ルネサスが2025年1〜6月期の中間決算で最終赤字1,753億円を計上。主因は、支援先の米Wolfspeed社が破産法申請に至ったことによる評価損2,350億円の一括処理。営業黒字は維持され、本業への直接影響は限定的とされている。
ルネサス、支援先の破産で1,753億円赤字に
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半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、2025年1〜6月期の中間連結決算で1,753億円の最終赤字に転落した。主な要因は、経営再建支援を行っていた米ウルフスピード社への評価損2,350億円を一括で計上したことにある。EV向け次世代半導体として注目されてきたSiCデバイスの供給網を維持する目的での支援判断だったが、破産法申請という展開を受け、非現金性の費用が重くのしかかった。営業利益自体は黒字を確保しており、車載需要や本業の基盤は堅調さを維持している。
支援評価損の計上と赤字転落
2025年上半期に発表されたルネサスの中間決算では、最終損益が1,753億円の赤字となった。前年同期には1,395億円の黒字を記録していたことから、極めて大きな落差であることが確認された。
この損失の中心に位置していたのが、米国のSiCデバイス専門企業・ウルフスピードに対する支援措置に伴う2,350億円の評価損である。ルネサスは長期的なSiCウエハーの供給を確保する目的で、同社と資本提携や供給契約を進めてきたが、2025年6月にウルフスピードが連邦破産法11条を申請したことで、会計上の損失処理が不可避となった。
この評価損は、現金流出を伴わない非現金費用であり、事業の継続性やキャッシュフローへの直接的な影響は限定的とされている。しかし、決算へのインパクトは大きく、2025年上半期の最終損益を大幅に押し下げる結果となった。
長期供給契約の維持と支援決定の経緯
ルネサスは、車載用次世代半導体であるSiCデバイスの中長期的な安定供給を見据え、米ウルフスピード社と長期供給契約を締結していた。この契約には、一定の出資・支援を通じて製造体制の拡充を図るという合意が含まれていた。
ウルフスピードは、8インチSiCウエハーの量産を目指して巨額の設備投資を行ってきたが、世界的なEV需要の伸び悩みや資金調達難が重なり、債務比率が急上昇。結果的に破産手続きに至った。ルネサスは供給関係の継続を最優先とし、再建支援に踏み切ったものの、財務的には一時的な評価損の計上を余儀なくされた。
再建支援の主目的と財務影響の対比
営業黒字の維持と半導体需要の現状
今回の決算では最終損益こそ赤字となったが、営業利益は黒字を維持していた。前年同期比では約3割減少しているものの、車載向けを中心とした本業の需要は安定しており、半導体市況全体としても極端な悪化は見られていない。
特に、産業機器向けや汎用マイコン領域では、受注の底堅さが継続しているとされており、売上構成比で見た際のリスク分散が機能していたことがうかがえる。EV需要の再拡大が見込まれる2026年以降に向けて、今後の投資判断や出資戦略の見直しが焦点となる。
供給網優先からの見直しと委員会の動き
ルネサスは、今回の決算発表において、大型出資案件の審査体制を見直す方針を明らかにした。取締役会内に設置された投資委員会が監査体制を強化し、今後は資本提携に際してのガバナンス条件や出資比率の精査を徹底するという。
これまで同社は、「供給網の維持」を最優先とする投資戦略を進めてきたが、今回の評価損計上を受け、その前提に対するリスク認識を改める必要があるとの認識を示した。今後は技術的優位性だけでなく、財務面での安定性や経営透明性にも着目した判断基準が求められる。
支援判断の基準と透明性の検証視点
ルネサスによる支援判断は、供給継続と市場シェアの維持という観点からみれば、一貫性を保っていた。だが、再建先の財務基盤や資金調達状況についての監視が十分だったかという点は、今後の検証対象となる。
評価損の一括処理により、表面上のインパクトは大きく映るが、決算説明会では再建後に株式や社債の転換が行われる可能性にも触れられていた。これは供給契約を履行しつつ、中長期での関係再構築を模索する姿勢と解釈できる。
再建支援に至る経緯と対応の流れ
FAQ|よくある5つの疑問
数字と発言から整理する今回の決算要点
項目 | 内容 |
---|---|
公表日 | 2025年7月24日 |
純損益 | ▲1,753億円(前年同期:+1,395億円) |
主因 | 米Wolfspeed支援に伴う評価損2,350億円の一括計上 |
会計処理 | 非現金性の評価損で資金流出は限定的と説明 |
営業利益 | 黒字維持(前年同期比で約30%減) |
再建計画 | 株式取得や社債転換で供給契約を維持する方針 |
委員会方針 | 投資審査体制を厳格化(取締役会が説明会で表明) |
支援の是非と投資判断への影響評価
今回のルネサスの決算は、単なる財務悪化の表面ではなく、支援判断の妥当性と今後の投資スタンスの再定義が問われる局面となった。
技術的には、EV向けのSiCデバイスを中心とした中長期的な供給網の確保という戦略的意図は理解できるが、パートナー企業の財務リスクや資金繰りの脆弱性を見抜けなかった点は重い。
取締役会による審査体制の強化は、今後の投資判断において透明性と再発防止の鍵となる。スタートアップとの戦略提携においては、単なる技術優位だけでなく、財務的安定性や継続性を見極める体制の構築が不可欠だと示された決算といえる。