。餌が減るとカキは成長を止め、殻の中の身も育たないままになる。
漁業関係者によると、広島湾では水温の高止まりが続いたため「通常より2週間以上遅れてようやく出荷サイズに届いた」。宮城沿岸でも同様の傾向が見られ、昨年に続く遅延で漁期の調整が難しくなっている。
一方、糸島のように夏の高温が短期間で終わった地域では、秋口にかけて海水温が安定し、例年並みの成長を維持した。地域による差が大きく出たのは、気象条件と潮流の違いによるものとみられている。
主要産地の出荷スケジュール比較
今後の見通しと消費者への影響
東京の飲食店では、各地から届くマガキが「例年より小ぶり」との声が多く聞かれる。
都内の店長は「小さいサイズが多く、仕入れの見直しが必要」と話し、別の店では「量の確保が難しいため価格を上げざるを得ない」とする声もある。
ただ、糸島など一部の産地では大ぶりの個体が出回り始めており、秋の終わりから冬にかけて供給のバランスが戻る可能性もある。
漁協関係者は「水温が下がれば一気に成長が進む」として、11月以降の回復を期待している。
消費者は購入時に産地と出荷日を確認し、解禁日以降の新鮮なカキを選ぶことが推奨される。例年よりサイズが小さい場合も、味わいは濃く、身が引き締まっていると評判だ。
カキの成長を左右した海水温と潮の流れ
今年のカキの生育遅れは、単なる気温上昇だけでは説明できない。各地の水産試験場が観測したデータによると、8月から9月にかけて海水温が高止まりし、湾内の潮の動きが弱まった地域では酸素量が減少した。
カキは低酸素状態に弱く、十分な栄養を取り込めないため、成長が止まりやすい。広島湾や宮城の沿岸では、夏場のプランクトン量が減少したと報告されている。
これに対し、潮の流れが比較的安定していた糸島では、酸素や栄養塩が循環しやすく、結果的に生育が進んだ。
地元の漁業者は「夏の間に海が動かないと、秋に成長しにくくなる。潮と風が戻ることでようやく身が太る」と話している。
環境の違いがそのまま収穫量やサイズの差につながった形だ。
気候変動が生む“海の季節感のずれ”
2025年の猛暑は、単発の気象現象ではなく、近年の地球温暖化の影響とみられている。
気象庁によると、西日本から東北にかけての海面温度は平年より最大で2度ほど高く、過去10年で最も長期間高い状態が続いた。
この「長すぎる夏」が、海の季節を変えている。
カキだけでなく、ノリやワカメなどの冬の養殖作物にも影響が出始めており、海の生態リズムが後ろ倒しになっていると研究者は指摘する。
生産者は温度に強い品種や、深い水域での養殖に切り替える試みを進めており、今後の持続的な生産に向けた適応策が問われている。
生育遅延と環境要因の関係
猛暑・高気温
↓
海水温上昇
↓
プランクトン減少・酸素低下
↓
カキの成長抑制・小型化
↓
水揚げ時期の遅れ
↓
供給量減少・価格上昇
↓
消費地で小ぶりな個体が増加
消費者と地域が向き合う新しい“海の季節”
今回の異変は、食卓に届くまでの時間と手間を再認識させるきっかけにもなった。
広島や宮城では遅れが出た一方で、糸島のように環境条件が整った地域では、地域資源の守り方が評価された。
生産現場と消費地が「どんな環境で育ったカキを選ぶか」を意識することが、これからの食文化の形につながる。
また、飲食店では小ぶりのカキを活用した新メニュー開発が進んでおり、サイズの違いを味わいに変える動きも始まっている。
「異変」を悲観ではなく、新しい“海の個性”として受け止める視点が求められている。
❓よくある質問(FAQ)
Q1:なぜ今年は小ぶりのカキが多いのですか?
A1:猛暑で海水温が高止まりし、カキの餌となるプランクトンの発生が減ったため、成長が遅れました。
Q2:広島や宮城のカキはいつ頃から出回りますか?
A2:広島は10月下旬、宮城は10月27日ごろから本格出荷が始まります。
Q3:味や安全性に影響はありますか?
A3:漁協の検査を経て出荷されており、安全性に問題はありません。小ぶりでも味は濃厚で、旬の旨みが感じられます。
Q4:豊作と報じられた糸島産の特徴は?
A4:台風被害が少なく、海水温の変化も小さかったため、身が厚く甘みが強い個体が多く見られます。
Q5:今後もこの傾向は続きますか?
A5:気温の高止まりが続けば同様の影響が起こる可能性がありますが、水温が下がれば回復も期待できます。
総合要約表:2025年のカキ異変をめぐる全体像
気候変動とともに変わる“旬”のかたち
今回のカキの異変は、単なる天候不順ではなく、「旬」という日本の食文化の定義そのものを揺さぶった。
これまで“10月になればカキ”という感覚が当たり前だったが、季節のずれが続けば、私たちは「暦で味わう」から「海の環境で味わう」へと意識を変える必要がある。
生産者が環境変化に対応する努力を続ける一方で、消費者側も「旬の時期が毎年少し違う」ことを受け入れる柔軟さが求められる。
小ぶりでも濃厚な味、遅れて届くぶんだけ深まる旨み——変化を受け入れることで、むしろ“新しい季節の味覚”が広がる。
2025年の秋は、海の中で起きている気候変動を、私たちの舌で感じる年となった。
2025年の秋は、長引いた猛暑の影響が「海のミルク」と呼ばれるカキにも及んだ。
広島・宮城では記録的な遅れが出た一方、糸島では豊作の兆しが見られるなど、地域ごとの明暗が分かれている。
海水温の推移次第で今後の成長にも差が出るとみられ、漁業者にとっても消費者にとっても“海の季節感”を取り戻せるかどうかが焦点となる。