近鉄HD社長「万博跡地に出資の可能性」
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近鉄グループホールディングスの若井敬社長が、大阪・関西万博の跡地となる夢洲での事業拡大に意欲を示した。毎日新聞のインタビューで「メインスポンサーにはなれないが、必要があれば出資の可能性も検討したい」と語り、既に少数株主として参画しているIR(統合型リゾート)と同様に、観光や流通を中心に関与を模索する姿勢を明確にした。
若井社長が語った「出資の可能性」
大阪湾の人工島・夢洲は2025年の大阪・関西万博の会場として整備され、2030年秋には統合型リゾート(IR)の開業が予定されている。この跡地利用を巡って、近鉄グループHDの若井敬社長は毎日新聞の取材に応じ、必要があれば出資の可能性を検討する考えを明らかにした。
近鉄はすでにMGMリゾーツ・オリックスが主体となるIR事業会社「MGM大阪」に少数株主として参画しており、地元企業の一角を担っている。若井社長は「旅行やホテル運営、流通など人の動きに関わる事業にチャンスがある」と述べ、夢洲の跡地開発を新たな誘客拠点と位置づけている。
夢洲での誘客施設としての期待
夢洲は万博閉幕後も大阪の観光の要となる可能性が高い。若井社長は「IRと同様に誘客施設になってくることは間違いない」とし、鉄道事業だけでなく百貨店やホテル、不動産など多角的に関与する意向を示した。関西圏に根ざした鉄道会社としての役割を超え、沿線外の大型開発への関心を強めている。
夢洲直通列車と新型観光特急の計画
近鉄は中期経営計画で、2030年秋に予定されるIR開業に合わせ、大阪メトロ中央線と自社各線を直通させる構想を打ち出した。これにより、奈良や京都、伊勢志摩といった観光地と夢洲が一本の列車で結ばれる見通しだ。
さらに、直通列車に投入する新型車両の開発も進めており、豪華観光列車を想定した商品設計を検討している。若井社長は「IRを楽しむメニューの一つとして商品設計を考えている」と述べ、単なる輸送手段ではなく、乗ること自体に価値を持たせる方向性を強調した。
輸送手段から体験価値へ
近鉄が描くのは「移動=体験」とする観光スタイルだ。すでに伊勢志摩方面では観光特急「しまかぜ」が人気を集めており、その成功モデルを夢洲アクセスにも応用する形となる。観光列車とIR、ホテル滞在を一体化した新しい旅行パッケージが誕生すれば、近鉄のブランド価値向上につながることが期待される。
万博効果が生んだ収益の上振れ
近鉄は2026年3月期の連結決算において、万博関連の増収効果を約125億円と見込んでいた。しかし7月末時点で既にその水準を達成し、さらに上振れする見通しを示した。要因は、近鉄百貨店が会場内に出店した公式ストアの売り上げや、ホテルの利用増、大阪―名古屋間を結ぶ特急列車の利用拡大などである。
この結果は、夢洲や万博に関わる事業が鉄道事業以外にも利益を波及させることを示しており、今後の跡地開発に対する経営判断に大きな影響を与えると見られる。
万博跡地と沿線外事業の展開を整理
| 項目 | 万博跡地・夢洲 | 沖縄ジャングリア | 上本町再開発 | 
|---|---|---|---|
| 主体 | 万博跡地の活用・出資検討 | 近鉄出資で7月開園 | 25年度方向性提示 | 
| 特徴 | IR隣接・誘客施設化 | 地元企業と連携(ホテル・不動産) | 商業・住宅・ホテル複合 | 
| 時期 | 2030年秋IR開業に合わせ整備 | 2025年7月開園済 | 28年度までに詳細公表 | 
財務と戦略の両面からみた出資可能性
若井社長が語った「出資の可能性」は、単なる発言にとどまらず中期経営計画の重点戦略とも重なる。近鉄は従来から鉄道や百貨店、ホテルといった沿線事業を柱としてきたが、今後は沿線外にも投資を拡大する方針を掲げている。
夢洲の跡地開発に出資すれば、MGM大阪への参画と同様に「少数株主」としての位置付けが想定され、巨額の資金負担は避けつつも観光・流通の拠点づくりに関与できる利点がある。財務的には万博効果による増収が後押しとなり、今後の投資余力を支える材料となっている。
沖縄でのテーマパーク出資や上本町再開発と並行して進められることで、近鉄の投資は鉄道依存から「輸送・観光・不動産の三本柱」へとシフトする姿が鮮明になっている。
夢洲での展開は単なる跡地利用にとどまらない。輸送手段としての鉄道が観光特急へ、観光拠点としてのIRが消費の場へ、そして上本町の再開発や沖縄での不動産事業が「街づくり」へとつながっていく。
フローチャートに沿って眺めると、近鉄が「鉄道会社」から「都市開発と観光の複合企業」へ転換していく流れが見えてくる。沿線利用者だけでなく、大阪を訪れる観光客や沖縄の観光需要まで取り込もうとする姿勢がうかがえる。
近鉄の夢洲戦略
| フェーズ | 主な施策 | 成果イメージ | 
|---|---|---|
| 万博前 | MGM大阪に少数株主として参画 | 観光基盤に接続 | 
| 万博期間 | 公式ストア出店・特急利用増 | 増収効果125億円超 | 
| 万博跡地 | 出資検討・直通列車導入 | 誘客施設として機能 | 
| 2030年秋 | IR開業+観光特急投入 | 輸送+体験価値 | 
| 28年度 | 上本町再開発公表 | 地域生活・商業複合 | 
近鉄が描く「輸送から街づくり」への転換
近鉄の動きは、鉄道事業を軸にしながらも観光・不動産へ領域を拡大していく「事業転換」の表れである。万博跡地はその象徴であり、IRや豪華観光列車との連動は、単なる沿線事業から全国規模での観光戦略への発展を意味する。
かつて近鉄は百貨店やホテルを通じて沿線価値を高めてきた。現在はそれを夢洲や沖縄、上本町といった沿線外に広げ、地域社会に根ざしつつも新しい需要を取り込もうとしている。輸送と消費、生活と観光をつなぐこの取り組みは、鉄道会社の将来像を提示する試みとも言える。
FAQ
Q1:近鉄が夢洲で直接運営する施設はある?
A:現時点では未定。若井社長は「出資の可能性」に言及した段階で、具体的な施設運営計画は示されていない。
Q2:夢洲直通列車はいつから運行される?
A:2030年秋のIR開業に合わせて導入を目指している。
Q3:万博跡地とIRはどのように違うのか?
A:IRはカジノを含む統合型リゾートであり、跡地には商業施設や公園など多様な施設が想定されている。
Q4:上本町再開発の内容は?
A:商業施設や住宅、ホテル、オフィスを複合的に備える街づくりを計画しており、25年度中に方向性を示し、28年度までに詳細が公表される予定。
Q5:沖縄での事業展開は夢洲とどう関係する?
A:どちらも「沿線外戦略」の一環。沖縄では地元企業と組んでホテルや不動産事業を進めており、夢洲と同じく観光拡大を狙っている。
