消費者庁はP&Gジャパンに対し、浴室用「ファブリーズ防カビ剤」の表示に合理的根拠がないとして景品表示法違反で措置命令を出した。対象は販売終了品だが、表示の影響力を重視した対応となった。企業側は表示適正化と再発防止に取り組む姿勢を示している。業界への波及も注目される。
P&G「防カビ剤」に措置命令
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2025年8月1日、消費者庁は家庭用品大手のP&Gジャパンに対し、同社が過去に販売していた浴室用製品「ファブリーズ お風呂用防カビ剤」の広告表示が景品表示法違反に当たるとして措置命令を出した。対象となった表示は、効果の持続期間や成分の広がり方などを強調していたが、提出された根拠資料が合理的とは認められなかったという。企業側は「販売はすでに終了している」とした上で、表示の適正化に取り組む方針を明らかにしている。
表示内容と措置命令の経緯
消費者庁は、2025年8月1日にP&Gジャパン合同会社に対して措置命令を出したと発表した。対象となったのは「ファブリーズ お風呂用防カビ剤」シリーズで、主に2022年4月15日から2023年5月18日まで販売・広告されていた製品群である。
製品のパッケージや広告には、「お風呂に置くだけで黒カビを防ぐ」「防カビ効果は約6週間持続します」などの表示がされていた。さらに「BIOコートテクノロジーによってお風呂場の隅々まで成分が広がる」との説明が、消費者の印象に強く作用したとみられている。
これに対し、消費者庁は企業側に対し合理的根拠資料の提出を求めた。しかし、提出された資料は狭い空間での実験にとどまり、実際の使用環境での効果を合理的に説明するには不十分と判断された。
このため、表示は景品表示法第5条第1号(優良誤認)に該当するとされ、企業には表示違反を周知させるとともに、再発防止策の策定・報告が命じられた。
P&Gが公表した対応方針と説明
P&Gジャパンは措置命令の発表後、「命令を厳粛に受け止め、表示内容を精査のうえ、適正な広告表現に努めていく」とのコメントを発表した。あわせて、該当製品はすでに2年以上前に販売を終了しており、現在は市場に出回っていないとの見解も明示された。
企業側は今後、社内の広告チェック体制を見直すとともに、第三者による根拠評価の導入も含めた再発防止策を検討しているという。
表示内容と根拠不備の対応整理表
他製品や業界全体への波及
今回の措置命令は、販売が終了した製品であっても、表示の影響力が残る限り法的責任が問われることを明確に示した点で注目されている。特に「置くだけ」「○週間持続」などの表現は、家庭用品業界全体で広く使用されており、同様の訴求を行っていた製品への見直しが迫られる可能性がある。
また、除菌・防カビといった衛生関連商品の広告については、科学的根拠の信頼性を厳しく問う流れが続いており、今後も消費者庁のチェックが強化されるとみられている。表示における「BIO」「自然」「広がる」といった感覚的ワードも、実効性がない限りは誤認にあたるという行政の姿勢が改めて明示された形となった。
今後の行政対応と再発防止の展望
消費者庁が出した措置命令では、P&Gジャパンに対し、違反表示の内容を消費者に周知徹底するとともに、**再発防止策の策定と報告(90日以内)**を求めている。
一般的にこの義務には、以下の3つの柱が含まれるとされる:①社内広告審査体制の強化、②専門機関による表示根拠の再確認、③関連部署への再教育の実施。P&Gジャパンは現時点で「対応を慎重に検討中」としており、体制の具体的見直し案は明らかになっていないが、今後の報告義務内で詳細が公表される見通しである。
また、今回の判断を契機に、他社製品にも影響が及ぶ可能性がある。とくに「○週間効果が続く」など期間を明示する製品については、合理的根拠の提出を求められる事例が増えることが予想される。
表示を見極めるための消費者視点
今回の措置命令を受け、消費者が製品表示を見極める際に意識すべき観点は以下のとおりである。
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「置くだけで効果」や「〇週間持続」といった表現には、裏付けとなる試験条件が存在するかを確認すること
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「BIO」「ナチュラル」「自然発想」など、イメージ訴求が強い語句の効果については、過信しすぎないこと
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製品サイトやパッケージに試験内容・条件・期間・試験機関が書かれているか確認すること
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販売終了製品であっても、広告物が残っていればその影響力は継続していると認識すること
このように、商品表示は「印象」だけでなく「根拠」に基づいて見極める習慣が必要とされている。
措置命令から報告義務までの流れ
時点 | 主な出来事 |
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2022年4月~ | 問題の防カビ剤が市場流通(表示あり) |
2023年5月 | 表示期間終了(消費者庁が把握) |
~2025年初 | 調査・資料提出要請・根拠審査 |
2025年8月1日 | 措置命令公表(優良誤認表示認定) |
2025年10月下旬(予定) | P&Gによる再発防止策の報告期限(90日以内) |
よくある5つの疑問
Q1. 販売終了品でも措置命令が出るの?
A1. はい。消費者庁は「販売が終了していても、表示の影響が残っている」と判断した場合、措置命令の対象にします。
Q2. 企業は罰金を払うことになるの?
A2. 現時点では措置命令のみですが、違反の程度や再発防止策次第で、課徴金命令(売上の3%上限)が科される可能性があります。
Q3. BIOコートテクノロジーは嘘だったの?
A3. 表示内容に対して「合理的根拠がなかった」と判断されただけで、効果そのものが「虚偽」だと断定されたわけではありません。
Q4. 他のファブリーズ製品は大丈夫?
A4. 現時点で措置命令が出たのは本件製品のみですが、今後、他製品の表示も監視対象になる可能性があります。
Q5. 表示の正しさはどうやって見抜けばいい?
A5. 「〇週間持続」「置くだけ」など簡潔な表現には注意し、可能であれば試験根拠や製品資料を確認するのが望ましいです。
全体のまとめ
区分 | 内容 |
---|---|
主な対象 | P&Gジャパンの「ファブリーズ お風呂用防カビ剤」 |
指摘内容 | 効果の持続性や成分の広がりに関する優良誤認表示 |
判断根拠 | 根拠試験の条件(空間・換気等)が実態に即していなかった |
措置内容 | 景品表示法に基づく表示是正命令+周知+再発防止の義務 |
企業対応 | 「厳粛に受け止めて精査・検討」/販売は2年以上前に終了済 |
社会的影響 | 表示期間やBIO成分表現を含む全広告の再点検対象に拡大可能性あり |
措置命令が示す市場管理の強化姿勢
今回の措置命令は、表示期間が過去であっても企業に法的責任を求めるという、景品表示法の運用がより厳格化していることを示す象徴的な事例である。
とくに、消費者の誤認を防ぐ目的であっても、「置くだけで〇〇できる」「自然成分で〇〇する」といった表現は、その実証に十分な合理性がなければ許容されないという基準が強調された。
今後は家庭用品業界においても、広告表現を「印象」ではなく「検証可能性」で設計することが求められ、製品開発と広告部門がより緊密に連携する体制整備が急務となる。