スター・ウォーズのような「二つの太陽」が現実に存在する?英バーミンガム大学が観測した惑星「2M1510(AB)b」は、連星を垂直に近い軌道で周回し、恒星も揺れ動くという“異常構造”を示す。科学が証明した幻想的世界とは。
スターウォーズの惑星
タトゥイーン実在か⁉︎
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映画の中の“タトゥイーン”が現実に?──観測史上最も奇妙な惑星運動が記録される
二つの太陽が空に輝き、惑星がその周囲を不思議な軌道で回る。
そんなSFの世界が、いま科学によって裏付けられようとしている。
英研究チームが観測した「2M1510(AB)b」は、従来の物理モデルでは説明できない動きを見せた“史上最も奇妙な惑星”だ。
果たして、そこに働く“フォース”とは何か──。
この惑星はなぜ話題になった?
どこで・いつ発見されたのか?
地球から約120光年先、てんびん座の方向に、奇妙な運動を見せる系外惑星が存在している可能性が確認された。
その惑星は「2M1510(AB)b」と命名され、英バーミンガム大学のトーマス・ベイクロフト氏らによる観測チームが、南米チリに位置する欧州南天天文台(ESO)の大型望遠鏡VLTを用いて、詳細な測定を行った。
もともとこの惑星系は2018年に連星系として認識されていたが、近年のデータ再解析により、「その外周に、垂直に近い軌道で周回する惑星が存在する可能性」が浮かび上がってきた。
研究結果は2025年4月、科学誌「Science Advances」に掲載された。
何が「奇妙」なのか?
一般的な惑星系では、惑星は恒星の赤道面にほぼ一致する平面上を公転する。
しかし、「2M1510(AB)b」の場合、その軌道傾斜角は約90度、すなわち垂直に近い軌道を取っている可能性が極めて高いとされる。
さらに、この惑星を構成する二つの恒星(褐色矮星)もまた、互いの軌道角が安定しておらず、緩やかに揺れ続けていることが確認された。
つまり、恒星も惑星も、物理モデルにおける“標準的な軌道構成”から外れている。こうした複層的な軌道のずれは、観測史上でも前例がなく、研究者らは「互いの重力干渉による共鳴系の形成」と推定している。
この現象が示すのは、宇宙がもつ力学的多様性そのものであり、構造美と異常性が奇妙な均衡のもとに存在しているという事実である。
SF映画『スター・ウォーズ』の中で、二つの夕日が沈む惑星「タトゥイーン」は、観客に強烈な視覚的印象を与えた。
現実においても、今回の惑星の観測結果は、そのような光景が物理的に成立する可能性を示唆している。
この連星は褐色矮星であり、太陽のように明るく照らすことはない。
しかし、昼間でも「月光の約2倍に相当する光量」が惑星に降り注ぐとされ、その様相はどこか静謐で幻想的だ。
研究者は「二つの恒星の動きは、地表から観測すれば、ダンスのように見えるだろう」と述べている。
| 比較軸 | タトゥイーン(映画) | 2M1510(AB)b(現実) |
|---|---|---|
| 恒星の数 | 2つ(黄白色) | 2つ(褐色矮星) |
| 観測方法 | フィクション | VLT+GAIA観測/摂動解析 |
| 公転軌道 | 通常の平面軌道 | およそ垂直に近い軌道+軌道角の変化 |
| 明るさ | 青空の下の太陽光 | 月光の2倍程度(明暗差あり) |
どんな「フォース」が働いているのか?
この惑星系における軌道構造は、単なる奇抜さにとどまらず、「惑星誕生と進化の普遍モデル」に対する重大な問いを投げかける。
従来、惑星系は一つの星を中心とし、同一平面内で形成されることが多いと考えられてきた。これは、原始星雲が回転しながら収縮する過程で、角運動量保存の原理によって自然と一つの回転平面が形成されるためである。
ところが今回のように、恒星同士の公転面が変化し、その外周を異なる角度から惑星が周回する構造が成り立つということは、形成時に強い外力やカオス的な相互作用が介在していた可能性を示唆する。
これまでの「静的な形成モデル」はもはや不完全であり、惑星系の成立過程には非対称性・時間依存性・多体干渉といった動的要因が不可避であることを、今回の発見は示している。
また、恒星の軌道角が変動し続けているという事実は、「連星系における長期安定性の条件」そのものを見直す必要があることを意味する。
つまりこの惑星は、宇宙の“構造の揺らぎ”がどのように時間と共に進化するか、その“動的な設計図”の一端を暴いているのかもしれない。
研究チームはどう仮説を立てた?
