
全国の国道で過去10年間に確認された陥没・空洞が1157件にのぼることが判明。主因は埋設管の破損による土砂流入で、1km圏内で複数発生したケースも多数。読売新聞による独自集計とともに、国の対応や今後のリスクを整理。
国道の陥没・空洞1157件
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国道の“見えない空洞”が1157件に ― 読売新聞による10年分の調書分析で判明
全国の国道において、2015年度から2024年度までの10年間で計1157件の陥没・空洞が見つかっていたことが、読売新聞が国土交通省の各地方整備局などに情報公開請求を行い独自に分析した結果、明らかになった。
発生原因の約4割強は、下水道や排水管の破損によって土砂が吸い込まれる「吸い込み」型の陥没で、施工不良などによるものと合わせると約7割に達していた。また、1キロ圏内で複数の事例が発生しているケースも全体の4割を超えており、地中の老朽化インフラが密集するエリアでは「連鎖陥没」のリスクも浮かび上がった。
発生件数の分析と地中要因の集中
読売新聞の報道によれば、2015~2024年度に全国の国道(国直轄区間:約2万4000km)で確認された陥没・空洞の発生件数は計1157件にのぼっていた。内訳は、地表の崩落など明確な開口が見られた**「陥没」730件と、地中探査等で確認された「空洞」427件**である。
都道府県別では、高知県が78件で最多となり、次いで石川県(63件)、鳥取県(62件)、千葉県(59件)、島根県(55件)と続いた。これらの県は、いずれも地形的に降雨量が多く、斜面地や埋設管の老朽化が目立つ地域である。
吸い込み型被害の実例と事故影響
被害の主因として最も多かったのは、埋設された管の腐食や破損により、周囲の土砂が管内に流入して空洞を形成する「吸い込み」型の陥没で、全体の509件(44%)を占めた。次いで、施工時の地盤締め固め不足などによる**「施工不良」259件(22%)**が多く、これら2つの要因で全体の約66%に達していた。
実例として、2024年1月に埼玉県八潮市で発生した陥没事故では、1983年に埋設された下水道管が破損し、管内に土砂が流れ込んだ結果、幅40メートル・深さ15メートルの巨大な空洞が形成された。この事故では、通行中のトラックが転落して運転手が死亡したほか、県内12市町で一時的に下水道の使用を控えるよう要請が出された。
時系列と原因分類による整理表
空間分布と再発リスクの可視化
注目されるのは、1キロ圏内で複数の陥没・空洞が確認された事例が521件(45%)に達していた点である。地中の配管は一般に同年代・同工法で敷設されているため、同一の設計・素材に由来する不具合が“連鎖陥没”として表出する傾向がある。
たとえば、埼玉県越谷市の国道4号「大間野交差点」では、2022年から2024年の3年間に同じ排水管の腐食・破損が原因となる陥没が3件発生していた。こうした“地中の再発ポイント”を予防的に特定し、集中点検や更新を行う体制整備が求められている。
国交省の探傷車導入と対応の限界
国土交通省は今回の事例を受け、道路下の空洞を非破壊で検出できる「地中探傷車(GPR搭載車)」を活用した全国巡回調査を段階的に進める方針を示している。とくに、老朽インフラが集中しやすい都市部では、重点監視エリアの抽出が検討されている。
一方で、現在の対象は国直轄の国道に限られ、自治体管理の道路(県道・市道など)にまで調査が及んでいない点が課題として残っている。特に地方では、インフラ台帳の未整備や点検の人的リソース不足により、埋設管の把握すら困難な自治体も存在している。根本的な管理体制の拡充が急務とされる。
緊急輸送路としての国道と市民影響
陥没事故がもたらす影響は、単なる通行止めや交通障害にとどまらない。多くの国道は災害時の「緊急輸送道路」にも指定されており、地震や豪雨の際には救援物資・人命救助の最前線ルートとなる。その通行機能が突発的に失われれば、避難や支援の初動が遅れるおそれがある。
また、生活道路として利用している住民にとっては、通学・通勤・買い物・救急搬送といった日常の動線が分断される。とりわけ郊外のバス路線では、1本の陥没が広範囲に影響を及ぼす例も報告されている。地中の「見えない危険」が生活に与える影響を、制度の枠を越えて想定することが求められている。
吸い込み型陥没の発生メカニズム
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① | 老朽化した下水道・排水管の接合部にひび割れが生じる |
| ② | 雨水や地下水とともに周囲の土砂が管内に流入する |
| ③ | 管の外側に徐々に空洞が形成される(初期は沈下なし) |
| ④ | 路面上に小さな亀裂や段差が現れる |
| ⑤ | 地盤が支えを失い、一気に崩落(陥没)する |
| ⑥ | 車両や歩行者が巻き込まれる事象に発展する |
FAQ|よくある5つの疑問
Q1:陥没はどうすれば防げるのか?
A1:探傷車による空洞検知や、下水管などの定期的な更新が効果的です。ただし、自治体によって実施状況に差があります。
Q2:異常の前兆は見えるの?
A2:小さな段差や亀裂、舗装の浮き上がりなどが前兆になることがあります。異変に気づいたら通報が重要です。
Q3:陥没が多い地域には特徴がある?
A3:築年数の古い埋設管が集中し、地盤が軟弱な地域で多く発生しています。雨量の多い県や沿岸部でも増加傾向にあります。
Q4:市民側にできる予防策は?
A4:通報制度を活用するほか、自治体が提供している「道路通報アプリ」などで写真送信も可能です。
Q5:なぜ対応が遅れるの?
A5:地中の管路は視認できず、台帳が整っていない自治体では発見まで時間がかかります。調査予算や技術者の不足も影響します。
被害実態と行政対応の要点整理
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害件数 | 10年間で1157件(陥没730/空洞427) |
| 主因構成 | 吸い込み型:509件(44%) 施工不良:259件(22%) |
| 地理的集中 | 1km以内に複数発生:521件(45%) |
| 対応状況 | 国直轄のみ探傷車調査/自治体道は対象外多数 |
| 今後の課題 | 管路台帳整備・AI分析導入・更新計画の加速化 |
見えない老朽インフラが招く社会リスク
地上の整備が進む一方で、私たちは「地中の老朽化」を見落としていた代償を突きつけられている。
地盤沈下や陥没は突発的な事故に見えて、実際は何年も前から静かに進行していた「予見可能な危機」だった。
公共インフラの寿命を管理する制度は存在しても、実際の更新・点検率は自治体間でばらつき、国道ですら“点検が追いつかない”現実が示された。その背後には、責任分散と財源不足、そして「見えないものは後回しにされやすい」という制度外の心理がある。
事故は一瞬だが、放置は何年にも及ぶ。八潮のような致命的事故を未然に防ぐには、単なる技術導入にとどまらず、国と自治体、インフラ管理者が“同じ地下”を見て動く体制こそが求められている。