
自動車部品大手マレリホールディングスは、米国で連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請し、ドイツ銀行など金融機関の主導下で再建を進めると発表しました。主要債権者との合意に基づく債務圧縮とDIPファイナンスの確保により、事業継続を図ります。日産自動車などへの供給は維持され、2026年中のチャプター11脱却を目標としています。
マレリ、チャプター11適用で再建へ
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自動車部品大手のマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)は、経営再建に向けてドイツ銀行などの金融機関主導による支援体制のもとで再起を図る方針を示した。2025年6月に米国で連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請しており、2026年の適用脱却をめざすという。日産自動車など主要顧客への部品供給は継続する方針とされ、今後の再生計画の進行と債権者構成の変化が注目されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表主体 | マレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ) |
| 発表内容 | 金融機関グループの支援下での再建計画を公表 |
| 法的手続き | 2025年6月に米連邦破産法11条(チャプター11)適用申請 |
| 支援主体 | ストラテジック・バリュー・パートナーズ(SVP)、ドイツ銀行などの債権者連合 |
| 今後の見通し | 2026年の再建完了(チャプター11脱却)を目標に調整中 |
チャプター11申請と支援主導の確定
2025年6月、マレリホールディングスは米国デラウェア州の連邦破産裁判所において、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請したと発表していた。日本でいう民事再生法に相当するこの手続きは、取引先との関係を維持したまま事業を継続し、再建の道筋を整える制度である。今回の申請は、債務削減と財務基盤の再構築を目的としたものであり、従業員の雇用や主要顧客との取引継続を前提に計画されたと報道されていた。
再建支援にあたっては、ストラテジック・バリュー・パートナーズ(SVP)とドイツ銀行を含む金融機関グループが主導権を握る枠組みが確定したとされる。これは、入札期限までに他のスポンサー候補による優越提案が出なかったことを受けて、当初から支援を表明していた金融債権者連合の計画が採用された形である。
発表文に記された再建案と債務圧縮の規模
金融機関主導の支援案には、数千億円規模の債務削減が含まれており、具体的には既存の債権を株式に転換する「デット・エクイティ・スワップ」が中核を成すと報じられていた。また、DIPファイナンスと呼ばれる再建支援資金の提供も行われ、手続き中の資金繰りも確保されたと説明されていた。
マレリ側は、2026年までの再建完了を目標に据えた計画を関係機関に提示し、米裁判所の承認を経て正式な「再建支援合意(Restructuring Support Agreement)」の成立をめざしていると伝えられていた。
債務圧縮と支援枠組みの整理
再建目標と日産自動車との関係維持
マレリは、旧カルソニックカンセイ時代から日産自動車の主要部品供給元として知られており、現在も内装・電装系パーツをグローバルに供給している。再建手続き中も日産をはじめとする主要OEMとの取引は継続する方針とされており、債務圧縮後も業務に支障が出ないよう配慮されている。
また、今回の再建スキームでは、事業売却や大規模な人員削減ではなく、経営権の再構成と財務面の立て直しを重視する内容が中心であり、雇用と国内取引先への影響を最小限にとどめる意図が示されていた。中でも日産との関係維持は、マレリにとっても債権者側にとっても事業継続性を裏付ける重要な要素となっている。
再建完了目標と再編後の課題整理
マレリは、米破産裁判所に提出した再建計画案において、2026年中のチャプター11適用からの脱却を目標として掲げていた。現時点では裁判所による正式承認は得られていないものの、再建支援者である金融機関連合との間では合意済みのスキームとされ、2025年下期から本格的な再編プロセスが進行するとみられている。
同社は、DIPファイナンスによる資金注入を受けながら、既存の事業体制を温存しつつ収益改善に注力する方針を示しており、資産売却など抜本的な縮小策は現時点で明示していない。ただし、部品業界全体がEV転換を迫られる中で、既存の内燃機関向け部品の需要減少や、人件費・原材料コストの上昇など、外部要因への対応力が今後の焦点となる。
部品業界の下請け企業と国内雇用への波及懸念
マレリの再建が国内の取引先や下請け事業者に与える影響については、部品供給の継続可否だけでなく、再編後の購買条件の変更や支払いスキームの見直しなど、実務面での変化が注視されている。特に地方に拠点を持つ中小の協力工場では、取引が継続するか否かが雇用維持に直結するケースも多く、マレリの発注動向に依存する企業にとっては、今回の法的手続きが“無風”とは言い切れない状況にある。
一方で、マレリ側は主要工場の操業継続を優先する姿勢を示しており、従業員への影響や再編に伴う急激なリストラ策は採られていない。再建の過程でどの程度、国内サプライチェーンの信頼を維持できるかが、中長期的な信用回復の鍵となる。
マレリ再建に至る経緯と今後の予定
よくある5つの疑問
Q1. マレリの工場は閉鎖されるのか?
A1. 現時点で閉鎖の発表はなく、主要拠点は操業継続方針が示されている。
Q2. 債権は全額返済されるのか?
A2. 一部の債権は株式化されるため、全額返済ではなく債務圧縮を含む再編となる。
Q3. 日産との取引は継続されるのか?
A3. 部品供給は継続される意向が確認されており、日産側も発注停止の動きは見られていない。
Q4. 海外拠点の再建計画は別にあるのか?
A4. グローバル統一の再建スキームが策定されており、欧州・米州子会社も手続き対象に含まれている。
Q5. 今後の業績回復に向けた柱は?
A5. 電動化製品分野(e-Axle・インバータ等)の採算改善と、資金調達構造の正常化が鍵とされている。
全体のまとめ
ファンド不在下での銀行団主導再建が意味するもの
マレリの再建は、典型的なスポンサー型支援とは異なり、ファンドではなく主要債権者である銀行団が主導権を握る形式となった。この枠組みは、民事再生法時代に出資したKKRを含む既存支援主体が関与を後退させる一方で、貸し手としての金融機関が議決権と再建責任を引き受けた形である。
通常、こうした手法は資金面での柔軟性に欠けるとされる一方で、マレリの場合はDIPファイナンスによって一定の運転資金が確保されており、短期的な流動性懸念は和らいでいる。問題は中長期的な経営の独立性と技術投資の確保にあり、銀行団主導という性格上、リスクを伴う研究開発や新分野展開への判断速度が試される。
この再建プロセスは、単なる負債処理を超えて「製造業の金融的再定義」を象徴する一例となった。