恒星の軌道に周期的な揺らぎが見られたことで、研究者は「未観測の重力源」の存在を仮定した。
このゆらぎが、既知の重力モデルや恒星間の単独干渉では説明できない点から、外周に傾斜軌道を持つ惑星が存在するという新たな仮説に至った。
摂動解析により、この仮説は数理的に支持され、惑星は直接観測されていないながらも、その“存在の痕跡”を恒星の動きから検出するという新しい手法の成功例となった。
これは、観測不能な存在を“動的な周囲の変化”から論理的に証明するという、物理学の本質に迫る成果でもある。
今後の観測で何がわかるのか?
この惑星が今後、スペクトル解析や次世代望遠鏡で直接観測されれば、質量・半径・公転周期など、詳細な物理パラメータが確定する見込みだ。
ただし、現時点では未観測であり、全情報は摂動モデルと解析結果に基づくものである(調査中)。
この特異な力学構造は、重力場における三体・四体問題の再定式化にも貢献しうるとされ、将来的には多体系シミュレーションの実証データとしても活用される可能性がある。
この構造が示すのは、従来の単純なケプラー軌道では説明しきれない「動的安定性の限界」である。
その非線形性は、重力相互作用の複雑さを浮き彫りにしており、学術的には「ラプラス共鳴」や「交差共鳴」構造との関連も指摘されている。
また、形成初期における原始星雲の不均衡な収縮や乱流が、現在の軌道傾斜を生み出した可能性も論じられており、惑星系の誕生モデルそのものを揺るがす視座を提供している。
▶ 惑星2M1510(AB)bの奇妙な動きの発見フロー
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2018年:2つの褐色矮星からなる連星が発見
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2024〜2025年:恒星軌道の周期的揺らぎを検出
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原因不明 → 未観測惑星による摂動を仮定
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仮説モデルを解析 → 垂直軌道の存在で整合
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連星の公転異常と惑星の重力が一致
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惑星の存在が重力構造から間接証明される
| ✅ 見出し | 要点 |
|---|---|
| ▶ 話題性の源は? | “タトゥイーン的構造”が現実に存在 |
| ▶ 何が特異だった? | 惑星と恒星が“異常軌道”を取っていた |
| ▶ 仮説の根拠は? | 恒星の揺れと摂動解析の一致 |
| ▶ 今後の焦点は? | 質量・周期の直接測定(現在は調査中) |
この発見は、観測可能な宇宙が“既知”の領域にとどまっていないことを端的に示している。
一見、整然として見える天体の動きの背後にも、無数の交差と干渉が存在しうる──その構造を解読するのが、現代の天文学なのだ。
ありえない構造に、美しさは宿るか
この宇宙には、たぶん、説明を拒む構造がある。
二つの恒星が揺れ、惑星がそれを対角に切り裂いて回る。
誰が設計したわけでもない動きが、偶然という名の必然で成立している。
人間の論理では説明できない美しさが、ここには確かに存在する──それが科学の詩だ。
❓ FAQ
Q1:この惑星は肉眼で見えますか?
→ いいえ。褐色矮星かつ距離も遠く、望遠鏡による間接観測が必要です。
Q2:生命の存在可能性は?
→ 恒星の放射が弱いため、地表温度や条件的に可能性は非常に低いと考えられます。
Q3:タトゥイーンとの違いは?
→ 恒星の種類(褐色矮星)と光量、軌道傾斜が異なります。
Q4:惑星は観測されたのですか?
→ まだ直接観測はされておらず、重力摂動によりその存在が示唆されている段階です。